14. ふみだす勇気




    side ayumu






 


 MIUのまっすぐな瞳。

 とても力強いまっすぐな瞳。

 なんて綺麗なんだろうと思ってしまった。

 あんなに小さくて細いのにどこにそんな力があるのだろうか。

 思わず見とれてしまった。

 

 「いいのか?そんなことしたらお前はプライベートが無くなるのだぞ?

 人前に出るのが苦手だろうが」

 プライベートか。
 
 確かになくなるだろう。

 MIUには辛いことになると思う。今までオレが見た限り高校に通ってるというのは

 隠そうとしていた。

 うちの学校はオープンな学校で

 きちんと単位をとって成績さえ落ちなければ芸能人だろうが

 ヤンキーになろうが注意されることはない。

 だから学校のほうは問題ないが、

 ただでさえマンモス校だからギャラリーがすごいことになるだろうな。

 そのことはMIUもわかっているはず。

 どうして今まで隠していたのかは分からないが、

 MIUの性格と社長との話を聴く限り

 きっとあまり人に注目されたくないんだろうな。

 彼女の表情が一瞬曇った。

 

 
 大丈夫だよ。

 どんなことがあってもオレはMIUから離れず守るから。

 それに君には乗り越えられる力がある。

 今のMIUならきっと乗り越えられる。




 そんな想いで見つめていると、不安そうにこっちを見た。

 オレは頷きながら笑顔を返す。

 きっとMIUにはこの気持ち言葉にしなくても伝わるはず。


 
 彼女はオレの気持ちが伝わったのか、コクリと頷くと

 社長のほうをまっすぐ見つめた。

 

 うん。いい表情だ。

 

 「プライベートがなくなるかもしれない。

 いやなことも言われるかもしれない。

 だけど、もう誰かに隠れながら歌うことをしたくない。

 ファンの方たちの前できちんと向き合いながら歌いたい」


 彼女ははっきりとそういった。

 しばらく何かを考えるようにじっと見た社長はふうと溜め息を吐くと

 オレたちに背を向け言った。

 「勝手にしろ。私はもう何も助けないからな」


 やった!認めてもらえた!


 心の中でガッツポーズをしつつ笑顔でMIUを見つめた。
 
 彼女は最初信じられないといった表情で、

 もう一人立っていた女性のほうを見ていたが、

 こっちを向いて満面の笑みを浮かべていた。

 そんな彼女を見ると今すぐ抱きついてよかったねと言ってあげたかった。

 でもこれはオレの役目じゃない。

 ぐっとこらえて微笑み返した。

 それから二人でお礼をいって部屋から出ることにした。









 優にぃをずっとまたせてしまった。

 携帯で時間を確認するとかなり経過していることに気付き

 すぐに帰ることにした。

 今日は彼女が留学せずにすんだが、問題は山積みだ。

 優にぃからもらった資料をもう一度読み込んでから、
 
 自分なりに考えて優にぃに力を借りることになるだろう。

 学校のほうは・・・・・・・

 と、そこまで考えていると後ろから声をかけられた。


 「あの、歩先輩」

 もじもじしながらMIUが立っている。

 「今日はありがとうございました」

 彼女はオレに向かって頭を下げる。

 彼女がお礼を言う必要はない。

 オレが勝手にやったことだし、原因はオレのせいでもあるのだから。

 「そんな、お礼を言われるようなことはしてないよ。

 俺にも責任があるし、MIUにどこにも行って欲しくなったから」

 なんだか良心が痛む。

 それをごまかすように頭をぽんぽんなでた。

 「でもよかったね。自分の気持ちが伝わって。

 かっこよかったよ」

 はっきり社長に向かって自分の気持ちを伝える彼女は

 綺麗だったしかっこよかった。

 「かっこよかった?」

 「そ、惚れ直していたとこ」

 そう、惚れ直した。

 オレはいい女を好きになったなって。

 でもやっぱりオレの一方通行みたいで、

 彼女は困った顔して下を向いた。

 「うーん。困らせちゃったかな。ごめんね」

 また頭をぽんぽんと撫でてごまかした。

 そうだよな、好きな男いるのに

 何度も告白されちゃあ迷惑だよな。

 はぁっと彼女に聞こえないようにため息を吐き彼女から離れた。

 今日はこれ以上MIUのそばにいちゃ危険だ。

 そう思った矢先、後ろから洋服のすそをつかまれた。

 「困っていません。多分ですけど・・・・

 ちょっと恥ずかしかっただけで困ってるとかじゃぁ・・・・・・」

 そんな期待をさせるようなことはいわないでくれ。

 オレ勘違いするよ?

 振り向くことも出来ず、ただ尋ねるのに精一杯だった。

 「それはどうして?」

 「どうしてって・・・・」

 ほら、答えに困る。

 自分でもそんなことを聞いてしまって少しへこんだ。

 どうせ答えなんか、ない。

 「MIUには付き合っている男がいるだろう?

 それなのにほかの男から告白されても迷惑じゃないのか?」

 口調が自然ときつくなる。

 本当はMIUに優しくしてあげたいのに

 自分のことを迷惑だなんていうと正直辛い。

 こんな嫉妬に渦巻いた表情をMIUに見せたくない。
 
 

 

 「違う。私、誰とも付き合ってなんかいません。

 先輩の気持ち迷惑なんかじゃありません。

 むしろ、うれしい・・・です」

 誰とも付き合ってない?

 う、うれしい?

 これは幻聴か?

 
 自分に都合のいい幻聴を聞いているような気がする。


 「私、私も先輩が好きなんです。

 だから迷惑なんかじゃないです」





 MIUがオレのこと好き?

 
 
 



 
 その言葉でオレの理性は吹っ飛んだ。

 頭が真っ白になるってこのことを言うんだろうな。

 



 もう遠慮しなくてもいい。

 遠慮なんかせずに彼女のそばにいられる。

 守ることができる。 

 





 自分の腕の中に彼女を押し込んだ。

 少し苦しいかもしれないけど、力をコントロールなんかできない。

 

 
 彼女の口から「好き」という言葉が出るなんて思ってもみなかったから、

 嬉しすぎてどうにかなりそうだ。

 ここで大声で叫びたい気持ち。
 
 歌をうたってもいい。 


 「ねえ、もう一回言って?」

 
 興奮する気持ちを抑えてこう言った。 

  

 何度でも何度でも聞きたい。

 彼女の口から「好き」という言葉を。

 
 こんなこと言ったらきっと真っ赤になって睨むんだろうな。

 それがまたかわいらしくて

 もっともっと好きになると言ったら
 
 MIUは怒るかな?


 
















 

 
 






 

 



 




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