第三章 8





  



 


 「ガチャリ。」





 音のない地下室にはこの音が響いた。

 もう後に引けない。
 
 彼を助け出してひたすら突っ走るのみ。

 すうっと息を吸って一歩前に進んだ。

 中はとてもカビ臭くて空気が重かった。

 もちろん明かりもないからどうなっているのかわからない。

 「アラン王子、申しわけないけど明かりを・・・・・。」

 「動くな!!」

 中の人間が私の後ろに回り首に手をかけている。

 ああ、約束どおりネズミもどきさんたちが拘束そ外してくれてたんだね。

 これで、時間短縮になった。

 「何しに来た。アラン王子。」

 息を殺しながら静かに男が言う。

 私たちが敵だと思ってるんだよね。

 そうだよね、こんな光もないくらい所に数日間閉じ込められたら

 普通の精神状態ではいられないよね。たとえ、鍛えられた人であっても。

 それにアラン王子は敵国の王子。しかも長男で一番油断ならない相手。

 アラン王子が呪文を唱えて光が部屋中に灯った。

 「その子は、君を助けに来たんだよ。」

 アラン王子、そんなにこやかにいってもきっと疑うって。

 「あの・・・。手を離していただけませんか。」

 「お前何者だ!!」

 うう〜。こんなことしてる時間ないのに。

 「ごめんなさい!!」

 そういって相手の手首を持ってぐっと身を屈め、腕をクロスさせて。

 相手はいとも簡単に宙を舞った。一応、首を打たないように手加減して。

 「お〜。さすがだね〜。ヒナ。」

 パチパチと手をたたく。

 倒れた男が呆然とつぶやく。

 「ヒナ?・・・・・。君は・・・・・。」

 「手っ取り早く自己紹介を。菊池日向といいます。ロンと約束してあなたを助けに来ました。ゼフさんですよね。」

 男はびっくりしている。

 ああ、まさか女の子が助けに来ると思ってないだろうからね。

 『ヒナタ!親衛隊となにか大きなものが近づいてきてる!早く!!』

 足元に、ネズミさんらしき動物が駆け寄って私のジャージのすそを引っ張った。

 「大きなもの?」

 「もしかして・・・。やばい。ヒナ、ここを急いで出ないと。」

 飄々としていたアラン王子が苦々しい表情になっている。

 とにかく時間がない。

 「ゼフさん、説明は後。とにかくここを脱出しよう。」

 たった一つしかない出口に向かって走った。

 アラン王子、私、ゼフさんの順で細い細い階段を走った。

 螺旋階段になっており、正直しんどい。毎日体力つけてる私でさえしんどいのに

 さっきまで捕まってたゼフさんは。

 ああ、数メートル下で尽きてる!

 「アラン王子、待って!」

 何とか、彼の腕を私の肩に回して階段を上る。

 一メートル四方のおきな穴が見えてきた。地上だ。

 なんとか、上りきって廊下の銅像の影に3人で隠れる。

 ここで息を整えて。

 『しばらくここで隠れてて。僕たちが時間稼ぎしてくる。』

 数匹だったねずみもどきさんがいつの間にかなりの数になっていた。

 「お願いします。」

 深々と頭を下げる私にアラン王子とゼフさんはびっくりする。

 ここは彼らに任せよう。もうちょっとで日が昇る。

 そしたらきっとニコが・・・・。

 「ああ、彼らが少し時間稼ぎしてくれるって。

  ねえ、アラン王子。ここは位置的にどのへん?」

 「かなり良い位置に出てきたんだよ。あのね、あの先は玄関。ここは玄関前のホールね。」

 ええ?そんなところに出てたの?

 あまりにも、話がうますぎる。

 「ふふ〜ん。だから、僕がいたら安全だって言ったでしょ?」

 ウィンクしながら言う。ちょっと、寒いんですけど。

 王子ってもんはこんなものなのかね。

 「きゃぁ〜。な、なんだこれは!」

 向こうの方でたくさんの人たちの悲鳴が聞えた。

 ああ、彼らが助けてくれたんだね。

 「た、助けてくれ・・・。うわああああああああ!!」

 その悲鳴がだんだん悲壮なものに変わっていく。

 「な、なに・・・。」

 なんだか、嫌な気配がする。今までにない、殺意。

 「やっぱり来たか。ヒナ、急いで逃げよう。後もう少しだ。」

 来たって・・・。何が?

 アラン王子がゼフさんを担いでくれて彼に促されて急いで廊下を走った。

 50メートルほど走った時、頭の上を白い物体が越えていった。

 「くそっ」

 アラン王子らしくない悪態。

 思わず彼を見た。

 しかし、前の方からすごい気を感じた。そう、さっき感じた殺意。

 おそるおそる前を見る。

 




 私たちの目の前には馬ぐらい大きな白いヒョウによく似た野獣がいた。

 口元には血が滴り、

 四肢には一裂きで私が真っ二つになるほどの爪。

 そして、目は真っ赤に染まっていた。

 私の頭にはまさに絶体絶命という言葉が浮かんだ。

 その瞬間、その野獣は大きな体をゆっくりと動かした。

 外は朝日が昇り始めた。












 窓際に立ち、朝日を睨みつける。

 「やっぱりお休みになられませんでしたか。」

 後ろから、ロールが紅茶を持ってきた。

 ソーサーごと渡される。

 「ありがとう。」

 ゆっくりと受け取りそっと口をつける。

 「予定ではそろそろ王宮を出る頃ですね。」

 ロールも朝日を見つめる。

 大丈夫。きっと大丈夫。

 なんどこの言葉を心につぶやいたか。

 本当は彼女にあんなところに行ってほしくない。

 代われるものなら代わりたい。

 ・・・・・・・・・・。

 「ロン陛下。」

 ポンとオレの肩をたたいてくれるロール。

 オレの考えなんかお見通しか。

 「昼食会に間に合ってくだされば私は何も言いません。」

 そういってくれる。さすが。

 「ありがとう。」

 椅子にかけていたマントと剣を見につけ走った。

 今から行けば国境あたりまではいけるはず。

 はやる心を冷静になるよう深呼吸し馬に跨った。

 国王としてありえない行為だろうけど・・・・。

 ヒナタの顔を一目みたい。

 ヒナタの体温を肌で感じたい。

 ヒナタを抱きしめたい。

 その思いがオレを強く大きく動かすんだ。

 ヒナタ、たのむ、無事でいてくれ・・・・・・。。


 




 

 

 





  









    






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