第四章 18





 








 リリと夢の少女が重なる。

 「は、離して。何をするの!」

 抱きしめた私から逃れようとじたばた動くリリ。それでも私はリリを離さない。

 ここで彼女を絶対離したらダメだ。

 「いや。」

 「私はお前なんか嫌いなの。やめて!」

 そうやってトゲトゲをだして、あなたは今まで自分を作ってきたんだね。

 「いや、止めない。私はリリが好きだもの。」

 嫌がるリリを抱きしめる力を強め、言葉を続ける。

 「リリが私のこと嫌いでも私はリリが好き。

 あなたが私を看病してくれたことや優しくしてくれたことちゃんと覚えてるよ?

 傷が痛いのは辛いねって言ってくれたじゃない。辛いときは一人でいたくないよねって

 そういって私のそばにずっといてくれたじゃない。

 私、リリは本当は優しいこと、寂しがりなこと知ってるよ?

 私をだますつもりで優しくしたんだろうけど、それでもあなたの気持ちはあたたかかったよ。

 あなたとはほんの数日しか一緒にいなかったけど、

 ちゃんと伝わったよ?」

 一人が寂しくって寂しくってでもそれを口にすることがこわくって。

 だけど、誰よりも人の温かさを求めていた。
 
 東の魔女は恐ろしいくて冷酷な魔女なんかじゃない。

 そう見せかけていただけだった。
 
 




 「リリ、あなたは一人じゃないよ。」


 

 

 

 リリは大きく瞳を見開いて、黙っている。



  


 「もう一人じゃない。だからもうこんな事はやめよう。」

 「何を言ってるの?バカじゃないの?」

 私の言葉にイヤイヤと横に首を振りながら逃げようとする。

 「私の何がわかっているというの。

 のうのうと向こうの世界で育って、こっちの世界でもちやほやされたあんたなんかに

 私の何がわかるって言うのよ!」

 腹の奥からの叫びだった。

 リリは生まれて初めて本音を叫んだ。

 「わからないよ。今まで何も話してこなかったんだもの。

 だからこそわからないから、話してほしい。

 辛かったこととか、悲しかったこととか。

 なんでもいい。どんな些細なことでもいい。

 私、あなたの言葉、ちゃんと聞くから。

 一つ一つ大事に話を聞くから。」

 あたたかく抱きしめて話したその言葉は、リリの心をゆっくりと溶かしていった。






 「私はリリの手を離したりしないよ。約束する。」






 リリの心の氷は、大粒の涙と一緒に溶けていった。

 
 





 
 







 

 




  









    






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