10.恋をするということ













   side ayumu





 


 


 珍しく早くに目が覚めた。

 外は丁度夜が明けようとしている。

 あまりにも澄みきった空だったから慌ててカメラを手に取り、

 外に飛び出た。

 




 昨日、想いを告げて気持ちがすっきりした自分の気持ちのようで。

 彼女がどう受け止めたのかわからないけど、
 
 好きだという気持ちは大切にしたい。

 初めて気付いた好きだという感情。

 今までこんなに強い想いを持ったことがなかった。

 付き合ってと言われて何となく付き合ったり。

 付き合っている間になんとなく好きなのかなって思う程度で。

 だけど、彼女に出会ってから人を想うという気持ちの本当の意味を知った。
 
 


 ふと、左手を見る。



 彼女と初めてつないだ手。



 つないだ瞬間、気持ちまでつながったような錯覚に陥った。

 彼女の気持ちは他の人のものだと知っているのに。




 空を見上げた。

 いつの間にか晴れ晴れと明るい太陽がすっかり出ていたため、

 もう一度カメラを手にし、

 さっきと色が変わった空を撮影した。







 朝にいいものが撮れたと上気分で学校に向う。

 空の微妙な色の変化をゆっくり撮れるなんてラッキーだ。

 それをどう編集するかと考えていると前に走っている彼女が見えた。
 
 双子の下に当たり前のように駆けていき、間に入ってにこやかに話をしている。

 いつか、俺のところにもああやって駆け寄ってくれる日がこないだろうか。

 そのときまで、ただ見つめることしかできないなんてなぁ。

 なんて切ないことを想像して凹んだ。

 朝からテンションが上がったり下がったり。

 彼女のことを考えるだけでこんなにも感情がふりまわされるなんて

 思ってもみなかった。

 恋をすることってこんなにも大変だとは思わなかったよ。










 教室に入り授業が始まり、教科書を広げながらなんとなく向かいの校舎を眺めて、

 彼女を捜す。

 
 あれ、いない?


 朝から元気よく笑ってたのに。

 どこかでさぼってる?

 サボるタイプじゃないと思うけどな。

 そう考えながら屋上を見上げた。


 


 ・・・・・・・・・。




 三人とも丸見えだよ。

 あまりにも堂々と屋上でサボっている三人を見てガクッとしてしまった。

 一応、こそこそして、隅っこの方に座っているけど、

 こっちの校舎から丸見えだから意味がないような・・・・・。

 深い溜息をつきながら、教科書に目を落とす。

 といっても、見てるだけだが。





 しっかし、気になる。

 すごく気になる。

 三人が何を話しているのかすごく気になる・・・。

 おそらく、昨日のことを報告しているんだろう。

 彼氏にきちんと報告しているんだろうな。

 ここからはMIUの表情は丁度背を向けていているからまったく見えないが、

 彼の真剣な表情がみえる。

 怒ってはいない・・・・・・・みたいだな。

 表情に出ないだけか?

 
 どうしたと思った瞬間、

 授業終了のチャイムが鳴る。

 遠くから必死に表情を読んでいると双子はMIUからにこやかに手を振りながら

 離れていった。

 MIUは座り込んだまま何かを覗き込んでいる。

 何か言われて落ち込んでるのか?

 どうしようか、電話してみようか。

 この前、MIUから電話もらって速攻アドレスに登録してあった番号。

 少し考えてボタンを押した。

 「もしもし、MIU?今、大丈夫?」

 窓際に立ちMIUの後姿を見上げながら話す。

 「はい、大丈夫です。どうしましたか?」

 「何となく。声が聞きたくなって。」

 落ち込んでる?なんて聞けるわけないし。
 
 少しでも表情が見えるとわかるんだけどあいにく彼女は向こうを向いたままだった。

 「ええと・・・。あの・・・。」

 声だけでMIUが今真っ赤になっているだろうって想像できるところがかわいいなぁ。

 「くくっ。そんな反応されるなんてかわいいなぁ。

 早くMIUに会いたいよ。」

 「私は会いたくないです。」

 この口ぶりでは落ち込んでる様子はないな。

 安心した。

 MIUがこんなふうな口ぶりをするとつい意地悪を言いたくなってしまう。

 自分の素直じゃないなってつくづく思う。まあ、MIU限定だけどさ。

 「ふーん。じゃあ、今日は一人プールで待ちぼうけだね。」

 そうですねって言われたらかなり凹むけど。

 だけど彼女の口から出た言葉は俺を喜ばすものだった。

 「それじゃあ、かわいそうなので顔だけ出します。」

 「つれないなぁ。まあいいや、会えるだけで。

 じゃあ、休み時間終わりそうだから続きはあとでね。」

 こんなふうに言っても俺の心の中はうれしさいっぱいで。
 
 MIUの方をずっと見つめながらにやけている。

 




 電話を切り、慌てて屋上から姿を消すMIUを見送っていると後ろの方から

 俺を呼ぶ声がした。

 「先生、なんすかー。」

 教室の出入り口に担任が立っている。

 いつもやる気なさそうにだらりとした風貌なのに今日は珍しくまじめな顔をしてる。

 なんだか焦ってるみたいだ。

 「どうしたんですか?」

 机をよけながら担任のもとへ行くと俺の両肩を掴みこう告げた。


 

 「歩、よく聞け。

 お前の親父さんが倒れたらしい。

 今すぐ大学病院へ向うんだ。」








 俺の中でつめたいものが駆け巡った。
 



 
 

 

 
 





 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






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