2.太陽の下で





 side ayumu







 月明かりの下で僕達は、見つめあったまま動かなかった。

 彼女の瞳に引き込まれ、体が動かない。
 
 動きたくないんだ。

 ずっとこうしていたかった。

 急に、携帯のメロディが聞える。

 外国のアーティストのもの。

 彼女はあわてて携帯をギターケースから取り出し、そのまま後ろを向いて話し始める。

 家族?それとも彼氏?

 自分の想像にドキドキしていると会話が終わっていたらしい。

 彼女はこちらを向いていた。

 家族であってほしい、そう願いながらたずねる。

 「お家の人?」
 
 コクンとうなずく。よかった・・・・。

 「迎えに来てくれるって?」

 またコクンとうなずいた。

 その姿がなんとも愛らしかった。

 自分が護らなければと思ってしまう。
 
 「そか、よかった。ここらは治安が良いと言ってもやっぱり夜は危ないから。

 じゃあ、迎えの人が来てくれる所まで送っていくよ。」
 
 そう言っても彼女は首を振る。

 「ああ、そか。誰かと一緒のところを見られたらまずいか。」

 芸能人とか大変だもんな。

 よく雑誌とかで写真とか撮られてるし。

 彼女の場合、一切の素性を明かしてないから、余計に行動に注意しないとダメなんだろうな。

 でも、オレの言葉にまた首を振った。

 「そんなこと、ない、です。ただ、緊張するから・・・・・。」
 
 小さな小さな声で、顔はりんごみたいに真っ赤にして言う彼女は、もうなんとも言えない位にかわいい・・・。

 やばい・・・。

 今まで、こんな感情、生まれたことなかった。

 自分の中で誰かがこんなにも愛おしいと思えるなんて。

 しかも、まだあって間もないのに。

 自然と顔がほころんでしまうオレを不思議そうに見つめる彼女をギュウッと抱きしめたくなる感情を押し殺した。

 「ごめんごめん。あまりにもかわいい事を言うから。」

 多分、顔が赤いだろう。

 そんなかっこ悪いところ、彼女には見られたくないから手で顔を隠しながら続けた。

 「芸能人ってみんな恋愛とかに慣れてるって勝手に思ってたところがあってさ。
 
 まさか、そんなふうにかわいい返事が来るとは思わなかったよ。」

 すると彼女はなぜか泣きそうな表情になりギターを持って出口に向った。

 しまった。

 何か彼女を傷つけるようなことを言ったんだろうか。

 それと同時にもうこれを逃したら二度と会えないという思いが不安をかきたてた。

 「ねえ、また会える?」

 もう一度会いたいという想いが信じられない行動にでた。

 また彼女の手首を掴んでナンパなセリフを吐いてしまった。

 案の定かのじょはオレの手を振りほどき走り去った。

 一人取り残されたオレは振りほどかれた手を呆然と見つめていた。

 彼女を傷つけてしまった。

 なんて馬鹿なんだ。

 もう二度と彼女はここに来ないだろう。


 その夜、オレは後悔と彼女への気持ちで眠れなかった。

 




 次の朝。

 「どうした?歩。」

 登校中、後ろから誰かが抱き着いてきた。
 
 こんなことをしてくるのは一人しかいない。

 しっかし、後姿でわかるなんて。

 普段から何があっても他の人にばれなくても、目ざとい悪友・長岡 賢が気付く。

 「どうもしてない。」

 まったく、普段チャラチャラしてるくせにどうして気付くんだろうか。

 「オレがその言葉を鵜呑みにすると思ってるんだ。

 ふーん。」

 感じ悪いぞ。

 「ほらほら、お兄さんに言ってごらん?楽になるよ。」

 ニコリと笑うその顔は学園一もてるということを自覚してるだろう、胡散臭い微笑みになっている。

 「だれがお兄さんだよ。同じ年のくせに。」

 「まあまあ細かいところは置いといて。

 あ、前方に小松兄弟はっけーん。」

 俺達よりも先を小松兄弟が歩いていた。

 賢は小松姉が好きらしい。

 チャラチャラしてても彼女に対する想いは本物らしいが・・・・。

 「はぁ〜。今日も後姿、かわいいなぁ。あ、だれか叩いた。」

 バシッと誰かの背中を叩いていて、その相手はむせていた。
 
 大丈夫かよ。

 その相手は小松弟に背中をさすられどうにか歩いていた。

 「あの子、いっつも小松兄弟といるんだよな。なんだか、子リスみたい。」

 賢に子リスと言われた女の子は、ちょこちょこと小松兄弟の後をついていった。

 MIUと同じぐらいの身長かなぁ・・・。

 なんだか、雰囲気も似ている様な・・・・。

 あ〜、だめだ。相当重症らしい。

 女の子が誰でもMIUに似てるような勘違いまでしてきた。

 やばいな。

 これは、本物らしい。

 頭を振るオレを不思議そうに賢が見つめていた。


 



 午前中の授業を終え、学食を食べに行こうと廊下に出ると生徒会顧問が待ち構えていた。

 「なんなんすか〜。」

 顧問が立っているという事は何かトラブッたのだろう。

 「すまん、町田。この前話した高校見学の件。あれ、今日中に出してほしいんだよね。
 
 急に職員会議に使うことになってさ。

 どこまで進んだ?」

 「あれですか?大体出来てますけど。今日、浦澤が書式化したものを、朝提出したはずですけど。」
 
 「それが、見回りの範囲が広すぎだったのを気付いてなくってさ。

 お前らも見回りの確認したろ?その時どうだったか、ちょっと聞きたいことがあってさ。」

 はぁ。まったく、どおりで範囲が広いっておもったよ。

 「わかりました。確認したのは副会長なので一緒に後で先生のところへ行きます。」

 「すまんな。昼休み時間中にたのむな。」

 顧問はさっさと去っていった。

 やり取りを黙ってみていた賢は、

 「大変だね、会長さん。一緒についていこうか?」
 
 といったが丁重にお断りした。

 オレの仕事だからな。

 さっさと食べて副会長探そう。

 



 ご飯を食べて副会長の教室に行ったが彼女はいなかった。

 どうも、屋上に行ったらしい。

 屋上か・・・。間に合うかな。

 急いで二段ずつ階段を駆け上がり屋上に向かい、入り口のドアを思いっきり開けた。

 双子と、子リスと呼ばれた女の子が座っていた。

 また、MIUとダブって見えた。

 しかもあのおびえたような瞳。

 彼女によく似てる。

 一瞬、彼女に気をとられ自分の仕事をわすれそうになった。

 「小松、いる?」

 そう言うのがやっとだった。 


 

 

 

 
 

 
 

 
 


  









    






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