5.光のあたる場所







 side miu






 生徒会長がステージの上に登る。とたんに、周りの女の子たちがざわざわと騒ぎ出す。

 あちこちから先輩を呼ぶ声がして、なんだかアイドルのステージみたい。

 いつもそれをどこか遠い出来事のように眺めていた自分がいた。

 なのに、今日は先輩が一段上がるごとに自分の鼓動も速くなっている。

 「皆さん、こんにちは、ただいまより月例集会を始めたいと思います。」

 先輩の優しくて響きある声が講堂に広がる。

 あれ、今日眼鏡かけてる。目が悪かったんだ。

 眼鏡姿ってなんだかまじめに見える・・・・・。

 先輩の言葉は、全くといっていいほど頭に入っておらずぼーっと眺めていた。

 眺めるのは、いい・・・よね。

 プリントを節目がちに見ている目がまた頭よさそうに見える。

 あ、頭はいいんだっけ。いつもトップだったと瑠璃が言ってたような。

 いいなぁ、私なんかいつも瑠璃と竜に助けてもらって赤点ギリギリ。

 ああ、もうすぐ中間テストだぁ。

 新曲のほうがやっとできたからレコーディングをしなければいけないのに。
 
 時期が悪い、最高に悪い。今頃、気付くなんて。

 思わず溜息をついて下を見た。私って、なんでこんなに要領わるいんだろう。

 「ミー?どうした?」

 隣に座っていた竜が心配そうに声をかけた。

 「んー。自分の今後について考えてたら悲しくなってきた。」

 「ぶっ、なにそれ。」
 
 珍しく竜が吹き出した。竜は、滅多に笑わないから周りの女子たちが赤くなりその姿を見ていた。

 「悲しくなるようなことしたんか?」

 「してないけど、あまりにも要領悪いことを今更ながら思い出して・・・。

 ああ、瑠璃みたいになりたい・・・」

 瑠璃は、私から見てもかっこいい。

 みんなを仕切ったりするのだけじゃなくって心配りもすごい。男、女関係なく皆から好かれてるのは

 彼女が可愛いからとか、頭がいいとかじゃなくて人間性とつねづね思っている。

 「ミーが、瑠璃に?瑠璃が二人になるのはいやだ。」

 心底いやそうな顔をして竜が言う。

 「竜はいつも一緒にいるからわかんないんだよ。瑠璃はね、凄いんだよ。」

 「あら、お褒めいただいてありがとう。でも、生徒会長が睨んでるわよ。」

 私たちの後ろからこっそりと瑠璃が声をかけてきた。

 生徒会長?

 あわてて前を見ると確かに睨んでいた。

 でも私と目が合うとすぐにいつもの優しい表情に戻る。

 うるさかったのかな。申しわけない。

 頭をぺこりと下げると一瞬驚いた表情になったけど、

 何事もないように話を続けていた。

 
 どうしてこんなにうまくいかないんだろう。

 私には歌うことしか出来ないのかな。

 

 

 前を見ると、先輩のところに光があたっている。

 それは、眩しくて眩しくて私には手が届かないような気がした。







 落ち込んだときには、またここに来る。

 しかもMIUの姿で。

 先輩が来るかどうかもわからないのに。

 来て欲しいのか、来て欲しくないのかよくわかっていないけど、

 自然と体がここに向っていた。

 相棒のギターも一緒に。





 夜のプールは静かだ。

 おばけとかあんまり得意じゃないけど、
 
 夜の暗がりというか、静けさは嫌いじゃない。

 この静かなところに月の光を見ながらぼーっとしたり、

 歌ったりするのがとても心地よい。

 見上げると、お月様が照らしている。初めて先輩と会ったときは満月だった。

 あれから数日。あのときより月はかけてきているけど、

 柔らかい光は私を照らしてくれる。

 ギターに指をかけて、「MOON RIVER」を弾く。「ティファニーで朝食を」という映画で、

 オードリーが窓に腰掛けて歌うシーンが大好きだった。

 あれをまねしたくって必死に英語の歌詞を覚えたなぁ。

 「MOON RIVER ?この歌、オレも好きだな。」

 び、び、び、び、っくりした〜。

 思わず、コードを間違えた。

 そんな私をクスクス見ながら隣に座る。なんだか、当たり前のように座るのはどうしてなのかしら。
 
 でもそんなに嫌じゃない。

 いつもなら、男の人にこうやって隣に座られると気持ち悪くなるのに。

 「オードリーがさ、窓に座ってこの曲を弾くじゃん。なんか、あのシーン好きなんだよな。」

 あ、同じとこ・・・・。

 うれしくって先輩を見たら、凄く柔らかい笑顔でこっちを見ていた。

 「MIUも好きなんだ。」

 コクコクとうなずく。

 「同じだね。」

 先輩もうれしそうに笑った。

 うれしい・・・のかな?

 でも、先輩のそんな顔見るとこっちもうれしくなってきて、ギターをジャカジャカと続けざまに

 得意のビートルズメドレーを弾いた。

 「お、ビートルズ。渋いねぇ。『LOVE ME DO』も弾ける?」

 リクエスト?

 ビートルズなら何でもお任せください。

 得意げにリクエスト曲を弾いた。ついでに歌も。

 それから、どんどんリクエストされて、なんだか調子にのった私は次々歌った。





 「あー、オレって今日凄い贅沢味わった気分。初めてだよ、こんな贅沢。」

 先輩は、この前みたいにゴロンと横になった。

 10曲以上歌い終わった私は凄く気持ちよくって、こんなに気持ちよく歌ったのは初めて。

 「私は凄く気持ちよかった。初めて。」

 今までも歌を歌うのは大好きだけど、人前で歌うのだけはどうしても苦手だった。
 
 たとえ未来ねぇや、瑠璃や竜の前でも。
 
 なのに先輩の前では何度も歌ったり、今日はこんなにも気持ちよく歌えた。

 「苦手だったのに・・・。」

 どうしてだろう?

 「どうしたの?」

 思わず下を向いて呟いていた私を覗き込んでくる先輩。

 「あわわわ、なんでもないです。」

 そんなに近いと、びっくりするじゃないですか〜!!
 
 あわてて後ずさりして距離をとった。

 「うーん。そんな、あからさまに避けられるとショックだなぁ。」

 ニコニコしていう先輩はとてもショックを受けているようには見えませんが。

 なんだかとっても意地悪。

 「先輩って昼間と全然違いますね。意地悪です。」

 「昼間ねぇ。昼のオレを知ってるんだ。うれしいなぁ。」

 にっこりと笑う先輩。

 
 

 


 やばいです。

 瑠璃、竜。

 先輩にあってまだ数日。
 
 瑠璃の言ったように、すぐにばれてしまいそうです。




 

 
 

 
 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






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