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        side AYUMU









 彼女を抱きしめた感覚を思い出しながらオレは机に向かった。

 久々に法律関係の本を出す。

 幼いころから法律関係を勉強していて将来無駄なことはないといわれ家庭教師付きで

 やっていた。生徒会に入ると同時にやらなくなったけど。あのころは嫌で嫌で仕方がなかったが

 今はやってて良かったと思う。大切な人を守るために知識や情報は必要不可欠だ。

 


 きっと泉は権力という権力やお金を使ってMIUを攻撃してくるだろう。

 しかも陰険な方法で。

 忠告程度ではやめないだろう。

 自分の手に入らなかったものがなかったことがなかったから何が何でも手に入れるように

 あの手この手で来るだろうし。

 今まであいつのわがままに付き合ってたけどさすがにやりすぎた。

 MIUのプライベートもやりたいことも好きなことも邪魔をするならば黙っていられない。

 オレができるすべてのことをやる。

 とりあえずは自分でできる範囲のことだけど、最悪は大人の手を借りることになるだろう。

 そんなことにならなければいいのだが。

 分厚い辞書を広げ大きく息をのんだ。





 ふと見上げるとカーテンの向こうがうっすらと夜が明けていた。

 うーんと背伸びをし熱いコーヒーを求めてヤカンに火をかける。

 ゴーッと火の音がするのをぼんやりと眺めながら今日のことを考える。

 徹夜して疲れてるけどMIUの顔が見たいな。

 というかこんな時だから会いたい。

 そうだ、家に迎えに行こうか。

 びっくりするだろうな。彼女のことだから怒るだろうか?

 でも怒った顔もかわいいんだよな。

 想像しながら思わずにやけてしまうけど楽しみで仕方がない。

 出来上がったコーヒーを飲みながら資料をまとめ学校の準備を始めた。

 思わず鼻歌が出てる。

 そういえば、彼女が見せられた雑誌は今日発売だったよな。

 だとしたらマスコミが朝来る可能性もある。だけどMIUの親父さんもある程度権力があるだろうから

 動くことを考えると囲まれるのは学生ぐらい・・・・か。

 うちの学校の生徒の中には芸能活動している者もいるからそこまでは騒がないと思うけど

 MIUの元のキャラがあまりにもおとなしく生活するようなタイプだったから

 ギャップの差に誰もが噂するだろう。

 ただ、彼女の周りには小松兄弟がぴったりとつくだろうし

 オレもいる。

 囲まれることはないと思うがMIUが辛い思いしないように注意は必要だ。

 小松姉も生徒会にいることだし、何かあれば生徒会室を利用するのもいい。

 お昼御飯も一緒に食べよう。

 MIUが大変な状況だが自分が彼女をまもっていいんだと思うと俄然やる気が出た。

 「よし」

 準備ができて時計を見る。ちょっと早いような気がするけど一秒でも早く会いたいから家を出ることにした。

 




 玄関から出てきた彼女は少し緊張した顔をしていた。

 声をかけてもその表情は消えなかった。

 「おはよう。あーやっぱり今日もいつもみたいにお団子頭なんだね。

 ふわふわしてるのもかわいいけどそっちも人形みたいでかわいい」

 そっとお団子頭を触ってみた。

 MIUは驚いてる。そりゃそうだろう。
 
 彼女は学校のMIUに気が付いていると知らないから。

 でもオレは知ってる。

 知っててもMIUに対しての気持ちは変わらないし大丈夫だよってわかってほしい。

 じっとMIUの瞳を見てそう伝える。

 よく見るとコンタクトを入れているのがわかった。

 「でも目は・・・・黒目がコンタクトなの?」

 MIUはただただ驚いている。

 引かれちゃったかな?MIUは後ろに一歩下がった。

 「あー、そんなふうに避けないでよ。俺、MIUのこと迎えにきたんだよ?これでも」

 必死に言い訳をする。

 かわいらしく首をかしげるMIU。

 あまりにもかわいくて直視できないから、それ。

 「うん。学校行きにくいかなって。ま、それはいいわけだけど

 少しでも早くMIUに会いたかった」

 正直に気持ちを言うのは恥ずかしかったけど

 MIUを前にしてはどうやら嘘はつけない。

 「あーもーはずかしいな、こんなこと言うの。

 もう行こう。行きながら話そう。学校遅れるよ?」

 じっと見つめてくるMIUの視線から逃げるように自転車を押した。

 あまりにもクサいセリフをいうなんてこんなところを誰かに見られたら

 オレ恥ずかしすぎて死ぬかも。

 スタスタと歩いてしまったオレにMIUはにっこりとほほ笑んで隣を歩く。

 こんな風に一緒に歩けるなんて思ってもみなかった。

 MIUの隣にはいつもあいつらがいたから。

 「なんだか朝からMIUと並んで歩けるなんて夢みたいだ。

 いっつも夜だったしね。それか、遠くから見てるか・・・」

 「遠くから?」

 「そ。おれ意外と早く見つけたんだよ。だけどMIUは日常のことあんまり知られたくなかったのかなって

 思ってあえて声をかけなかったけど。それに二人のガードマンがいたろ?」

 ガードマンという言葉に不思議そうな顔をする。

 自分が守られるようにいつも二人が寄り添ってたって思ってもないんだろうな。

 鈍感だけど憎めないのは彼女だからか。

 「小松姉妹」

 そこまで言ったところで後ろに人の気配がした。

 もう時間切れか。

 「私達がなにか?」

 小松姉が仁王立ちしている。オレをいかにも警戒してる風だ。

 一緒に生徒会で仕事をしていた仲なんだけど

 そこまで信用性ないのか、オレは。

 「あ、瑠璃。おはよう」

 「おはようってなにこれ。どういうこと?」

 オレ達を指さしてる。こらこら人に指さすな。

 「瑠璃、人に指さすな。ミーおはよう」

 淡々とした表情で弟が現れる。

 こいつを見るとなぜかMIUを連れ去りたくなった。

 MIUがこいつのことを何とも思ってないのはわかったけど

 こいつがどう思っているのかはイマイチわからない。

 「おはよう竜。ええと、何これって・・・」

 ふわふわしたかわいらしい声で説明しようとしたMIUの肩を引き寄せて宣言した。

 「おはよう、小松姉妹。俺達付き合うことになったんだ」

 「「え〜!!!」」

 MIUと小松姉の声がハモる。おいおい、MIU。昨日のことはオレの夢だったのか?

 「え、MIU。だって俺のこと好きって言ってくれたじゃん。

 両思いになったから付き合うんだろ?」

 「なにそれ!聞いてない!」

 オレの発言に小松姉もびっくりしているがMIU自身もびっくりしている。

 ほんとに夢なのか不安になってきた。

 MIUは小松姉にどうして報告しなかったんだと叫んでいる。
 
 このままだと小松姉のペースに巻き込まれうやむやにされそうだ。

 ここではっきりとMIUに自分たちが付き合っていることを認識させておかないと
 
 きっと気持ちは通じあったけどこの後どうするのかわからないとか言いそうだ。

 MIUを後ろからひょいと抱える。

 「申し訳ないけど学校行くまで二人で行きたいんだ。後でちゃんとお返しするから」

 小松姉妹が有無を言わないうちに先に進んだ。

 最初はおとなしくしていた彼女ももぞもぞと動きだし不満げな表情でオレを見上げた。

 「先輩・・・。下ろしてください・・・」

 そこでやっと彼女を小脇に抱えて歩いていたことに気付く。

 あいつらから離れることばっかり考えててMIUの気持ち考えてなかった自分に深く反省し

 頭を下げる。

 「ごめんね。抱えちゃって。でも二人で話したいことがいっぱいあったから・・・・」

 情けないほどの独占欲。

 気持ちは通じてもMIU自身がどう考えてるのかちゃんと話を聞くべきだ。
  
 「いえ、重かったでしょ?それより話したいことって・・・?」

 「MIUって俺の彼女・・・でいいんだよね?」

 確認して念を押す。

 MIUはオレの顔をじっと見て何かを考えているようだ。

 考えているというか決断した表情になる。

 「先輩は私が彼女でいいんですか?」

 「うん。というか、MIUがいい。MIUが好きだから。

 MIUを守りたいんだ」

 たかが高校生だけど精一杯守りたいという気持ちに嘘はない。

 もう遠くから見るだけじゃいやなんだ。
 
 近くにいて手をつないで一緒に歩いていける、そんな関係がいい。

 必死になって訴えてるオレの目からそらすことなく

 MIUもまっすぐに見て答えてくれた。

 「私のほうこそよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる彼女をみて抱き着きたい感情を理性で抑えた。

 それから誰よりも本当の彼女に近くなりたくてお願いをした。


 「MIUじゃなく名前で美歌って呼んでもいい?」

 
 周りに聞こえないように耳元でいったんだけど

 それがまずかったらしくMIUは真っ赤になってカチンコチンに固まるし

 小松姉が遠くから「セクハラ会長!!」と怒鳴っているのが聞こえた。

 失礼な。

 ま、そんな外野は置いといて。

 真っ赤になって固まってるMIUを見て思わず笑みがでる。

 かわいいなぁ。

 こんなふうだからからかいたくなる。

 でもあんまりいじめると前のように逃げられりゃうから

 今度やるときは逃げれないようにたっぷりかわいがろう。

 今日のところはこのくらいにしておく。

 鼻をぎゅっとつまんでやった。

 また彼女の後ろのほうから小松姉が「訴えてやる!!セクハラ会長!!」

 と聞こえたのも無視しよう。

 今はこの幸せな気持ちに浸りたかった。

 だけどやっぱり邪魔する奴はいるもので。

 「MIUと呼んだほうがいいのかしら?それとも本名で呼んだほうがよろしい?

 門前 美歌さん」

 そういって泉はオレ達の前に立った。

 「泉・・・・・」

 MIUを傷つける奴はだれだろうとゆるさない。

 そっとMIUを後ろに回し泉から見えないようにかくした。

 


 

 
 
 

 


 
 

 

 














 

 
 






 

 



 




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