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     side MIU








 雀の鳴く声で朝がきたとぼんやり思った。

 昨日はいろんなことがありすぎて眠れなかった。

 瑠璃と竜に話をきいてほしかったけど今は自分でもなんて伝えたらいいのかわからない。

 先輩に想いを告げたし受け止めてもらった。父に初めて逆らって転校も阻止することができた。



 でもこの先には?

 学校側にはもともと言ってあるから大丈夫だけど、

 週刊誌に出てしまってみんなの目になんて映るのか不安がのしかかる。

 先輩にも本当のさえない私を知られたらがっかりされると思う。

 もちろん見かけで人を判断するような人じゃないと思っていても

 芸能人らしく着飾ることが好きでないって分かったらガッカリするんじゃないかって

 考えてしまう。

 そんなことを考えると学校に行きたくない。

 正直こわい。

 あんなに頑張ろうと思ってたのに時間が経つにつれ不安が大きくなる。

 どうしよう。

 徐々に足先から緊張で冷たくなる。

 まるで凍るようになるこの感覚は私の悪い癖。

 人前で立ったり歌ったりするとこうなって動けなくなってしまう。





 しばらく出てなかったのに・・・・・・。





 こんな自分がたまらなく情けなくなる。

 先輩と繋いだ手のぬくもりを信じよう。

 自分に何ができるかわからないけど逃げてもみんなには伝わらない。

 私に出来るのは歌うことだけ。

 歌を通してみんなに分かってもらうしかない。

 父のいいなりばかりだった自分にはもう戻りたくない。

 

 のろのろとベッドからはい出ていつものように学校に行く準備をしていた私は

 鏡で自分を見た。

 自分は自分。

 隠したり嘘をつくのはよくない。

 正直な自分でいよう。

 

 そう自分自身に誓った瞬間、未来ねぇの呼ぶ声がした。 

 顔色は決していいとはいえない。

 だけど、なるだけ元気な声を出して今日を一日過ごそう。

 ご飯を食べているときは未来ねぇが心配そうに見ていた。

 父はいつもなら新聞を読んでいるのに今日はいなかった。

 空いた椅子を見てほっとため息が出た。

 朝早くからいないのは珍しいけど、

 今日はちょっとだけリラックスできた。

 

 「いってきます」

 「美歌、大丈夫?顔色悪いわよ?」

 心配そうに見ていた未来ねぇもついに声をかけてくる。それほど、緊張が顔に出てたのかな。

 「大丈夫。いってきます・・・」

 自分にも大丈夫、大丈夫と言い聞かせて家を出た。

 門を出たところに誰かが立っている。

 「おはよう」

 それはにっこり笑った歩先輩だった。






 「せんぱ・・・・い」

 「おはよう。あーやっぱり今日もいつもみたいにお団子頭なんだね。

 ふわふわしてるのもかわいいけどそっちも人形みたいでかわいい」

 そういって私のお団子をさわった。

 「え?え?」

 「でも目は・・・・黒目がコンタクトなの?」

 今度は私の顔を覗き込んでじっと見つめた。

 「え?」

 思わず後ろにさがってしまう。

 「あー、そんなふうに避けないでよ。俺、MIUのこと迎えにきたんだよ?これでも」

 迎えに?

 「うん。学校行きにくいかなって。ま、それはいいわけだけど

 少しでも早くMIUに会いたかった」

 少しはにかみながら先輩は言った。

 うわー。キラキラ笑顔で何言ってるの。

 まぶしすぎる・・・・。

 「あーもーはずかしいな、こんなこと言うの。

 もう行こう。行きながら話そう。学校遅れるよ?」

 耳が真っ赤になった先輩は自転車を押し始めた。

 私はあわてて先輩の後を追った。

 先輩の横、歩いていいのかな?

 そっと先輩を伺うように見たらにこっと笑う。

 「なんだか朝からMIUと並んで歩けるなんて夢みたいだ。

 いっつも夜だったしね。それか、遠くから見てるか・・・」

 「遠くから?」

 「そ。おれ意外と早く見つけたんだよ。だけどMIUは日常のことあんまり知られたくなかったのかなって

 思ってあえて声をかけなかったけど。それに二人のガードマンがいたろ?」

 ガードマン・・・・。

 誰のことだろ?

 「小松姉妹」

 「私達がなにか?」

 後ろに瑠璃が腰に手を当てて仁王立ちしていた。

 「あ、瑠璃。おはよう」

 「おはようってなにこれ。どういうこと?」

 私達二人を指差しながら瑠璃は言った。

 「瑠璃、人に指さすな。ミーおはよう」

 竜はいつもの淡々とした表情だ。

 「おはよう竜。ええと、何これって・・・」

 説明しようとした瞬間、肩をぐっと抱かれた。

 「おはよう、小松姉妹。俺達付き合うことになったんだ」

 「「え〜!!!」」

 私と瑠璃の声がハモる。

 「え、MIU。だって俺のこと好きって言ってくれたじゃん。

 両思いになったから付き合うんだろ?」

 「なにそれ!聞いてない!」

 歩先輩の発言にびっくりした私は慌てふためく。

 だけど瑠璃は私の両肩を揺さぶりながらなんだか叫んでる。

 あー頭がふらふらするよ。

 細いのにどうしてそんなに力があるの?

 そんな私を歩先輩は後ろからひょいと抱きかかえた。

 「申し訳ないけど学校行くまで二人で行きたいんだ。後でちゃんとお返しするから」

 瑠璃と竜にそういって片手で自転車を押し片手で私を小脇に抱えて

 先輩はすたすたと歩き出した。

 なんだか荷物にされた気分。

 遠くのほうで瑠璃がなんだか怒ってるみたいだけど

 竜が壁になって押さえ込んでいるのが見えた。

 あれなら・・・・大丈夫・・・かな?

 それよりもこの状況は恥ずかしい。ただでさえ、注目浴びたくないのに

 これじゃあ学校中のうわさになってる。

 「先輩・・・。下ろしてください・・・」

 ちっさな声で言ったのに先輩には届いたらしくゆっくりとおろしてくれた。

 「ごめんね。抱えちゃって。でも二人で話したいことがいっぱいあったから・・・・」

 ぺこりと頭を下げた先輩はバツの悪そうな顔をした。
  
 「いえ、重かったでしょ?それより話したいことって・・・?」

 「MIUって俺の彼女・・・でいいんだよね?」

 真剣な顔をしてじっと見つめられた。

 先輩の彼女・・・・でいいのかな。

 いいのかなと思う反面先輩の彼女になりたいという気持ちがある。

 「先輩は私が彼女でいいんですか?」

 「うん。というか、MIUがいい。MIUが好きだから。

 MIUを守りたいんだ」

 はっきりと言われ恥ずかしくてうつむきたいけど

 先輩があまりにも真剣な目をして言うからうつむくことができなかった。

 学生の私を知ってくれてた先輩。

 プールで本当の私を知ってる先輩。

 どちらも先輩の目は優しくまっすぐだ。

 「私のほうこそよろしくお願いします」

 深々とお辞儀をした私の手を握りいつもみたいに意地悪な笑顔ではなく

 優しく包み込むような笑顔になった。

 そしてこう耳元で言った。


 「MIUじゃなく名前で美歌って呼んでもいい?」

 
 先輩の声があまりにも響く声だったので

 ドキドキして口から心臓が飛び出しそうだった。

 きっと全身真っ赤に違いない。

 そんな私を見ていつもの意地悪な笑顔に変わる先輩。

 これって、からかってるの?

 私がドキドキして動けなくなるのを楽しんでるみたい。

 悔しくって睨んでると鼻を摘まれた。

 後ろから瑠璃の怒鳴り声が聞こえてきたのは言うまでもない。

 だけど私を呼ぶのは怒りを含めたような冷たい声だった。

 「MIUと呼んだほうがいいのかしら?それとも本名で呼んだほうがよろしい?

 門前 美歌さん」

 そういって私達の前に立っていたのは石橋さんだった。

 「泉・・・・・」

 先輩の怒りを含めた声が聞こえた。

 

 


 
 

 

 














 

 
 






 

 



 




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