第四章 3





  



 暖かい日差しの中、縁側には私とお父さん。

 二人でゆっくりお茶を飲んでいる。

 「いい天気だね〜、日向。」

 「いい天気だねぇ〜、お父さん。」

 いつもこんなふうに日向ぼっこをしていた。

 「日向ぼっこしてるとさ、幸せな気分になるよね〜。」

 「ほんとだねぇ〜。」

 私のつぶやきにお父さんが目を細めながらうなずく。

 なんだか、眠そう。

 「なぁにやってるの?二人して。老人夫婦みたいよ。」

 後ろで仁王立ちしていたお母さんがため息混じりに言う。

 「だぁって、気持ちいいんだもん。お母さんも一緒にどう?」

 「お母さんがそんなことしてたら、家の中はどうなるの?

 さあ、どいてどいて。お布団入れるんだから。」

 ドスドスと音を立てて私達の間を通り布団を取り入れに行った。

 確かに家中の人間がこんなにのんびりしていたら大変なことになるだろう。

 「でも、たまには休めばいいのに・・・・。」

 「お母さんはゆっくりしたくてもできない性分なんだよ。」

 どこか、のんきそうにお父さんは言う。

 そうなんだよね、私が見ているときお母さんはいつも動いている。

 私はどっちかというとお父さん似で、のんびりしているって言われることが多い。

 「わたしゃ、お父さん似だね。」

 「はは、オレは日向ぼっこが一番好きなのさ。だからお前の名前も『日向』にしたんだぞ。」

 「え〜。そんな簡単な理由なの?」
 
 なんだかがっかり。のー天気なお父さんでもさすがにもっと考えてくれてるのかと信じてたのに・・・。

 「何いってるんだよ。日向ぼっこはな、どんな人間でも優しくなって幸せな気分にしてくれる、
 
 すごいことなんだぞー。」

 そんな、40過ぎたおじさんが、日向ぼっこを力説されても困るから。

 「あ、ばかにしたなー。」

 そういって頭をぐしゃぐしゃにしてくる。

 「ちょっと、やめてよー。セットが乱れる〜。」

 「小娘のくせになにがセットじゃ〜。」

 抗議したら一段とひどくされた。

 「おかーさーん。たすけて〜。」

 泣くフリをしながらお母さんの元にかけよる。

 「なに?私のかわいい娘をいじめるやつはだれじゃ?」

 「ふっふっふっ〜、見つかっちゃーしょうがない。」

 気付けば二人はじゃれあって、技の出し合いをしていた。

 もう、仲がいいんだから。

 そんな二人を縁側に座って眺めるのがとても好きだった。

 いつまでもいつまでもそんな風景を見ていられると思っていた・・・・・・・。

 大好きな二人の顔がだんだんとぼやけていく。

 あれ、おとうさんとおかあさんの顔って・・・・・。





 目が覚めると、見慣れた天井だった。

 涙・・・・・。

 涙が流れているのがわかる。

 久しぶりにお父さん達の夢を見たからかな。

 両手で顔を覆って夢の余韻に浸った。

 もう慣れたと思っていたのに、夢で見るとまだ辛い。

 強くならなくちゃ。

 いつものようにそう言い聞かせてふと周りを見回した。

 

 誰もいない。

 カイもいないなんて、おかしい。

 最近、目が覚めると誰かが側にいてくれて微笑んでくれた。

 一人になれていた私にはちょっとはずかしかったけど、とてもうれしかった。

 自分は一人じゃないって安心した。
 
 「何かあったのかな?」

 急に一人にされると不安になる。

 一人でようやく起き上がりベッドの脇に座る。

 これだけでも息が上がってしまうなんて、情けない。

 壁伝いにどうにかドアのところまで歩いていった。

 「ふぅ。」

 ここで休憩してドアを開けたが誰もいない。

 「?夜、じゃないよね。」

 外には燦々と太陽が昇っている。

 長い長い廊下を見渡しても誰もいない。

 「ロンの部屋かな?」

 はぁはぁと肩で息をしながらゆっくりとロンの部屋を目指した。








 「原因がわかったのか?どういうことなんだ?」

 「まだなんともいえませんが、一つだけ考えられることが。」

 「一つ?」

 こくんとうなずいて、部屋のそとにいたニコを呼んだ。

 ニコはなにやら黄色い紙をもっていた。

 「これは?」

 「これは、ある毒物に反応する試験紙を私が作ったものです。液体などの毒物を

 この紙に浸すと色が赤に変わるのです。

 これをカイに舐めてもらいます。」

 思ってもいないことを言い出したニコにロンは何も言えなかった。

 「昔、ある書物で動物には害も何も無いが、人間には毒となる植物を見たことがあります。

 その植物はスターター国の高山地方にしか生えておらず、

 最近は絶滅しているときいたことがあります。なので最近の医師はしらない毒かと。」

 「その毒をどうして・・・。はっ」

 ロンが思い立ったようにニコを見つめた。

 ニコはゆっくりとうなずくと話を続けた。

 「多分、カイの唾液からヒナタの皮膚に浸透されたものかと。

 カイはヒナタだけに心を許しているので、ヒナタしか舐めたりしてません。
 
 舐められてところから毒がゆっくりと体内に入りこんだと考えたのですが。」

 あんなに心配しているカイがわざと自分の体内にある毒をヒナタにやってるとは思えない。

 動物は、嘘がつけないのだ。

 ほとんど、自分もあまり眠らずずっと守っているカイの仕業じゃない。
 
 という事は、東の魔女が計画的にやったとしか思えない。

 「あいつはここまで読んでたというのか!」

 ロンは怒りをあらわにした。

 「ヒナタがカイを連れて帰ることも、

 カイがヒナタにしかなつかないともずべてあいつの考えどおりなのか!」

 あまりにも残酷すぎる。

 罪も無い動物を使って、
 
 しかもやっと心を許される人間とあったというのに自分のせいでその人間が死にそうだと聞けば、

 どんなに悲しむか・・・。

 「とにかく、カイを説得してヒナタに気付かれないようにここに連れて試してみないと。

 毒がわかればヒナタの治療に入れます。」
 
 「わかった。オレがカイと話をする。」

 ロンは、ヒナタの部屋に走って行った。

 部屋では、ヒナタは眠ったままで、カイが心配そうにヒナタを見つめていた。

 「カイ。」

 ロンがそう呼ぶと顔だけこちらを見る。

 「カイに大事な話があるんだ。ヒナタに関わることなんだ。一緒に来てくれないかな。」
 
 カイは、ロンの真剣な表情を見て、付いていくことにした。

 部屋についてカイの目の前に紙を出し、

 「これを少し舐めてくれないか?」

 そういわれ、不思議そうな顔をする。

 「毒とかじゃないから安心して。」

 ニコがカイにそう言うと、ぺろりと一舐めした。

 紙は舐められた部分のみが紅い色に染まった。

 それは、血のように真っ赤にそまった。
 
 ニコはそのしみを見て、涙を流した。

 「カイ、大事な話があるんだ。いい?」

 ロンがカイの前に立ち、ゆっくりと話す。

 「君の体内に人間にとって毒となるものが流れてるんだ。

 それがヒナタの体内に入ってしまって彼女は・・・。」

 ガタリ。

 後ろにあるドアが開く。

 ドアにはコーナンに支えられた日向が、真っ青な顔で立っていた。

 
 





 




 

 

 





  









    






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