12.嵐の前の静けさ










 side miu


 








 先輩が学校に来なくなって数ヶ月が経った。

 なのに毎日のようにプールに来ている自分がいた。

 今日も先輩、来ないのかな・・・・。

 早く先輩に会って話がしたいな。

 いつの間にか高くなった空を眺めながら今日も学校に向かった。

 


 「ミー、どした?」

 後ろから心配そうに瑠璃が声をかけてきた。

 「んー。空が高いなぁって。」

 「空?ああ、たかくなったねー。」

 私と一緒に瑠璃も空を眺める。

 「って、のんびりできないの。悪い。先に行くねー。」

 瑠璃は最近、生徒会でかなり忙しい。走り回って教室にいることが少ない。

 生徒会の会長が新しくなっても副会長は瑠璃のままで

 しかも新しい会長はどうもずぼらな人らしく瑠璃が走り回って

 がんばらなければ仕事が進まないらしい。

 「無理しないでねー。後で差し入れ持っていくねー。」

 と、言った私の声は遠くで聞いたらしくニコニコと手を振っていた。

 ああ、無理しそうだなぁ。

 心配そうに瑠璃を見送る私にまたもや後ろから声がかかる。

 「無理はミーのほうがしてる。昨日も遅くまで仕事だったろ。」

 「竜。おはよ。」

 竜と一緒に教室に向かう。

 竜が心配してる仕事とはラジオのことで、

 最近ようやく慣れてきたところ。

 「うーん。遅いといっても一応学生だからそこまで遅くなってないよ。

 それにいろんな人の声が聞けて楽しいんだ。」

 リスナーさんの声が楽しいと思えるようになって来た。

 前だったら読み上げるのにいっぱいいっぱいだったのに

 いろんな人の応援のおかげでなんとか話もできるようになってきている。

 これは、私にとってすごいことだと思うんだよね。

 この気持ちが竜に伝わったのか私の顔をじっくり見て

 「そうか。でも無理するなよ。」

 そう言ってぽんぽんと頭を撫でてくれた。

 「ありがと。」

 私はにっこり笑って前に進んだ。

 大丈夫だよ。

 まだ、頑張れるよ。

 






 



 うーん、さすがに冷たいや。

 プールサイドにちょこんと座って手を入れてみる。

 水もなんだか濁ってるし、変な色してるような。

 夜になって先輩に会いたくなってプールに来てみたけど
 
 シーズンオフのプールはもう寒くてうずくまってしまった。

 それなのにどうしてもここにいたくて。

 しばらく水を眺めていた。

 


 ぴしゃ。

 ぴしゃ。


 水の中に手をいれる。

 月の光が水に反射してとってもキレイ。

 ゆらゆらとゆれる水は波のようで。

 今年も海に行けなかったな、なんてのんびり考える。

 海なんか、ここ数年行ったこともなかったくせに。

 だけど、海は好き。

 波の音はすごく落ち着く。

 ずうっと聞いていたい。

 夜の静かな海は私にとってなんだか子守唄のようで。

 自分の帰る場所はここなんだなって自然に思える。
 
 ああ、ほんとの海で歌いたい・・・。

 人魚姫のように岩場に座って、

 ギターを持って。

 その傍らに先輩が座って・・・・・・。




 

 「MIU?」




 その声に、驚いて振り向く。

 「ああ、やっぱりMIUだ。ひさしぶり。」

 にっこりと笑うあの人は、いつもよりも少し痩せていた。

 「せん・・・ぱい?」

 「ここにくれば会えると思って来てみたんだ。

 さすがに呼び出すわけにもいかないから

 ちょっと賭けみたいなところもあったけど、
 
 きてよかった。」

 私の隣に座ってニコニコと笑った。

 うわぁ。

 ほんものだぁ。

 想像してたら本物が傍に来るなんて、ありえない。

 自分が赤くなるのがわかってるから思わず先輩と反対のほうを向いたけど、

 むにゅっと頬を手で挟まれて先輩のほうを向かせられた。

 「むこう向くなんて、さびしいんだけど。」

 う。

 至近距離でその台詞はやめてほしい。

 「離して下さい・・・。」

 どうしても目が見れないから下を向きつつ逃げてみる。

 「逃げないで。」

 だってこんな距離じゃ。

 もそもそしながら逃げようとすると抱きしめられた。

 なんだかここにくると抱きしめられてばっかりのような気がする。

 「逃げないので離して下さい。」
 
 「いや。」

 はぁ。

 いやって・・・。

 なんだか最近、先輩子どもっぽいですよ?

 「先輩・・。」

 「子どもっぽいって思ってるだろ。こんなのMIUの前だけだから」

 ああ、もう。この人は。

 
 私がいうのもなんだけど、

 かわいすぎる。

 私のほうが年下なのに、かわいいと思ってしまうのはだめかな?

 先輩の腕のなかでのんびりとそんなことを考えつつ、

 じんわりとあたたかい腕をそっと撫でた。

 人から抱きしめられることがこんなにも気持ちいいなんて知らなかった。

 ドキドキするけど落ち着くというか幸せな気持ちになる。

 先輩を好きになっていろんな感情が私の中でぐるぐるしてるけど、

 こんなに胸の奥がぽかぽかになるなんて

 思ってもみなかった。

 そっと目を瞑る。





 このままずっとこうしていたいな。






 



 私はこれから起きることを何もわからずに先輩の腕に頬を寄せて

 二人でいることに幸せを感じていた。

 そして今こそ気持ちを伝えようと先輩のほうを向いた。






















 「どういうことだ。どうして防げない!」



 プロダクションの社長であり美歌の父親、拓郎は声を張り上げた。

 社長室であるこの部屋には美歌のマネージャーでもあり姉の未来しかいない。

 「誰かがリークしたみたいです。社のほうに連絡してみたのですがどうも圧力かかっているみたいで」

 未来は悔しそうに机の上に広げてある雑誌を睨んだ。

 「圧力?うちの会社に喧嘩売るなんてたいしたもんだ。」

 芸能プロダクションの中でも1.2を争うほどの大手であり、社長である拓郎にそのような行為をしたらただでは済まないと

 その世界では誰もが知る中、この会社に喧嘩を売る会社など無いに等しい。

 「とにかくもう差し止められないようなら今後の対策を考えるしかない。美歌はどこにいる?今すぐここにつれてこい。」

 未来は反論しようと口を開いたが彼に反論は通用しないことを思い出し

 電話をるために社長室を出た。

 そして大きなため息をすると携帯をポケットから取り出した。





 

 

 




 

 

 

 

 
 
 

 
 




 
 

 

 
 





 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 
 


  









    






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