14. ふみだす勇気




    side miu




 



 幼いころから言い続けられた。

 私は何も出来ない子だと。

 四姉妹で一番上の姉は綺麗でスタイルもよく

 子供のころからモデルを始めた。

 今は世界に出てパリコレなどに出ている。

 二番目の姉はとにかく頭がよく本当は経済学を学びたかったのに

 私が心配でマネージャーをしてくれている。

 三番目の姉はスポーツが得意でバスケの道に進み、

 現在はプロで活躍している。

 
 四番目の私だけが、なにもできなかった。

 人見知りなところもあり

 いつも誰かの影に隠れていた。

 そんな私にいつも父はこう言った。




 「お前は俺のいうとおりにすればいい」


 

 父に逆らうことが怖かった頷くことしか私は出来なかった。

 


 そんな私に母はこう言った。
 
 「美歌、あなたには声があるのよ」

 「声?」

 白いベッドの上でにっこりと笑う母はすごく細くて綺麗だった。

 「そう、美歌の歌声は人の心に届くの。

 ただ歌がうまいだけじゃ、心に届かないわ」

 うまいだけじゃ届かない・・・。

 「それはとてもすごいことなのよ。

 落ち込んだときとか悲しいときとか、つらい気持ちを癒したり

 がんばろうって気持ちにさせるなんて

 誰にも出来ることじゃないのよ。

 だからね、あなたは胸を張って生きて」



 胸を張って生きて―――――――。




 父から何も出来ないと言われ続け落ち込んでいる私に

 何度も何度もこう言ってくれた。

 

 
 ここで父の言うとおりにしてしまったら

 私は胸を張って生きてるとはとてもいえない。

 逃げることを選択してしまったら、

 この先ずっと逃げることになる。

 私が歌詞にこめたいろんな気持ちがうそになってしまう。

 あんなに支えてくれたファンの人たちを裏切ることになる。

 そんなのいやだ。

 私は悪いことをしているわけじゃない。

 ぐっとにらむように父を見つめていた。

 「いいのか?そんなことしたらお前はプライベートが無くなるのだぞ?

 人前に出るのが苦手だろうが」

 確かにプライベートは無くなってしまう。

 私が誰なのかみんなにばれてしまう。

 みんなに・・・・

 ふと、歩先輩を見た。

 私、歩先輩にも自分が誰なのか告げてない。

 急に不安になってしまう私を歩先輩はにっこりと笑った。

 大丈夫だよって言ってくれているように。




 大丈夫。

 私は私。
 
 歌っている私も学校に通っている私も私。

 これ以上、誰かの後ろで歌い続けるのはなんだか違う気がする。

 堂々とこれが私なんだって歌いたい。



 歩先輩に頷いて前を向いた。

 

 「プライベートがなくなるかもしれない。

 いやなことも言われるかもしれない。

 だけど、もう誰かに隠れながら歌うことをしたくない。

 ファンの方たちの前できちんと向き合いながら歌いたい」

 そういった私の顔をしばらくじっと見つめた父はふうと溜め息を吐くと

 私たちに背を向け言った。

 「勝手にしろ。私はもう何も助けないからな」

 思わず未来ねぇを見た。

 未来ねぇは私ににっこりと笑って頷いた。

 そして歩先輩を見ると先輩も笑っている。

 嬉しくって思わず、

 「ありがとうございました」

 と深くお辞儀をした。

 歩先輩も、

 「ありがとうございました」

 とお辞儀をして二人で社長室を後にした。















 「あの、歩先輩」

 廊下で私より少し前を歩く先輩を呼び止めた。

 先輩はさっきの人の車で帰ることになり、

 私は未来ねぇと一緒に帰るため車まで見送ることにした。

 ゆっくりと振り向く先輩に頭を下げた。

 「今日はありがとうございました」

 先輩がいなかったら私はきっと父に言いくるめられていただろう。

 「そんな、お礼を言われるようなことはしてないよ。

 俺にも責任があるし、MIUにどこにも行って欲しくなったから」

 にっこりと笑い先輩は私の頭をぽんぽんっと撫でた。

 「でもよかったね。自分の気持ちが伝わって。

 かっこよかったよ」

 「かっこよかった?」

 「そ、惚れ直していたとこ」

 う、わ。惚れ直すって。

 頭から湯気がでそう。

 思わず下を向いてしまった。

 「うーん。困らせちゃったかな。ごめんね」

 また頭をぽんぽんと撫で少しさびしそうな声とともに

 先輩の足が離れていくのが見えた。

 

 あ、先輩がいってしまう。



 そう思ったら体が自然に動いていた。


 先輩の服のすそをつかんでいた。


 「困っていません。多分ですけど・・・・

 ちょっと恥ずかしかっただけで困ってるとかじゃぁ・・・・・・」

 ここまで言ってあとはもう恥ずかしくって言葉が続かなかった。

 しばらく黙っていた先輩は背を向けたままゆっくりとたずねた。

 「それはどうして?」

 「どうしてって・・・・」

 どうしてだろうか。

 「MIUには付き合っている男がいるだろう?

 それなのにほかの男から告白されても迷惑じゃないのか?」

 付き合っている男?迷惑?

 どうしてそんな誤解を招いたのかわからないけど、

 先輩は私が誰かと付き合っていると思ったままみたい。

 「違う。私、誰とも付き合ってなんかいません。

 先輩の気持ち迷惑なんかじゃありません。

 むしろ、うれしい・・・です」

 ああ、もう。

 なんて苦しいの。

 こんなに自分の気持ちを伝えるのに苦しいなんて。

 でもきちんと伝たえると

 私は決めたんだ。



 大きく深呼吸して言葉に自分の気持ちをこめた。




 「私、私も先輩が好きなんです。

 だから迷惑なんかじゃないです」



  
 ぐっと先輩の服のすそを握っていたはずなのに

 いつの間にか私は先輩に抱きしめられていた。

 


 「ねえ、もう一回言って?」

 


 無理です、先輩。

 心臓がもちません。















 

 
 






 

 



 




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