13.自分の足で                





 side ayumu








 腕の中の彼女はすごくすごくきれいで。

 吸い込まれそうな瞳の奥には何かを訴えるようなものが見えた。

 それが何なのか俺にはわからない。







 「未来ねぇ?」

 MIUの姉らしき人物から電話があった。

 それなのに彼女はなんだか渋い顔になる。
 
 それどころか、どんどん青い顔になっていくのを見て、

 マナー悪いと思いつつ離れている彼女に声をかけた。

 「大丈夫?」

 声をかけたのと同時に手を握る。

 彼女の手があまりにも冷たくなっているのに驚いてそっと掴むつもりが

 握り締めていた。

 電話の内容はきっと仕事のことだろう。

 それもあまりよくない内容・・・。

 勘だけど、きっと泉がらみ。

 「理由はわからないけど事務所に帰るように言われて。すいません、今日は帰ります」

 やっぱりな。

 何かあったんだ。

 「もしかしてなんかあった?」

 彼女の瞳が一瞬揺らいだ。
 
 不安いっぱいの彼女を一人にするわけにはいかない。

 「もしかしたら俺関係しているかもしれない。事務所に行くなら俺も一緒に行く」

 MIUは了解してくれないかもしれない。

 だけどこのままにしておくわけにもいかないし。
 
 「ごめん、意味わかんないよね。説明は車の中でいいかな?いそいでるんだろ?」

 そうやって無理やり優にぃの車へと促す。

 この車が誰のものかちゃんと説明し後ろの座席に座らせる。

 「オジャマシマス・・・」

 緊張した声でMIUが乗り込むとどこかのんびりとした優にぃが冷やかすように声をかけた。

 「おっ。歩の彼女かぁ?よろしく〜」

 優にぃには彼女だと説明したいところだけど残念ながら

 彼女じゃないからスルーするしかない。

 「優にぃ。悪いけどさぁ、美月プロダクションまで乗せてほしいんだけど」

 「全くうちの甥っ子は人使いあらいねえ。挨拶もさしてくれないんかよ」

 あはは。申し訳ない。頼みごとができるのは優にぃぐらいなんだよ。

 後で何でもするから。

 すると彼女はあわてて挨拶し始めた。

 「あの、はじめましてMIUと言います。今日は突然乗せて貰ってすみません」

 頭をぺこりと下げる。

 「えっ?MIUって歌手のMIU?本物?」

 びっくりするよね。MIUは一応誰なのか隠してることになってるから。

 そのことを忘れてるんだろう、しっかり自己紹介をしちゃってる彼女は

 緊張した顔になっていた。

 「優にぃ。とりあえず進んで?」

 「あぁ。ごめん」

 車はナビに案内されながら事務所に向かった。

 緊張をほぐすつもりでMIUの手を握る。

 こんなんでほぐれるとは思わないし、

 俺よりもきっと彼氏のほうがいいんだろうけど

 とりあえず俺の手で我慢してもらおう。

 「びっくりしてるよね、ごめん。

 今、MIUに何か悪いことがあったのなら多分俺のせいだと思う」

 泉が親の力を使って事務所とかなにかに圧力をかけてきたと思う。

 だけど泉の名前を出すわけにはいかない。

 きちんと証拠を握って本人に謝らせないと意味がない。

 「原因がはっきりわかってからじゃないと何ともいえないけど、

 多分・・・これからMIU悪いことが起きるんだ」

 俺の勘が外れることを祈りつつ、車は前へと進んだ。

 

 事務所に着いて優にぃと俺はとりあえず車で待った。

 MIUはなんだかフラフラしながら事務所に入って行く姿を見送るのは

 心苦しいものがあったがここで俺にできることを考えないと。

 「で、うちの甥っ子は何を抱え込んでるのかな?」

 優にぃがニヤニヤしながら運転手席から体ごと振り向いた。

 「えっと・・・。個人情報はちょっと・・・・」

 「何いってんだよ。お前、あの子好きなんだろ?それを泉ちゃんがじゃまするんだろ?」

 何でばれてる!!

 優にぃの洞察力には今まで驚かされたけど、

 まさかここまで・・・!

 「なーんて、俺がこんなに知ってるのは泉ちゃんに色々と聞いてたからだよ。

 最近、歩がそっけないだの、邪魔をする女がいるだの」

 「邪魔って・・・・俺はもともと泉とはなんともないと何度も話したのに」
 
 「歩の気持ちは俺も知ってたよ。だから適当に流してたらどうも怪しい動きしていたから

 ちょいと調べてみた。しっかし嫉妬に狂った女は怖いねー、女子高校生とは思えない行動力だよ」

 優にぃは、はぁっとため息を吐きながら大きな封筒をかざした。

 ぱっとその封筒に手を伸ばすとさっと避けられた。

 「ふふーん。これが欲しかったら約束すること」

 「約束?」

 優にぃのたくらんだ顔がなんだか憎らしく見える。

 「そ。お前は何でも一人でことを済まそうとする。

 確かに自分の足で立つことは大事だけどお前の場合、

 もうちょっと家族を頼れ」

 「え・・・・」

 思っても見ない言葉が出てきたので思わず聞き返してしまった。

 「まー、あの兄貴がそうやって育てたんだけどさ。もうちょっとかわいげが欲しいよなー。

 たまにはかわいくお願いしてみろ」

 「かわいくって・・・・」

 絶句してしまっている俺を見て優にぃは噴出した。

 「冗談だよ。はいどうぞ」

 そういって封筒を俺に渡してくれた。

 慌てて中を確認すると週刊誌にMIUのプライベートを載せた記事と

 それを指示した詳細が書いてある報告書が書いてあった。

 「悔しいことにこの記事は止められなかったんだよなー。

 泉んちはメディアに強いからさ。どうにでもできるっぽい。

 やな家だねー。ああいう所は早めに潰さないと・・・」

 物騒なことをつぶやいていたところは聞かないふりをした。

 この証拠があるだけで十分。

 「優にぃ」
 
 資料をぎゅっと握り締め、頭を下げた。

 「ありがとう。今はこの資料もらえただけで十分。

 だけど・・・・・これから力借りることになると思う。

 その時はよろしく頼む」

 きっとさっき頼れって言ったのは本気も入ってた思う。

 そんな優にぃの優しさが温かい。

 にっこり笑ってMIUの事務所に入っていった。

 





 

  







 
 MIUの事務所は結構大きく受付もなんだか入りづらいものがあったが、

 意外とすんなり入ることが出来た。

 こんなことでいいのかとちょっと心配になったけど

 今はそれどころではかなった。




 「美歌、お前今すぐ留学しろ」

 ドアの向こうで声がした。。

 えっ?

 「この記事のことが落ち着くまで留学してこい。独りが嫌なら未来と一緒に行け」

 留学だって?

 ふざけんな。

 「えっ、でも・・・・・」

 「いいからお前は俺の言うことを聞けばいいんだ!」

 MIUの抵抗する言葉も怒鳴り声にかき消された。

 留学なんてさせるものか。

 どうしようかと考えるよりも体が先に動く。




 「お話中すみません。失礼します」





 留学なんかさせない。

 なんとか説得してみせる。



 「なんだ?お前は」

 「俺、MIUと同じ学校に通っている町田歩といいます。今回の記事の件俺に責任があるので謝罪に来ました」

 部屋の正面にはつめたい表情をした男が座っていた。多分あれが社長・・・。

 その前に立っていたMIUはかなり驚いた顔をしてこっちを見ている。

 「すみませんでした!」

 ハッキリと大きな声で謝った。

 まずは泉のやったことをきちんとあやまる。

 「訳を聞こうか」

 訳は言えない。今、ここで泉のことを出すと余計にもめるだろうし、

 泉自身に反省させることが大事だろう。

 だがきっかけは俺だ。

 「訳は・・・・・、訳は言えません。でも責任は俺にあります」

 「責任というが高校生の君に責任なんか取れないだろう?」

 あざけ笑われるが今は俺が俺しかできないことをやるしかない。

 「確かに俺はなんの権力もお金もありません。だけど彼女があんな記事に負けないように支えます」

 俺はMIUを見つめた。

 「留学なんかしてもいいの?それじゃあここから逃げるのとおんなじじゃない?」

 MIUは答えない。

 「あんなに頑張ってきたのに?」

 逃げちゃだめだよ。

 外国なんかに逃げちゃだめだ。

 君の声は、

 君の歌は、

 こんなことで離れちゃだめなんだ。

 じっと見つめると、彼女の目が揺らぐ。






 「MIUはどうしたい?」



 頼むから留学なんかしたくないと言ってくれ。

 確かにこの状況では日本にいるのは。つらいかもしれない。

 今までプライベートを一切秘密にしていたのも何か大きな理由があるのかもしれない。

 だけど、人を励ましたり、勇気づけることが出来る人間が

 「逃げる」という選択をしてほしくないんだ。

 もし傷つけられるようなことがあってもきっとMIUなら大丈夫。

 
 それに俺は君を守る。
 

 
 
 
 迷うようにしてMIUは俺の目を見つめた。

 俺は目をそらさなかった。

 

 「私・・・・・」

 MIUの声が緊張していた。

 俺もいつの間にか手を握り締めていた。

 「私は留学なんかしたくない。出来ればこのまま日本で歌い続けたい!!」

  



 MIUは、はっきりと言った。


 俺はほっとして大きく息を吐いた。

 
 






 

 



 




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