第四章 5





  





 最近、ふと不安になる。

 私が私じゃなくなるようで。

 大事なものがなくなるようで。

 それがなんなのかわからない。

 だけど、不安だけが大きくなってくる。





 

 真っ黒いフードをかぶった一人の女性が、鏡を覗きながらつぶやく。

 「くっ、またしてもあの小娘、邪魔しよって。

 私からアラン王子を奪って、まだ邪魔をするつもり?」

 イライラしながら親指の爪をかむ。

 だいたい、フォレット国の国王とくっついたはずなのになんでアラン王子を連れて行くのよ。

 彼はこの国の第一王子で、この国の王となるお方なのに。

 「殺そうとしても、殺そうとしてもなかなか死なない。

 これも予言の少女だから?」

 バンっと手元にあった本を壁に投げつける。

 何度も何度も殺そうとしたのにどうしてこうも邪魔が入るのか。

 まったく異世界の人間ってどうしてあんなにしぶといのかしら。

 「もう、イライラする!」

 そう叫ぶと後ろにおいてあったコップが粉々になる。

 娘が野獣と仲良くなることは想定内だった。

 だから、あの娘達が来る前から、野獣に人間にだけ効く毒を盛った。

 あの国の人間の誰でもいいから毒に犯されるように。

 そしてあの娘がまんまと罠にかかって倒れた。

 そのまま死ぬかと思ったけど、あっちにはアラン王子や西の魔女がいるからすぐにばれた。

 でも・・・・・・。 

 あの薬には失敗したけど、もうひとつの保険でかけといた薬はそろそろ効いくるはず。

 そうすれば、必然的にあの娘はこっちにいれなくなる。

 クスリと優雅に笑うと、フードをふさりととる。そして、中から見事な金髪を出して髪を整える。

 あの娘がこの世界からいなくなれば、きっと・・・・・。











 

 「カイ。この実は食べた?」

 ニコとカイが本を開いてにらめっこしていた。

 ニコのおかげで私は体の調子もだいぶよくなり、今ではすんなり起き上がれるようになった。

 気分がいいから散歩にでも行きたいところだが、

 みんなに反対された。
 
 みんな、過保護なんだから。

 運動してるから、体力には自信があるんだけどなぁ。

 ブツブツ文句言っていたら、一番過保護な人が怖い顔して立っていた。

 「ヒナタ、君がもう一度倒れたらオレはもう仕事しないから。

 仕事しないでずっとヒナタを見張ってるから。」
 
 そんな脅しをかけられたら、仕方なくおとなしくするしかなかった。

 どう言ったら私がおとなしくなるってわかってるから悔しいなあ。

 だけど、すっかり落ち込んでいた私にみんなが気をつかって、

 いろんなことを私の部屋でするようになった。

 ニコとカイはここで何を食べさせられたのかわざわざ本を持ってきて解明している。

 ベルはお昼ね。

 ハリーは読書。

 ロンはたまにさぼりにきて、ロールに連れて行かれる。

 そのロールの愚痴を聞かされてたまらんとコーナンが剣の手入れをしながらまた愚痴っていた。

 ちっともゆっくりできないけど、みんなの顔が見れるから精神的にとても落ち着く。

 もともと一人ぼっちに慣れていたのに、こっちに来てみんなといることに慣れてしまった。

 一人ぼっちに慣れていた・・・・?

 あれ、どうして私、一人に慣れていたんだろう。

 ふと、不思議な感覚に包まれた。

 そういえば、私って家族いたんだっけ?

 今までどうやって向こうの世界で過ごしていたんだろう?

 


 


 私は、どうやってこの世界にやってきた?





 
 突然、頭が白くなってきた。

 深い霧が出てきたようで、いろんなことが思い出せない。

 辛いことも楽しいことも思い出せない。

 忘れたくない。

 忘れたくない。

 忘れたくない。

 忘れたくない ――――――――――― 








 突然、私は白い光に包まれた。












 




 

 

 





  









    






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