第四章 4
「カ・・・イ。」
ヒナタにそう呼ばれ、ビクッとする。
「カ・・イ。」
もう一度呼ばれるもカイは首を振りながら後ずさりする。
ヒナタを守っていたつもりでいたのに、
一番の被害を与えていたのが自分だなんて。
誰よりも自分を恐れず、歩み寄ってきてくれた大事な大事な人間が、
自分の手によって命を落とそうとしているとはカイは思っても見なかった。
カイの中で黒い恐怖がまた湧きあがろうとしていた。
また・・・・同じだ。
ここも自分の居場所はないんだ。
グッと両目をつぶる。
『ヒナタ、ごめん。ヒナタを守ってるつもりで苦しめていたなんて・・・。』
一歩一歩後ずさりする、カイ。
「そんなことないよ、私、カイに側にいてもらって元気もらったよ。」
それは嘘ではなかった。
いつもいつもカイが守るように側にいてくれてどんなに心強かったか。
『ううん。側にいちゃいけなかったんだ。』
「違う、そんなことない。原因がわかったんだから、何かいい方法があるはず。
だから、逃げないで!」
しゃべるのもやっとなヒナタはカイに向かって叫んでいた。
そして、一歩一歩カイのもとへ近寄った。
「私に出来ることならなんでもする。
私に出来ないことならここにいるみんなが何とかしてくれる。
自分一人で抱え込まないで。
一人じゃないんだよ。
みんないるんだよ。
一人でいることになれないで!そんなこと、なれちゃいけない!」
最後まで言い切るとヒナタは崩れ落ちた。
「ヒナタ!」
みな、ヒナタの元に駆け寄って支えようとした。
「だ、大丈夫。」
なんとか、ロンに支えられてヒナタは立ち上がった。
立ち上がったものの、顔色が悪く息もかなり速い。
多分、ここにいることが精一杯なのだろう。
ギュッと腰を支えていた手に力が入った。
「カイ、ヒナタが言うとおりだ。俺達はカイを追いつめるためにここに呼んだんじゃない。
カイとヒナタを治すために呼んだんだ。
カイに真実を告げたのは、追い出すためじゃなく、
きちんと治療に協力してもらうためなんだ。」
ロンは、カイの目を真剣に見つめた。
カイがどんなにヒナタを大切に思っているか俺はわかっている。そう訴えた。
『でも・・・。』
「でもじゃない!私はカイに側にいてほしい。大事な友達だもん。
カイだって逆の立場だったら私にそう言ってくれるでしょ?」
自然と流れた涙をヒナタはぬぐうことなくそのまま続けた。
「せっかく友達になったのにどうして去っていこうとするの?
ここをさっても何も解決しないんだよ。
一人で苦しむだけなんだよ。
私はカイが一人で悲しんで、苦しむのは嫌だ。
苦しむなら、一緒に苦しみたい。
逃げないで、一緒に頑張ろうよ。ね。」
ヒナタはとても綺麗な笑顔で手を差し伸べていた。
一人になれちゃいけない・・・。
一緒に苦しみたい・・・。
逃げないで、一緒に頑張ろう・・・・・。
今まで、自分にこんなふうに言ってくれたものはいなかった。
まして、自分のほうが死にそうなのに、
自分以外のものばかり心配して、
無茶ばかりする。
まだ、こんなに小さな少女なのに、
心は深くて広い。
今まで動物はおろか、人間を信じるなんてありえなかった。
ヒナタに出会えてやっと暖かいという気持ちを知った。
誰かを守りたいという感情を持った。
そして、逃げちゃダメだと教わった。
カイはゆっくりとヒナタの側に歩み寄って、
差し伸べられた手に自分の頭を摺り寄せた。