第四章 6





  




 体が白い光に包まれる。

 まるで他人事のように呆然と眺めている私。

 光はだんだん強くなり思わず目を細める。

 周りを見渡すとみんなが叫んでいる。

 ここから離れてしまう?

 もう、ここにはこれなくなる?

 何かにすがろうとして手を差し伸べた。

 急に力強いものに手を引かれた。

 そして抱きしめられた。

 ロン・・・・・・。


 





 光は徐々に収まりあたりは静かになる。

 聞えるのは窓の外の鳥のさえずりだけ。

 頭の上のほうでため息が聞えた。

 「よかった・・・・。ヒナタが向こうに行くかと思った・・・・・。」

 ロンの声を聞いて急に安心したのかガタガタ体が震えて座り込んだ。
 
 「こ、こわかったぁ。」

 よしよしと頭を撫でながらまた力強く抱きしめられた。

 「うん、怖かった。ヒナタがいなくなると俺も怖い。」

 なんで、なんで急にこんなことに。

 「大丈夫?」

 ニコとカイが心配そうな顔をして近寄ってきた。

 「ロンが引っ張ってくれたから。どこかに行くかと思った。」

 どうにかうなずきながらこう答えるのがやっとだった。

 「私ももとの世界に帰るかと思った。よかった、陛下が来てくれて。」

 あの時、ロンが来てくれなかったら私は元の世界に帰ったのだろうか。

 元の世界・・・・・・・・。

 私はどこから来た?

 さっき何も思い出せなくなってきていることを感じ始めたら急に光に包まれた。

 手のひらにじわりじわりと汗が湧き出てくる。

 さっきのどうしようもない不安がまた浮き上がって胃の辺りが重くなってくる。

 真っ青になって下を向いた。

 「どうした?ヒナタ。」

 「ロン、ロン・・・・・。」

 ガタガタと震えだした私を慌てて覗き込んだ。

 「どうしたの?どこか痛いの?」

 大きく首を振ってロンにしがみついた。

 「落ち着いて、ヒナタ。大丈夫、オレがついてるから。」

 「・・・だせないの・・・。」

 「え?」

 やっと出た小さな声は、届かなかった。

 私を心配そうに覗き込むロン。

 私は、彼も忘れてしまうのだろうか。

 ここにいるみんなも忘れてしまうのだろうか。

 ここ温かい国のみんなも。

 何もかも。

 「ヒナタ。」

 やさしいロンの声を聞くとせつなくなって涙が出てくる。

 急にボロボロと涙が出てきて止まらなくなる。

 どうしたらいい?

 どうしたら・・・・・。

 「ヒナ、もしかして記憶が薄れてきてる?」

 振り返ると、アラン王子が真剣な表情で立っていた。

 「ど・・・うして・・。」

 やっぱりか、とため息をつきながら頭をガシガシとかいた。

 「カイにあんな毒を盛ったわりには簡単にばれたから。

 きっとすぐにばれることも計算してたと思う。

 だから、あいつの性格上、保険をかけてたと思ったんだ。」
 
 保険・・?。

 「リリは・・、東の魔女は人の記憶を操ることができるの。

 魔法を扱うものとしてそれは禁忌なんだけど、彼女はその能力にたけていたの。

 カイに仕掛けられた罠は二重にかけてあってね、

 あなたの記憶を少しずつ集められていたの。

 私、予想はしてたのに止められなかった・・・・・・。

 ごめん、ごめんね、ヒナタ。」

 ニコは私と同じぐらいにぼろぼろと涙をこぼした。

 眼鏡も涙で汚れてしまってひどいありさまだった。

 何も悪くないのに。

 一生懸命に私に忘れないように声をかけてくれたのに。

 




 ニコがあんな顔をするなんて。

 いつも私を励ましてくれてまもってくれているのに。

 私は彼女に心配かけてただ泣くだけ?

 私に出来ることって泣くことだけなの?

 



 
 そんなのいやだ。

 にげちゃうんなんていやだ。

 ただ泣くだけなら誰だって出来る。

 泣くためにここに来たんじゃない。
 
 記憶を無くしたのもきっとなにか理由があるんだ。

 それを見つけ出して私が出来ることを見つけることが先なんだと思う。

 自分の中で答えが出ると、人間強くなれる。

 たとえからだが思うように動かなくても強くなれる。

 さっきまで力が抜けて思うように立てなかった手も足も

 自然と力が入る。

 今、私に出来ること。

 逃げずに立つことだ。

 

 










 




 

 

 





  









    






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