11.心を動かす力






             side miu









 鏡の中の自分を眺めた。

 歩先輩はどう思うかな。

 先輩と会ってるときは、メイクして髪もふわふわにしてかわいい服を着てる。

 でも今日はメイクをしていない。

 髪は、一応おろしてるけど、もともとストレートだからそのままにしてる。

 それと、カラコンをはずしてるから、

 瞳の色はブルー。グレーに近いブルー。

 お母さん譲りの色。

 これが、ほんとの私。

 


 

 


 チャプリと音をたてて足をプールに浸した。

 冷たくて、気持ちいい。

 プールサイドに座って周りを見渡す。

 まだ、先輩来てないよね。

 そのまま後ろに倒れて夜空を見上げてみると、

 今日は満月だった。

 星は都会だからあんまり綺麗に見えないけど、

 月がとても大きく見えた。

 


 「眠ってるの?」



 頭の上から先輩の声がして飛び起きた。

 

 「起きてます。」

 飛び起きた私は、先輩の表情にびっくりした。

 顔色は悪く、目が真っ赤だった。

 「だいじょう・・・ぶ・・・。」

 声を掛けようとした瞬間、先輩の頭が私の肩にもたれかかった。

 後ろから座ったまま包み込まれるようにして抱きしめられ、動けない。

 どうしよう・・・・。

 明らかに様子がおかしい先輩に対して言葉がでなくなった。

 「MIU。俺の名前呼んで?」

 名前?

 「町田先輩。」

 「名前。」

 なんでこんなこというのかわからない。

 「歩・・・・せんぱい?」

 名前を呼んだけど返事はなく、動かない。

 「歩せんぱい?」

 そっと先輩の髪をさわった。

 何があったのかわからないけど、先輩が元気がないのはわかる。

 先輩の頭をそっとなでてみた。

 何度も何度も。

 


 ようやく、先輩はぽつりと口を開いた。

 「おれさ。親父と喧嘩したんだ・・・・。」

 うん。それは今日電話でききましたよ?

 「どうしてもどうしても押さえつけられるのがいやで、

 反抗ばかりしてた。」

 先輩もそんなふうに思うことあるんだ。

 先輩とお父さんの関係がどんなものなのか私は知らない。

 とても大きな会社の社長さんをやってるお父さんが、

 どんなひとなのかも私は全く知らなかった。

 「それでも俺は自分がやったことは間違ってないと思ってた。」

 思ってた?

 過去形?

 「だけど、今日親父が倒れたんだ。」

 え?倒れた?

 「親父は、俺に心配掛けないために、心臓が悪かったのを隠してたんだ。

 俺が一人前になるまでに会社をつぶさないようにたった一人でがんばってたんだ。

 それなのに俺はただガキみたいにいきがってばっかりで・・・・・。」

 そこまで話すと先輩は言葉を詰まらせた。



 先輩はやさしいから自分を責めてるんだ。

 自分の勝手な行動が、お父さんに無理をさせたんだって

 後悔してる・・・・・・。







 私はぽんぽんっと先輩の頭を叩いた。

 「大丈夫。」

 うん、大丈夫。

 「お父さんは大丈夫。」

 先輩は私の肩から頭を上げた。

 「だから、今は後悔するよりもがんばってるお父さんにできることを

 考えるべきだと思います。

 後悔してもお父さんが良くなるわけないじゃないですか。

 それならば今、先輩が先輩にしかできないことを考えてやったほうが

 おとうさんのためになるんじゃないでしょうか。

 どうしても後悔がしたいのなら、すべてが終わってから

 私が一緒に後悔でもなんでもしてあげます。」




 先輩の力になるのなら。

 私はいくらでも一緒に悩むよ?

 辛いことがあるなら一緒に考えるよ?



 先輩はしばらく動かなかったけど、すくっと急に立った。


 

 「MIU。」


 振り返るように下から先輩を見上げたけど、表情が見えない。

 

 だけど。


 「ありがとう。」


 その言葉できっと今、笑顔なんだなってわかった。


 「俺、しばらく学校にこれないかもしれない。

 だけど、がんばるから。」

 きっと、自分のやるべきことが見えたんだよね。

「うん。がんばって。」

 先輩にしかできないことがあるのなら。

 私は全力で応援することしかできない。

 だから、何度でも何度でも応援するよ。

 「がんばれ、先輩。」

 家まで送ってくれた先輩を見送りながら、

 私は何度も先輩に向かってつぶやいた。









 家に戻ると未来ねぇにすぐさま駆け寄った。

 「な、なに?」

 「おねぇ、私。うけるよ。」

 お風呂上りで髪をバスタオルで拭いていた未来ねぇは

 私が急につめよったもんだからびっくりしている。

 「は?なにを?」

 「ずっと前から言ってた仕事うけるよ。」

 ずっと前から言われてたけど出来なかった。

 だけど、今はやろうって思えるようになった。

 「ラジオの仕事。うけるよ。」

 ほんの数分番組だけど、深夜というラジオではゴールデン時間枠。

 そんな仕事私には絶対無理だと思ってた。

 だけど、先輩にがんばれって言ったからには

 私も何かがんばりたい。

 何かを乗り越えたい。

 無性にそう思った。

 「でも、人とかかわることになるんだよ?大丈夫なの?」

 「わかんない。でもがんばる。がんばりたい。

 学校には支障きたさないようにする。

 歌もちゃんとやる。

 だからやらせて。」

 私が本気なのが伝わったのか、

 未来ねぇは深いため息をついた。

 「わかったわ。ラジオ局からはずっとオファーがあってたから

 向こうは大丈夫だし。

 あなたさえやる気がでたのなら私は何も言わない。

 だけど中途半端は許さないからね。

 これは仕事よ。わかった?」

 未来ねぇの目を見て大きくうなずいた。

 今の私は怖いという思いよりも、

 がんばりたいという気持ちでいっぱいになっている。


 





 先輩もがんばってるんだ。


 


 私もがんばらなければ。







 
 その思いが今の私を大きく動かした。



 



 

 

 
 
 

 
 




 
 

 

 
 





 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






inserted by FC2 system