第四章 7





  


 「ニコ。私、記憶とりもどすから。」

 そう断言してすくっと立つ。

 今、私に出来ること。

 記憶を取り戻すこと。
 
 泣いて震えることじゃない。

 ちゃんと自分のことは自分で解決すべきなんだ。

 「記憶取り戻すって・・・・どうやって?

 まだ体も元に戻ってないのに・・・・。」

 ロンが心配そうに私の両肩をつかんで言った。

 「ニコ、さっきリリは記憶を集めるって言ったよね。何かに集めてるの?

 それを取り戻したら私の記憶は取り戻せる?」

 「それはそうだけど・・・。何に集めているのか本人しか知らないの。
 
 予想すら出来ない。」

 やっぱりそうか。

 じゃあ、どうにかしてそれをみつければ・・・・。

 「それ、多分『鏡』じゃないかな。」

 アラン王子の思いがけない言葉に一同振り向く。

 「多分、自分の記憶が正しければ。

 それはスターター国のあらゆる人の記憶を集めているんだ。

 クーデターを起こそうとした人たちの記憶を集めて、
 
 なんでクーデターを起こすのか、誰と起こすのか、重要な記憶を

 全部その中に取り入れたんだ。」

 まるで見てきたようにアラン王子が言う。

 私の気持ちを読み取ったのか、苦笑いをした。

 「見てきたんだ。あの頃は、あいつや国王が何をしてもどうでもよかったから。

 目の前で起こっていることに関心がなかったんだ。

 情けないことに・・・・・・・・。」

 下を向いて握りこぶしに力が入る。

 その頃の自分に後悔をしてるの?

 「でも、それは昔のアラン王子でしょ?

 今は私やロンを助けてくれた。愛する人のために必死に頑張っている。

 だから、あなたは変われたんだよ。」

 「変われた?」

 「うん。昔のことを後悔して、それをどうにかしようと努力した結果、

 あなたはここにいる。」

 そう、何もしなかった自分がいやで、きっと国のために頑張っている人に

 惹かれていったんだと思う。

 あこがれもあるだろう。

 そんな彼女の近づきたくて必死に頑張って、私やロンを助けてくれた。

 「もう、昔のアラン王子とは違うんだよ。今じゃいろいろ干渉してくる仲間もいる。
  
 どうでもいいなんていう感情、ないでしょ?」

 にっこりと笑ったら、アラン王子は泣きそうな顔をして、

 「ありがとう・・・。」

 とつぶやいた。

 「さ、私の記憶のありかがわかったんだから取りに行かなくちゃね。」

 「ヒナタ、また行く気か!」

 それを許さんとばかりにロンが私に怒鳴った。
 
 「え、だって私の記憶だもん。」

 当たり前でしょ?って顔をしたらはぁっとため息吐かれた。

 「そうだけど・・・・・。」

 ロンが説得をしようとしたとき、バタバタバタと焦って誰かが走ってきた。

 ノックの音とともにゼフさんが入ってくる。
 
 ゼフさんもう復帰したんだ。よかった、元気そう。

 なんてのんきなことを考えていたのに思いもよらないセリフが

 ゼフさんの口から飛び出した。

 「陛下、大変な事態になりました。」

 普段、落ち着いてそうな彼が真っ青になっている。

 「何事ですか?ここにいるものに隠し事はないのでそのまま申していいですよ。」

 国王の表情になったロンが私から離れてゼフさんの話を聞きに言った。

 「先ほど、スターター国にいるものから連絡が入りました。
 
 軍隊を率いてこの国に戦争を仕掛けるためにこちらに向い始めたとのことです。」

 軍隊?なんで?

 「理由は、アラン王子を誘拐されたため、奪回に行くことが目的と申しておりました。

 軍隊の数ははっきりしておりませんがかなりの数かと。」

 「誘拐って・・・。そんなひどい。」

 「言い訳はなんとでもつくさ。それには俺もアラン王子も予想はついていた。

 問題はその時期だったんだけど、意外と早かったな。」

 手を口に持ってきて考え込む。

 「陛下、こちらの用意はいつでも出来ておりますが。」

 いつの間にかこの部屋に来ていたロールはロンの側にいってなにやら書類や地図を持ってきた。

 戦争の準備が出来ていたの?

 戦争は避けるんじゃなかったの?

 「ヒナタ。」

 まだ国王の表情のロンは私を呼んだ。

 「予想はしていたけど多分これは避けられないことなんだ。

 だから被害が少なくてすむような戦術をいくつか考えている。

 スターター国の国民には罪はないからなるべく傷をつけないように

 戦うつもりだ。」

 ロンなりにいっぱい考えて被害の少ない戦争をしようとしてるんだ。

 その気持ちは痛いほどわかる。

 だけど。

 「ヒナタが争うことが嫌いなこともわかってる。だけど、これはチャンスと考えられないか?」

 チャンス?

 ロンが言いたいことがわからない。

 「戦争になるとどうしても王宮内は手薄になる。

 しかも、そっちに気がとられて国内もいろんな動きが出てくるだろう。

 もし動きがなくてもクーデター派と連絡取ってるのだから、

 彼らとともに記憶を取り戻しに行くことが可能になってくる。」

 あ、そうだ。記憶を取り戻したいのは私だけじゃない。

 国内にも記憶を取り戻したい人たちがいるんだ。

 「アランがこっちに来た時点でこうなることが予想されていたから

 すぐにでも戦争に応戦できる。だから被害が少なくすむ。

 その分、記憶を取り戻すために労力を使えるから。

 だから・・・、ヒナタはここにいてほしい。」

 



 ロンの言葉にどうしても首を立てにふることが出来なかった。

 




 

 




  









    






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