4.見つめる先には






  side miu






 歌い終わってしばらく二人とも黙り込む。

 うた、変だったのかな。

 あんまりよくなかったのかな。

 ビクビクしながら隣を盗み見る。

 先輩は、寝そべったまま腕を顔のところで組んで表情が見えなかった。

 黙ってられると、怖いのですが。

 勇気を出して聞いてみる。

 「あ・・・・の・・・・・・。」

 それでも先輩は黙っていた。

 どうしよう。

 「初めてだね。」

 ちょっとかすれた声で先輩は言う。

 「今までのMIUの曲ってちょっと応援歌っぽい所があったじゃん。

 だけど、恋愛の歌は初めてだよね。」

 そう。初めて恋愛の歌を書いた。

 こくっとうなずくと先輩は座って私を覗き込んだ。
 
 「どうして?」

 どうして?

 どうして?

 なんでだろう・・・・。

 「書きたくなったから。」

 それしか思い浮かばない。

 「そか。」

 そう言って先輩は急に立ち上がった。

 見上げる私に優しく微笑んで頭をポンポンと叩く。

 「すごくよかったよ。思わず、その気になっちゃうぐらい。」

 その気?

 その気ってどの気?

 頭中にハテナマークを浮かべていると、クスリと笑う声が聞えた。

 プールサイドギリギリに立ってこっちを見ている。

 「MIUは可愛いね。」

 ニコニコしながらさらりとこんなこと言う。やっぱりこの人は・・・・・。

 「先輩はたらしなんですね。」

 「先輩?」
 
 しまった。後輩ってばれてしまう。

 思わずポロリと出た一言を飲み込むために口を押さえる。

 「それにたらしって・・・たらしって・・・。女ったらしってこと?ひどいなぁ。」

 片手で顔を覆いながらうなだれて言う。

 「だって、普通可愛いって面と向ってさらりといいません。」

 自分で可愛いというセリフをいうのは恥ずかしい。真っ赤になってるってわかってる。

 でも、おかしいもん。絶対。

 「誰にでも言わないよ。」

 いつの間にか真剣な表情で近くに立っていた。

 そして私のそばに座り込んでじっと目を見つめる。

 「可愛いなんて誰にでも言わない。」

 そう言った先輩の表情は月明かりに照らされてびっくりするほど綺麗で、思わず見とれてしまった。

 男の人を綺麗だって思うのはへんかな。

 でもこの人の目はすごく綺麗。

 真っ黒の瞳に吸い込まれそうになる。

 先輩は私の頬をそっと撫でて人懐っこい笑顔になった。

 「そんな風に見つめると危険だよ?」

 !!!!!!!

 やっぱりたらしだ。

 私は荷物をまとめて逃げることにした。

 「なに?帰るの?」

 なんてのんきな声で話しかけてくる先輩に、

 「身の危険を感じたので帰ります。」

 そういって自転車に向った。ズンズン進んでいく私の手首をまた掴んだ。

 「明日も来る?」

 「もう来ません。」
 
 即答した私ににっこりと微笑む。

 「わかった。待ってるね。」

 来ないっていったのに〜!!

 ムキーッと怒っていると先輩は楽しそうに笑った。

 「送っていくよ。」

 「けっこうです。家、近いし自転車ですので。」

 私は振り切って逃げた。

 ほっぺたが熱く感じながらグングン自転車をこいだ。






 
 「ミー。」

 通学路にて瑠璃が朝から元気よく声をかけてきた。

 「瑠璃、竜。おはよう。」

 いつものように一緒に歩く。
 
 「どしたの?なにかいい事あったの?」

 私の微妙な表情の変化をも読み取ってくる瑠璃。

 どうしてわかるんだろう。

 「あのね、あのね。曲かけたの。今編曲してるの。」

 うれしくってうれしくっておもわず笑みがこぼれてしまう。

 昨日、家に帰ってから編曲しはじめたら止まらなくなってもう少しで完成しそう。

 いつもレコーディングに間に合うかあやしかったのに、

 今回は早くに出来そう。

 「ある人に聞いてもらったんだけどね、すごくよかったって言ってもらったから・・・。」

 そこまで言って自分の失言に気がついた。

 あわてて口を押さえたけど遅かった。

 「ミ〜。ある人ってどの人?」

 後ろでドロドロとなにやらかもし出している瑠璃が私に迫ってくる。

 「ミー。」

 いつも黙って聞いているだけの竜も私を見る。

 どうしよう・・・・。

 困って下を向いてるとある人の声が聞えた。

 「小松兄弟。こんなところで固まって立ってどうした?」

 振り向くと先輩が不思議そうな顔をして立っていた。

 そしてこっちをじっと見ていた。

 



 あ、目が合った。




 目が離せない。そして体が動かなくなる。




 私と先輩の間には瑠璃も竜もいたのに誰も二人の間にいないかのような空間になった。

 


 なんで。


 なんでこっち見るの?


 私はあなたが知っているMIUじゃない。


 なのになぜ私から目を離してくれないの?





 「おはようございます。町田先輩。

 何もないです。いこ、竜、ミー。」

 ぐいっと私の手を引いて瑠璃は駆け出した。

 横を通り過ぎる瞬間、先輩はずっと私を見ていた。

 私は視線を避けるかのように下を向いて瑠璃に引っ張られるまま走り去った。

 竜はそんな私を黙ってみていた。

 校門を抜け、靴箱の前まで来たところで瑠璃はようやく止まってくれた。

 私達ががんばって走ってきたのに竜は涼しそうな表情で見下ろす。

 けっこうな距離を走ってきたのに・・・・・。

 どうにか息を整えて瑠璃に向き合った。

 「瑠璃。ありがと。」

 「いいえ、どういたしまして。って、ちがうでしょ!」

 ああ、怒ってらっしゃる・・・・。

 なんだか毎日怒られてるのは気のせいだろうか。

 「えとね、えとね。」

 話そうとすると竜に口を押さえられた。

 「今は、話さないほうがいい。またお昼に。」

 そか、ここじゃみんないるもんね。

 コクコクとうなずいて瑠璃と竜を見る。

 瑠璃は何か言おうとして口を開いたが、ため息をついて、

 「わかった。お昼にまた屋上でね。」

 といって靴を室内用に履き替えた。








 窓際の私の席は、隣の校舎がよく見える。

 その校舎は、3年生の教室と移動教室の校舎で、今まで意識してなかったけど今日はなんだか意識しまくっている。

 なんだか、おかしい。

 首をぶんぶん振って授業に専念しようとしても、

 チラリと隣の校舎を見てしまった。

 町田先輩の姿はもちろんなかった。

 ばかだな。

 先輩のクラスさえ知らないのに。

 はぁっとため息が自然と出る。

 このため息は、なんなんだろう。

 最近、わからないことばっかり。自分のことなのに・・・・・。

 ため息をつきながらまた隣の校舎を見た。

 すると、黒板から自分の席に戻って座ろうとしてる先輩を見つけてしまった。

 私の席から丁度同じ位置の席。

 びっくりして前を見た。

 「び、びっくりしたぁ。」

 思わず小さな声でつぶやく。そして下を向いて教科書を見つめる。

 こんなことってあるんだろうか。

 ひやひやしながら遠くの方でお昼のチャイムがなった。

 もちろん、私の耳には入ってない。








 またもや、ずるずると瑠璃に引きずられながら屋上へと向った。

 そしていつものようにお弁当を並べて三人黙々と食べ始める。

 空気が重い・・・・・・。

 私が話すのを待ってるんだよね。

 「あ、のね。昨日、もう先輩に会わないように言われたのに会ったの。」

 二人は、下を向きながら話す私の顔をじっと見た。

 「行かないほうがいいってわかってたのに、

 曲をどうしても作ってしまいたかったのと、

 多分連日は来ないだろうと思っていつものところに行って曲を作ってたの。

 だけど、来たの。先輩。」

 おずおずと見あげて言葉を続けた。

 「でもね、変なことされなかったよ。

 ちょっとへんなこと言われたけど、うた聞いてくれてよかったよって。」

 「へんなこと?」

 瑠璃がその言葉に突っかかる。

 「わざとらしく可愛いとか、じっと見てたらそんな風に見てたら危険だとか・・・・・。」

 そう、なんだか女ったらしっぽいこと言ってた。

 「町田先輩が?ありえない。」

 瑠璃は首を振りながらブツブツと言っていた。

 そうはいっても本当だもん。

 「ミー、ばれてない?大丈夫?」

 心配そうに竜はいってくれた。

 「多分、大丈夫だと思う。でも、今日もだけど先輩、今の私を凝視してくるの。

 MIUじゃない私を見るの。

 その視線からなぜか逃げられないの。」

 先輩が私を見るとなぜか視線をそらすのは難しい。

 「先輩から目がはなせなくなっちゃうの。なんでかな。」

 「それはもう少ししたらミーの中で答えが出ると思うよ。」

 竜は、いつものように大きな手で私の頭をポンポンッと叩いてにっこりと笑った。








 私の中の答え。

 
 

 
 その答えが、私にとって人生を変えるものだとは思ってもみなかった。










 
 

 
 


  









    






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