第三章 7





  



 

 
 「どう?僕のお願い。」

 どうって、それしか私には選択がないんでしょうが。

 「鍵がないと無理だから君にはこの手しかないと思う。それに、安全だ。僕がいる限り。」

 彼の真剣な瞳をみつめる。この人を信じていいのもか。
 
 「裏切らないよ。信じて。」

 裏切られるのが怖くて人を信用しないより、

 人を信用して裏切られたほうがいい。

 どんな状況でも人を信じたい。

 「わかった。でもどうしてこの国をでてフォレットに行きたいの?」

 「ある人のため。」

 ある人・・・・。

 「そう、僕の愛してる人のため。その人のためにはフォレットの国に行って国王と話をしたいんだ。」

 「彼に何かをするの?」

 ロンに危険なことをするつもりなのか。それだったら許さない。

 「そんなことはしない。国王に力を借りたいんだ。多分僕一人で行っても信じてくれないだろう。

 ヒナを助けてヒナと一緒に行けば少しは話を聞いてくれると思うんだ。」

 無理やりじゃなく、話し合おうとするその姿勢。

 消してわるい人じゃないって信じられるような気がした。

 「じゃあ、行こう。」

 え、もうですか。

 行動がすばやいというか、切り替えが早いというか。
 
 「うん。じゃないと、やつに行動読まれちゃうよ。」
 
 「ヤツって?」

 「東の魔女、リリ。あいつ、今の時間だったら寝てるから。」

 寝てる・・・・。なんて、現実的な。

 「お肌に悪いからって。早寝なんだよ。だから、この時間に行動しないと。」

 そか、そうだよね。

 「わかった。じゃあ、行こう。」

 そういって部屋から出ようとすると首を捕まえられた。

 「あのねぇ、堂々とドアから出る人がいますか。

 こっちに秘密の抜け道があるからここから行くよ。」

 テーブルの下に小さなドアがありそこから階段が見えた。

 おおー、忍者屋敷みたい。

 アラン王子はその階段を下りていった。

 中は、真っ暗だったけど、王子がブツブツ呪文を唱えてくれたら歩く数メートル先まで

 明かりが灯るようになった。

 しばらく階段を下りていくと廊下にでた。

 その廊下は道が四つに分かれたり五つに分かれたりと

 かなりわかりにくくなっていた。

 「迷路みたい・・・・。」

 思わずつぶやく私に、

 「ちゃんとついてきてよ。ここは、賊が入り込んできても抜けれないように、

 わざとわかりにくくなってるんだ。

 この道を全部覚えてるのは僕ぐらいだ。後の王族のみんなは地図見ないと歩けないね。」

 こわ〜。おっかないなぁ。この国は。

 「どこの国もこんな道あるの?」

 「いいや、多分この国ぐらいじゃない?国王はなんせビビリだから、こんなことしないと

 毎日が怖くて仕方がないんだ。それに地下だけじゃないよ。

 王宮内にもいろんな仕掛けがあるんだ。あ、そこ、気をつけてね。」
 
 アラン王子に指されたところはわかりにくいけど石が出っ張っていた。

 「それ踏むと大量の水が押し寄せてくるから。」

 笑顔で言わないでほしい。そんな怖いこと。

 どうもあちこちに仕掛けがあって、ひとりじゃとても生きて出られそうにない。

 「大丈夫。僕から離れなければ安全だから。さ、早く行こう。」
 
 促されてどんどん先に進んだ。

 一時間ほど歩いてある光が漏れているドアにたどり着いた。

 「しぃ。ここからは話したらだめだよ。」

 そう言って彼はその光のほうへ様子を見に行った。

 私もその後についていく。

 ドアに耳をつけて音を探る。

 中では男が一人座っていた。ひょろひょろした男の人で

 一応甲冑をつけている。腰には刀らしきものが見える。

 あのくらいの人なら大丈夫かな。

 アラン王子をとんとんと指先でたたくと自分を指してそのあと見張りの男を指した。

 びっくりしていたけど、うなずいた。

 足元になんか落ちてないかな・・・・。あ、石発見。

 それを拾ってドアをこっそり開けてドアと反対方向のもう一つのドアのほうに向かって投げた。

 カツン。

 男は不思議がってドアのほうに向かった。

 その隙に私が男の後ろに立ち、首の辺りをガツンと一発お見舞いした。

 バタリと倒れてくれた。よかったぁ。一発で倒れてくれて。

 「そんなことも出来るんだ。」

 後ろからアラン王子がもそもそ出てくる。

 「ああ、こっちに来る前に、ちょっと訓練を受けたから。」

 そう、勉強だけじゃなく武術のほうも教わった。なるべく、相手に危害を加えずに倒す方法をコーナンから

 もうみっちり特訓を受けたのだ。

 こんなにもうまく成功するって思わなかったけど。

 「ヒナ、こっち。」

 アラン王子が指をさした方向には重々しいドアがあった。

 早速鍵で開けようとするとアラン王子に止められる。

 「ヒナ、ここの鍵にはある結界が張ってある。鍵を開けるとヤツにばれるようになってるんだ。

 だから空けたらすぐに王宮を出なきゃいけない。

 さっきみたいな道はヤツがいろいろ仕掛けるから危険すぎる。
 
 正面から出なきゃいけないよ。正面だと術よりもたぶん親衛隊の者達がやってくると思うから。

 どっちにしても危険だけどたぶんヒナにはこっちが安全だと思う。それでもいい?」

 アラン王子の話にちょっとぞっとしたけど、

 最初の計画ではそのつもりだったから覚悟は出来ている。
 
 「もちろん、アラン王子は味方なんでしょう?」

 彼の瞳をじっと見つめた。
 
 「うん。ヒナの味方。でも、僕は武術がてんでだめだからね。」
 
 嘘のない瞳で答えた。
 
 一人でやるつもりだったけど味方がいるだけで心強い。しかも、相手のやり手王子ときた。

 うん、きっと大丈夫。

 そしてもうすぐ明け方だ。動物達も来てくれてる。

 重い鍵をガチャリと回した。 
 




 

 

 





  









    






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