第三章 14





  



 「ひとつ気になったんですけど・・・。」

 みんなで和やかにお茶を飲んでいるところにニコが申し訳なさそうにつぶやく。

 アラン王子がお茶のカップを持って首をかしげる。

 「アラン王子の好きな人って・・・。」

 「好きではなく、愛してるひとです。」

 そんな細かい・・・。

 「あ、愛してる人ってもしかしてルルのことじゃないですよね。」

 「ルルを知ってるの?」

 びっくりしてアラン王子が立ち上がる。

 お茶、こぼしてますよ。

 カイが私の足元で寝ていたが、その音で目をちらりと見る。

 「やっぱり・・・・。」

 頭を抱えるニコ。どういうこと?

 「今回、私達が逃げるためにドカンとあげてもらったじゃない?

 あれって、ルルに助けてもらったんだよね・・・。」

 ボソッと私に言う。
 
 ええ!?知り合いなの?

 「ニコさん、どうして彼女を知ってるのですか?

 しかも、彼女はあまり人のお願いをきいてくれない人だ。

 なのにどうしてですか?」

 アラン王子が詰め寄る。

 ニコは後ろに逃げようとしたが、ソファーにいたため無理だった。

 「ええっと・・・。ルルのお友達?」

 その疑問系はどうかと思うよ。

 「もしかして、あなたはルルの師匠をしていた人ですか?」

 「ま、まあそんなとこでしょうか。」

 ニコはちょっと引きつっていた。

 「そうですか・・・。あなたが西の魔女なんですね。」

 その言葉に、その場にいる関係者みな凍りついた。

 西の魔女である事は秘密であったのだ。

 秘密の存在であって、けして人前に出てきてはならないのであった。

 みんなの空気を読んだのか、

 「大丈夫です。誰にも言いません。

 ただ、ルルに関わることなので、確認させてもらっただけなので。」

 笑顔でそう言った。

 そんなにルルさんのことが大事なのかぁ。

 すごいなぁ。

 それにしてもあったこともないけれど、なんだか私達に大きく関わっているルルさん。

 どんな人なんだろうなぁ。

 逃げ出すときにお世話になったのだから、
 
 いつか、お礼をちゃんと言いたいな。

 逃げ出すときといえば・・・。

 「ロン、ゼフさんの容態はどうなの?大丈夫?」

 私達と一緒に帰ってきてから、

 命に別状はないとだけ聞かされてそのまま病院みたいなところに連れて行かれた。

 それ以来、彼に会っていない。

 といっても、一日も経っていないから、変わりはないんだろうけど。

 「ああ、そうそう。さっき意識が戻ったと報告があった。
 
 脱水状態と栄養状態の低下、それと打撲程度ですんだ。」

 そっか、よかった。それなら、すぐに回復するよね。

 頑張ったかいがあった。

 「この場を借りて皆にお礼を言いたい。

 この国からたった女性二人でスターター国まで行き、ゼフを見つけ助け出してくれた。
 
 それとその二人に力を貸してくれた。

 みんなが一人でも欠けると今回の計画はどうなっていたかわからなかっただろう。

 ゼフは、この国とスターター国をつなぐため、たった一人で辛い任務を頑張った。

 平和を願って頑張った彼をどうしても死なせたくなかった。

 本当にみんなありがとう。」

 ロンは皆に頭を下げた。

 平和を願う。

 一人一人のその想いが、国をつなげていく。

 みんなそれぞれ辛い任務を乗り越え、

 新しい未来をつくっていく。

 ルルさんだって、スターター国の人間だけど、

 その心は変わらない。
 
 スターター国にも平和を望んで活動している人がいるんだ。

 この先の未来が、ちょっとだけ明るく感じられるようになった。






 


 

 

 

 みんなと夕食を取り、それぞれ自分の部屋に戻った。

 私はなんだか興奮して寝付けないから、テラスに出た。

 なんだかここはとても落ち着く。

 カイは私が一人になりたい気持ちがわかったのか、

 『いってらっしゃい。』

 と送り出してくれた。

 夜風が、なんだか、ここちいい。

 この国は日本と一緒で四季がある。

 私が来たときは、真夏だったけど、いつの間にか、秋が終わろうとしている。

 もう何ヶ月もこの国にいるんだ。

 あとどの位この国にいるんだろうか。

 日本に帰る時があるのかな。

 私は帰りたいのか、ここに残りたいのか。

 「ヒナタ。」

 ああ、この人はやっぱりこんな時に現れる。

 後ろから、そっと抱きしめられた。

 「どうしたの?こんなところで。」

 耳元で優しくささやいてくる。

 「なんとなく寝付けなくって。ロンは?」

 「ヒナタがここにいるような気がして。」

 もう、優しいんだから。

 クスクス笑っていると心が温かくなってきた。

 「ねえ、ヒナタ。温かいね。」

 同じこと考えてたんだ。うれしいな。

 「自分の国のこと、考えてたの?」

 抱きしめていた手を離し、私達は空を見上げながら寝転んだ。

 そしてお互いの手をしっかりとつないだ。

 「うん。私の国と自然界はよく似ているから思い出してしまうの。」

 ロンは黙って聞いている。

 「私ね、向こうでは家族いなかったんだ。私が、15歳の時、事故でなくなったの。

 その後、親戚の人が一緒に住もうって言ってくれたけど、どうしても両親と

 住んでた家から離れたくなかったからその家に一人で住んでたの。

 生活には困らないくらいのお金を両親は私に残してくれてたから、

 働かずに高校行って部活ばっかりやってた。

 だってそのほうが何も考えなくていいから、楽だったのよね。

 毎日、笑って暮らしていたと思う。

 だけど、ここに来てさ。

 なんだか、今までにないことばっかりで、大変だったけど

 今のほうがずっと生きてる実感がある。

 今のほうの自分が笑ってるような気がする。」

 だから、この国を離れたくないなぁ。

 いつか時が来たらこの国を去ることになるのかな。

 「ヒナタ。」

 いつの間にか、私の顔を覗き込んでいるロン。

 私の髪を撫でながら、とても優しく微笑む。

 月夜に照らされたその笑顔は、男の人なのにとても美しかった。

 「ロンってほんと綺麗な顔してるねぇ。」
 
 しみじみ言った私をクスクス笑いながら、

 「ヒナタ、僕もヒナのことをそう思ってたんだよ。」

 さらっとこんなことを言うあたりやっぱりこの人は王子様だと。(国王ですが。)

 赤面した私を見てまた笑みが深くなる。

 「そんな顔したら襲いたくなるよ?」

 「やややややめて〜。」

 顔を隠して抵抗する。

 でも、所詮、日頃鍛えてるロンにかなうはずもなく。

 両手首を押えつけられてしまった。

 あ。絶体絶命?

 「ひどいなぁ。嫌がる事はしないよ。

 ちょとキスするだけだよ?」

 そう言って上から甘い甘いキスが落ちてきた。




 この先、こうやってロンといる事はかなわない願いなのかな。

 私の中で、元の世界に帰る予感がする。

 それはもうあまり先の話ではないみたい。






 




 

 

 





  









    






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