第三章 13





  



 

 「改めて、初めまして。私、アラン・カルロス・ローダと申します。」

 アラン王子が片膝をついて挨拶をした。

 ロンはすぐにソファーへと促した。

 「で、スターター国の第一王子がなぜ私に会いたいのですか?

 敵対しているこの私に。」

 無駄話をせずにすぐに本題に入る。

 ロンは口調は丁寧だったがとても冷たい目をしていた。
 
 国王の目だ。

 「敵対しているのは国王であって、私は敵と思っていません。」

 アラン王子はにこやかに答える。

 「国王は自分や貴族達が楽して生活することだけしか考えていません。

 このままいけば確実に崩壊、いや、今もう崩壊しかかってますね。」

 自分の国なのに、まるでよそから見ているような口調で続ける。

 「私は自分の国がどうなろうと正直どうでもよかったんですが、

 あの国を変えたいと頑張っている困った人がいまして。」

 そう言ったアラン王子の表情が、急に優しく変わった。

 「それってもしかしてアラン王子の愛する人?」

 思わず口にしてしまった。

 アラン王子は私にロンと合わせてほしいといった時、そう言ったのだ。

 「愛する人?」

 ロンが信じられないといった顔で私を見た。

 そうだろうなぁ。だってアラン王子は女関係が派手だという話だったから。

 「もしかしたら僕にそんな人がいると信じられませんか?

 彼女を手に入れるためなら僕は何でもします。

 彼女を守るためだったらどんな策だって実行します。」

 その瞳は嘘はないと思う。
 
 彼女の存在がばれないように今まで派手に遊んでたということか。

 「彼女は、クーデターの一味というか、トップで動いています。

 でも、このままでは確実につぶされるでしょう。

 僕がどんなにかくまっても限界があるし、彼女はそれを望んでいません。

 だから、彼女に僕が出来る事は、力をつけて彼女と一緒に戦うことです。」

 力強くアラン王子は訴えた。

 「今の僕はなんの力を持たないただの一人の男でしかない。

 だから力を貸してほしいのです。あなたに。

 あなたなら今の国王と対抗できる力がある。

 お願いします。」

 そういってアラン王子は頭を深く下げた。

 その行動にロンは黙って見つめていた。

 「今の話が本当である証拠は?」

 「ロン!そんなひどい・・・。」

 思わずとなりに座っていたロンの腕をつかんだ。

 「いいんだよ、ヒナ。国王として冷静な判断だよ。」

 そういってアラン王子が小脇から紙みたいなものを出した。

 よく見ると真っ黒で、白くも文字が書いてある。

 「私に力を貸していただければ、スターター国は今後一切この国に

 手出しをしないし、もしこの国に戦争を仕掛けてくる国があれば

 スターター国はフォレット国に軍隊を送り守りに入ります。

 それと貿易をフォレット国に優位に行うこと、

 スターター国がもっとも得意としている医学についてフォレット国からの留学を認めることなどを

 細かくここに記しています。」

 「これは・・・・。黒の血判。」

 黒の血判?

 不思議そうな顔をしてたら、ニコが説明してくれた。

 「黒の血判というのはね、この約束を守らなければ確実に命を落とすという
 
 魔法がかかっているの。」

 命って・・・・・。

 そんなにその人が大事なんだ。

 「しかし、うちの国に寝返ったあなたが今の国王にかわって

 新しい国王になる保障もない。」
 
 「それは大丈夫です。僕以外は父親に似た馬鹿ばっかりですから。」

 すごい自信だ。

 ちらりと腹黒さが見えたけど。

 でも確かに第一王子以外はみなろくでなしばっかりだった。

 国民もあんな人たちは国王に選ばないだろうな。

 しばらく黒の血判を見つめ、考えてロンとロールは目で合図していた。

 ロン・・・・。

 ずっと握ったままだった袖に力が入った。

 「わかりました。信用しましょう。」

 ロンが優しい口調で言ったと思ったら、立ち上がり自分の机にいくと

 ナイフを手にして戻ってきた。

 それをアラン王子に手渡した。

 アラン王子は手のひらにナイフを当てると黒の血判の上に持ってきて、

 すっとナイフを動かした。

 アラン王子の手から血が滴り、黒の血判の上にぽたぽたと落ちる。

 そして、そのナイフを自分のハンカチで拭くと

 ロンに手渡した。

 ロンも同じようにして、黒の血判の上に血を落とす。

 二人の血が混ざるとジュワジュワと音がして煙が出た。

 そして急に火があかり燃えてしまった。

 びっくりして思わずロンを見つめると苦しそうに手を握り締めている。

 ナイフで傷つけたもんね。

 傷にハンカチを当てようと手をとったら、

 傷はいつの間にかなくなっており、

 その代わりに黒い炎のあざが出来ていた。

 「これは・・・。」

 「これは黒の血判を押したものの証。術がかかった証拠なんだ。

  傷はもう痛くないから大丈夫。」

 にっこり笑ってそう説明してくれた。

 そうか、不思議な魔法だなぁ。

 じっとロンの手を眺めていたら、その手がアラン王子のもとにいった。

 「これからよろしくお願いします。」

 お互い固い握手をした。

 よかった。

 アラン王子と手を組んだら、戦争がなくなる確率が高くなる。

 なるだけ、国民の血を流したくないロンにとってもいい話しだと思う。

 これで平和に向けて一歩前進だね。






 




 

 

 





  









    






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