3.プールと熱と。




 
 side miu





 屋上の出入り口に立った町田先輩を呆然と見つめる三人。 

 なんてタイミング・・・・・・。

 三人ともフリーズして3秒、瑠璃が立ち上がって町田先輩のほうへと向いた。

 「なんですか?会長、こんな所まで来て。」

 それと同時に竜がすっと私を町田先輩から見えないように隠してくれた。

 「ありがとう、竜。」

 こそっと、お礼を言うとニコッと笑ってくれた。

 ここなら竜で隠れて私自身が見えないだろうから、

 安心してられる。

 「小松、申しわけないんだけど昨日のことで・・・。」

 町田先輩は話しながらこっちに来ようとしていた。

 ば、ばれるかも。

 思わず目をつぶってしまった。

 「あ、ご飯終わったんでそっちにいきます。

 じゃあね、竜、ミー。」

 瑠璃があわててお弁当箱をまとめて私達に手を振りながら先輩のほうへかけて行った。

 私は竜の影に隠れていたから見えなかったけど、

 なんとなく先輩がこっちを見ていたのは感じた。

 何でこっちを見てるんだろう。
 
 ドキドキしながら、早く先輩が去って行ってくれるのを待った。
 
 「ご飯中、お邪魔してごめんね。お姉さん借ります。」

 どうも、竜に声をかけたらしく、竜も、

 「どうぞ。」

 と、ボソッと言った。

 バタンと屋上のドアが大きな音をたてて閉まった。

 先輩と瑠璃は行ったみたい。

 大きなため息が出た。

 「ミー、顔が赤い。」

 竜に言われて気付く。
 
 両手を頬に当ててみると、頬が熱くなっている。

 緊張してたせいかな。そうにちがいない。

 あれこれと考えていると竜がポンポンと頭を撫でる。
 
 竜を見上げると、

 「時間。」

 時間?

 時計を見ると授業5分前。

 「あわあわあわ。次、化学だから移動だよ。」

 急いで屋上を出た。

 一階の自分の教室に戻って教科書を取り科学室まで行く途中、渡り廊下を渡っている町田先輩を見かけた。

 友達らしき人と楽しそうに話しながら歩いていた。

 思わず足が止まった。

 教科書を胸に抱えたまま、見とれてしまった。

 なんでだろう、目が離せない人だ。

 「ミー。」

 隣にいた竜が不思議そうに私を見下ろした。

 「ごめん、なんでもない。いこ。」

 何であの人を見つけてしまうのだろう。

 何で目が離せないんだろう。

 何で目があの人を追ってしまうのだろう。






 その答えはまだ、私は知らない。










 「美歌、ちょっといいか。」

 父がこのセリフを吐いたときは大体いい話ではない。

 久しぶりに父の説教。仕事でいやなことがあると大体私に八つ当たりしてくる。

 そして最後はお決まりのセリフ。

 どうも父にとって私はイライラする存在みたい。

 四姉妹のなかで私だけがどうもとろくて人見知りで方向音痴だし。

 だけど他の姉妹はとてもかわいがってくれる。

 私だって姉達が大好き。

 「おとうさん、そろそろ時間大丈夫なの?会食でしょ?」

 「ああ、そうだ。未来ありがとう。」

 話しが長くなりそうというところでいつも未来ねぇが助けてくれる。

 「じゃあ、美歌。わかったな。おまえは私の言うとおりにすればいいんだ。」

 言うだけいって父は部屋から出て行った。

 「未来ねぇ、ありがとう。」

 ぺこりと頭を下げると姉は頭を横に振った。

 「ううん、毎回ひどいんだもの。美歌ちゃんは悪くないわ。気にすることない。

 それよりも今日も曲作りにいくの?」

 
  


 『ねえ、また会える?』


 


 町田先輩の言葉が頭をよぎった。

 どうしよう。

 行きたいけど、行きたくない。

 瑠璃たちにも関わらないほうがいいって言われたし・・・。

 だけど先輩の笑顔はまた見てみたいと思った。

 それに今日も先輩が来るとは限らないし。

 曲も仕上げてしまいたいしと、

 なぜか言い訳ばかりしている私がいた。

 「うん、行く。今日は自転車で行く。」

 実は、学校は自転車で10分ほどの距離。

 普段は歩いて登校している。

 あ、でもこれじゃだめだ。

 今の私の服装はいつもの普段着。

 あわてて髪を下ろしてくるくるカールしてちょっとメイクして。

 うん、これならばれないはず。

 いつもははかないスカートなんかも穿いたりして。

 「気をつけてね。」
 
 笑って見送ってくれる未来ねぇに手を振り私はギターを背負って家を出た。

 夜風が、気持ちよくって思わず鼻歌を口ずさんでしまう。

 んふ〜。

 この調子ならいい歌作れそう。

 急いで自転車をプールの脇に止めてプールサイドへ向う。

 ギターを取り出して足を水に浸しながら早速歌いながら曲を作る。

 いつのよりも頭に浮かぶフレーズがどんどん湧き出てくる。

 こんなのはじめてだった。

 かなり集中してたせいか、
 
 町田先輩が隣に座っていることも気付かず。

 



 「できた〜!!」

 「よかったね。」

 「うん、すごくいい曲と思う!はぁ〜。うれしい・・・・・。」

 ギターを握り締めしみじみと独り言をつぶやく。

 ん?

 横を向くとニコニコした町田先輩が座っていた。

 「ああああ。」

 なんでここに座ってるの!!

 あわてて先輩との距離をとった。

 「なんだか、集中して曲作ってたみたいだから。

 出来たんだね。」

 満面の笑みで言われると何もいえない。

 とりあえず、うなずく。
 
 「いい曲が出来たんだ。」

 また、うなずく。

 「聞かせてもらっていい?」

 ええ?

 人前で歌うのって苦手なんだけど。
 
 隣に座っている町田先輩は私と同じようにプールに

 足を浸してピチャピチャ遊んでいる。

 黙って、歌を待っているのかな・・・・。

 上を見たら満天の空。

 曲が出来て上機嫌だった私は、

 ギターを抱えて歌い始めた。










 誰か一人のために歌うのは、町田先輩が初めてだった。


 


 指先が、少し震えた。



 

 ドキドキして、少し熱くて。



 
 プールの水が私の熱を奪って、それがすごく心地よかった。




 とても気持ちよかった。





 こんな気持ち、初めてだった。 

 

 

 
 

 
 

 
 


  









    






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