5.光のあたる場所








side ayumu


 








 立ち尽くしているオレを不思議そうに後ろから声をかけてくる賢。

 「どした?」

 オレの見ている方向を見て喜ぶ。

 「あれ?もしかして愛しの瑠璃ちゃん?

 遠くで見てもかわいいなぁ。

 あれ、弟君と、子リスちゃんいちゃついてる?」

 オイ。

 人がそれをみてショック受けているというのになんだよ。

 オレの溜息に気がついたのか、唇の端をくっとあげて、ニヤリと笑う。

 「ふ〜ん。」

 ニヤニヤ。

 「なんだよ。ほら、やるぞ。」

 そう言ってバスケットボールを賢の頭にガツンとぶつける。

 そのままぐりぐりとしてもまだニヤケてやがる。

 「あー、焼きもちですか。そんな可愛いところもあったのですかね、

 うちの生徒会長は。」

 ガツッとグーで殴って首根っこをつかんでコートに無理やり連れこんだ。

 あー、こんな形で知られたくなかったなぁ。

 心の中で毒づきながら、コートの位置につく。

 敵側の賢はまだニヤニヤしていた。
 
 


 
 タンタンとボールを低くドリブルしながら意識は隣の校舎。

 見たくないと思っていながらももう一度横目で、隣の校舎を見る。

 三人の姿がなくなっていた。

 二人のいちゃついている姿が見れなくてよかったのか、

 それとも彼女の姿がなくなったことに寂しく感じているのか、

 なんともいえない感情が渦巻いていた。

 「歩!」

 ぼーっとしている間にボールを取られパシュッと音をたててゴールポストへと

 入れられてしまった。

 「おーい。大丈夫か?」

 「いや、大丈夫じゃない・・・・。」

 あんな場面見て大丈夫なほうがおかしい。

 がっくりと肩を落としフラフラしながら元の位置につく。

 だめだ、これじゃあヘタレすぎる。情けない。

 頭をブルブルと振りながら気合を入れなおす。

 真正面に立っていたニヤケ顔の賢をじっと見た。

 これじゃあ、あいつの思うつぼだよ。

 ボールの動きを把握しなおしてパスを受けやすい位置に移動する。
 
 隙をついてパスを受け、左からのフックでシュート。

 「あー。歩は、両手使えるからなぁ。くそう。」

 悪いな。一応、もとバスケ部だからさ。

 散々ニヤけていた賢はぶつぶつと文句を言う。
 
 今度はオレがニヤけながら賢の肩をポンポンと叩いた。





 

 朝からの集会はいつも騒がしい。

 読む予定の書類を見直しつつも彼女のいるクラスを見てしまう。

 ちびっこい彼女はキョロキョロしながら誰かと話していた。

 ああ、今日も可愛いなぁ。
 
 でもその隣にはいつものようにあいつがいた。
 
 いつも当たり前のように隣にいるんだな。

 やっぱり付き合っているんだろうか。

 あいつの隣で微笑んでいる彼女なんか見たくない。

 オレの隣でいつも笑っていて欲しい。

 いつもそばにいて笑わせていたい。

 彼女を見つめながら強く強く願っていると、

「カイチョー。ガンバッテクダサイネー。」

 やる気があるんだかないんだかわからないような口調で浦澤君が後ろから声を

 かけてきた。

 「めがね君、今日の眼鏡かっこいいね。」
 
 めがね君はおしゃれでいろんな眼鏡をかけてくる。今日は、フレームが凝っていて

 黒とグレーのプラスチックがシャープに見える。
 
 「そうっすか?実はこれあんまり度が入ってないんですよ。

 かけてみます?」

 両手が書類でふさがっているオレに自分のかけていた眼鏡をかけてくれた。

 「うん、似合ってますよ〜。」
 
 度があまり入ってないせいかそんなに辛くない。

 「会長、何遊んでるんですか、はやく上がってください。」

 めがね君と遊んでいたせいか時間が来ていた。

 後ろからぐいぐいと押され、ステージに上がってしまった。

 あ、眼鏡返してないや。まあ、あとで返せばいいか。

 ステージに上がり、全体を見回す。

 「皆さん、こんにちは、ただいまより月例集会を始めたいと思います。」

 書類を読みながら彼女のクラスを意識している。

 見ないように見ないようにしているとつい視線がそっちにいってしまうのが

 人間であって。

 チラリと見ると小松弟と楽しそうに笑いながら話している。

 彼女の笑顔は見たいけど、
 
 この状況ではあまりにも遠い。

 そしてあまりにもむなしい。

 どうして彼女のとなりにはいつもあいつがいるんだ。

 そんな想いで見ていたら彼女がふっとこっちを見た。

 彼女と目が合った瞬間、自分の中にいた毒々しい想いが晴れていく。

 一瞬、彼女がオレに向かって頭をさげ驚いたが。







 月例集会も無事に終わり一人生徒会室に残って申し送りの書類を作る。
 
 後、数ヶ月で生徒会長の仕事が終わるため、次の生徒会長に仕事内容を

 わかりやすくファイル化したものを作成していた。

 自分の時は、何もなかったため、すごく大変だった。

 後輩にそんな思いさせるのもかわいそうだしな。

 「あー疲れた。」

 数時間パソコンに向っていたため、さすがに目が疲れ、目の周りをゴリゴリと

 指でほぐす。

 今日は生徒会の仕事がない日のため誰もいなくてとても静かだ。おかげで仕事もかなりはかどった。

 壁にかけてある時計を見ると8時を過ぎている。

 今日は、来ているだろうか・・・・。

 もう来ないって言ってたけど、待ってるって言ったからきっと来てるだろうな。

 そんなところは律儀そうだし。

 一分、一秒でもいいから、彼女にあいたい。

 隣にいたい。

 たとえ、彼女がほかの誰かを好きで、視線の先に、アイツの姿があっても。

 

 彼女が来ていることを願いつつ、自転車でプールへと向う。

 プールに向うことが日課となったことが、なによりもうれしかった。

 近くにきて、かすかにギターの音がしてきた。彼女はやっぱり来ていた。
 
 よく聞くと、知っているメロディが回りをかこむ。

 この曲は、映画音楽の中でも有名で、オレは好きだった。

 そっと彼女の隣に立ち、耳元でささやくように声をかける。

 「MOON RIVER ?この歌、オレも好きだな。」

 すると、彼女は真っ赤になってギターを持つ手が震えてコードを間違えた。

 かわいいなぁ。

 こんなふうにすれてないところがいい。

 とても今時の高校生らしくないな。

 思わずクスクス笑いながら彼女の隣に座る。

 彼女の隣に入れるだけでテンションが上がる。

 「オードリーがさ、窓に座ってこの曲を弾くじゃん。なんか、あのシーン好きなんだよな。」

 自分の夢のこともあって、映画は結構いろんなジャンルを見ていた。古いものから新しいものまで。
 
 彼女の映画はすべて見ていて、オレはこのシーンが好きだった。

 MIUはじっとオレのほうを見て目をキラキラとさせていた。

 もしかして同じって言いたいのかな?

 「MIUも好きなんだ。」

 そう聞くとほっぺを真っ赤にしてコクコクと大きく首をたてに振った。

 「同じだね。」

 自分と同じところが好きだとわかっただけでもうれしかった。

 テンションがもっと高くなった自分がいて、少し恥かしくなる。

 隣ではさっきまで優しいメロディーだったのにいつの間にかジャカジャカと
 
 ロック調となり、ビートルズになっている。
 
 いいねぇ、ビートルズ。大好きだよ。

 「お、ビートルズ。渋いねぇ。『LOVE ME DO』も弾ける?」

 テンションが上がったまま調子に乗り、リクエストまでしてしまう。

 いやな顔されないかな?

 ちょっと心配になったけど、彼女は得意げに弾いてくれた。

 しかも、歌まで歌ってくれる。

 男がビートルズを歌うのは聞いたことあるけど、
 
 女の子が歌うのははじめて聞いた。

 MIUはこんな声でも歌えるのか。
 
 しかもとても楽しそうに歌っている彼女を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。
 



 この姿を、形に残してみたい。




 そう思う気持ちが強くなってきている自分がいた。




 たぶん、かなわないんだろうけど。




 今はただこの時間を、MIUと過ごすこの時間を

 自分の中に刻むことしかできない・・・・・・・。




 「あー、オレって今日凄い贅沢味わった気分。初めてだよ、こんな贅沢。」

 MIUのソロライブをたった一人だけで聞けるなんて、

 なんて贅沢なんだろう。

 このまま、眠れたらどんなに幸せか。

 ゴロリと彼女の隣に横になって空を眺めた。

 さっきまで真正面に見えていた月は、いつの間にか天辺に来ていて

 彼女を優しく照らす。

 月に優しく照らされた彼女は、

 「私は凄く気持ちよかった。初めて。」

 上を向きながらそう呟いた。

 その顔は今までの彼女の表情と違って、屈託のない笑顔で

 油断すると抱きしめてしまいそうになるくらい

 輝いていた。

 しかし、急に黙り込んだかと思うと
 
 ブツブツと何か言いながら下を向いて、彼女の表情に陰りが見えた。

 「どうしたの?」
 
 心配で覗き込むとあわてて両手を顔の前に出してガードする。

 「あわわわ、なんでもないです。」

 後ずさりまでしちゃって。

 さっきまであんなに安心しきった顔をしていたくせに、真っ赤になって

 急に態度をかえるとは。

 いじらしいくらいに可愛い。

 「うーん。そんな、あからさまに避けられるとショックだなぁ。」

 ショックだといいつつも、顔がほころぶ。

 彼女と隣にいたり話しているだけで、自然とにやけてしまうところもあるけど、

 自分の行動で赤くなったり、

 あわててしまうMIUを見てしまうとどうももっといじめてしまいたくなって

 にやけてしまう。

 オレってSだったのか。初めて知った。

 「先輩って昼間と全然違いますね。意地悪です。」

 ふーん。昼間ねぇ。

 そんなふうに言ったら昼間も同じ学校で近いところにいるって

 教えているようなもんだよ。

 自分の素性を知られたくないくせに、

 どんどんボロがでてるよ。

 詰めがあまいなぁ。

 ま、そんな抜けてるところをいじめるのがオレなんだけど。

 「昼間ねぇ。昼のオレを知ってるんだ。うれしいなぁ。」

 極上の笑顔とともに答える。

 真っ青になってあわててなにやら考え始めた。

 赤くなったり、青くなったり忙しいなぁ。

 たぶん、いいわけを考えているんだろうね。
 
 

 必死に考え込んでいるMIUの隣をしばらく堪能させてもらうよ。

 今一緒にいるときぐらいは、いいだろ?
                                                                                                                                                                              






 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






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