10.恋をするということ








 side miu









 ふわふわふわふわ・・・・・。


 朝、ベッドの中で目が覚めてもまだ夢の中にいるみたい。

 夢の中というより海の中にいる感覚に近いかな。

 前は、自分がなくてふわふわ海のそこにいるような感じがしたけど、

 今はそんな暗いイメージじゃなくて息をしなくても泳いでいられるというか、

 まるで人魚姫のように海の中を歌いながら泳いでる感じ。

 恋をするってこんな感じなんだ。

 昨日はあんなに苦しかったのに、

 一晩経ってみると全く違う感情になってる。

 先輩の言葉や、笑顔できっとかわるんだろうな。

 ベッドの中で寝たまま右手を真直ぐかざす。

 先輩とつないだ手 ――――――― 。

 思い出して恥かしくなりベッドの上でごろごろと大暴れしちゃったけど

 目覚まし時計の音で現実に引き戻された。

 



 「おはよう。瑠璃、竜。」

 二人で歩いている姿を見つけると声をかけて走り寄った。

 「おはよう。」

 「おはよう、ミー。」

 二人が私を挟んで歩き出した。
 
 「どうしたの?何だかいつもと違うみたいだけど。」

 さすが瑠璃。ドキッとしながら思わず見つめた。

 「うん。私ね、好きな人ができた。」

 この二人にはきちんと私の気持ちを話したいと思ってたから、

 正直に話した。

 「好きな人?」

 びっくりした様子で瑠璃は私に向き直った。

 「うん。今は人が多いから誰だが話せないけどいつもの昼休みに・・・。」

 「昼休みまで待てない。竜、一限目は?」

 「化学。」

 「化学なら二人抜けたって先生は気付かないよね。

 こっちは地理だから先生甘いし大丈夫。

 よし、屋上行くわよ。」

 え?


 え?


 何が何だかわからないうちにぐいぐいと引っ張られていつもの屋上の

 いつもの場所に座っていた。いや、座らされた。




 「で、最初から話してね。(はーと)。」

 「・・・・・・・。」

 瑠璃と竜二人から圧力をかけられているような気がする・・・・。

 「好きな人は町田先輩。町田歩先輩なの。

 昨日、好きだって気がついたの。」

 初めて自分の気持ちを言葉にしてしまった。

 心の中で想うことより、言葉に出す方がずっとずっと難しいっておもってたのに、

 こんなにスムーズに出るとは。
 
 この二人の前だからかな。

 「瑠璃に先輩にあんまり会うなって言われてたのに、

 なぜか先輩によく会っちゃって。」

 それから私は昨日までの話してなかった出来事を二人に話した。

 意地悪な先輩のことや、

 優しい先輩。
 
 そんな先輩をおもって苦しくて切なくて泣いちゃったことや、

 初めて先輩から告白されて何も言えなかったこと。

 手をつないで帰ったときのことなど、細かく話した。
 
 二人はただ黙って聞いてくれた。

 



 「そうなの・・・。歩先輩も好きって言ってくれたんだ。」

 「そうなの。他に付き合ってる人がいるってわかってるけど

 好きだってことは忘れないでって。」

 



 ん?

 他に付き合ってる人?


 自分で言いながらしばし先輩の言葉を考えた。

 「ねえ、ミー。なんか変だね。」

 「うん。変だよね。」

 「そのとき、先輩になんか言ったの?」

 その時は・・・・・。

 「なんだかいっぱいいっぱいで何もいってない。

 告白の返事すら言ってない。」

 瑠璃と竜は二人顔を見合わせ深い溜息を吐いた。

  


 あれ?

 すぐ訂正すべきだった?


 

 「ま、それは置いといて。

 ミーはこの先、どうしたいの?」

 珍しく竜がたずねてきた。

 どうしたい?

 どうしたいかなぁ。

 今は自分の気持がはっきりしただけで、
 
 どうしたいかっていう所まで頭がまわっていなかった。

 「それにさ、先輩は『MIU』としてしか会ってないんだよね?
 
 美歌の存在とか、どう思っているんだろう。」
 
 瑠璃の一言は大きかった。

 



 MIU   と   美歌。


 どっちも私。

 でも先輩はMIUしか知らない。

 華やかな私しか知らないから、

 何のとりえもない私を知ったら嫌いになるかな?

 ここまで考えながらどんどん下を向いている私に竜が

 デコピンしてきた。


 「悪い事は今考えない。

 それは違う。

 ミーは先輩とどうなりたいの?」

 



 どうなりたいのか――――― 。

 


 私は一緒にいたい。


 うん。

 
 一緒にいたい。

 

 先輩の隣で歌っていたい。


 真直ぐ竜を見て一緒にいたいと声に出した。


 「じゃあ、先輩の誤解をといて、みーもきちんと話さないと。」

 



 誤解?



 「誰かとつきあってるって思ってるんでしょう?」

 あー、そうだった。
 
 そう言われたんだった。

 「でも、どうしてそう思ったんだろう?

 もともとMIUの方は身元シャットアウトしてるから、

 週刊誌とかネット上ではまったく恋人どころか年齢すらわかってないはずなのに。」

 うちの事務所はそういうところは徹底しているし、
 
 ましてお父さんが社長なんだもの、

 私が事務所を出入りしてもだれもMIUとは思っていない。

 考えれば考えるほどわからない。

 ずっと下を向いて黙っていた瑠璃は何かぶつぶつ言っている。

 「まさか・・・・。でも歩先輩だしなぁ・・・。」

 考え込みながらだんだんと眉間にシワがよってきた。

 ああ、綺麗な顔なのにもったいない・・・。

 ぶつぶつ呟いている瑠璃をしばらく眺めていたら竜が言った。

 「瑠璃のことは別に気にしなくてもいい。

 何か考えがあると思うから。

 みーはみーで出来ることを考えよう。」

 竜は沢山話すほうじゃないけど、的確なアドバイスをくれる。

 私に出来ることを考えてくれ、

 どんなときでも応援してくれるのだ。

 その気持ちは私でも出来ることがあるって自信にもつながるし、
 
 すっごく大きな力になる。

 「ありがとう、竜。いつも力になってくれて。」
 
 お礼を言うと瑠璃が大きな声で叫んだ。

 「あー、竜ばっかりずるい。

 私だって応援してるんだから。」

 え?

 瑠璃はてっきり反対してるもんだって思ってた。

 なんだか、歩先輩のこともあんまり好きじゃない印象がなんとなくある。

 「うーん。まあ、あの人はある意味完璧すぎてるからね。

 面白みがないというか、読めないというか。

 でもごまかしたり嘘はつかないのよねぇ。
 
 女関係も今まで彼女をつくらなかったのもちゃんと好きな人としか付き合わないって

 公言してたから固い人だと思う。

 それにみーに振り回されている先輩をちょっと見てみたいなって思ってる。」

 そう言って唇の右端を上げてニヤリと笑った。

 瑠璃がこの表情しているときって何か企んでるときなんだよね。

 ちょっと考えが突っ走るときがあってひやひやすることも多々あったり・・・。

 「とにかく誤解を解かなくちゃ。

 今度はいつ会うの?」

 いつ会うって・・・。

 そういえば次の約束してなかったなぁ。

 「まったくもう。

 まあ、みーらしいけど。

 ハイ、携帯だして。」

 手を差し出されて素直に制服のポケットから携帯を出す。

 「じゃあ電話もしくはメールをする。」

 差し出そうとした携帯を顔の前に出されて慌てる私。

 「え?でも今、授業中じゃぁ・・・。」

 その瞬間、授業の終わるチャイムが鳴った。

 「私達は教室に帰るから。

 邪魔しちゃ悪いし〜〜〜〜〜。

 ちゃんと約束とりつけるのよ〜〜〜〜。」

 手を振りながら瑠璃と竜は屋上から去っていった。

 ポツンと屋上に取り残された私。

 どうしようか。

 とりあえず正座してみる。

 電話にしようかメールにしようか考えていると

 急に携帯が大きな音をたてたのでびっくりした。

 ああ、もうバイブにすることすら忘れるなんて。

 慌てて電話をとると甘い声が聞えてきた。

 「もしもし、MIU?今、大丈夫?」

 声を聞いただけで、顔がにやける私っていやらしいのかな?

 「はい、大丈夫です。どうしましたか?」

 「何となく。声が聞きたくなって。」

 


 うわ・・・・。

 こんなことを言われるなんて。

 先輩に顔を見られてなくて本当によかった。
 
 頭のてっぺんから真っ赤な姿なんて見られたくない。

 見られてないとわかってても顔を隠しながら話す。

 「ええと・・・。あの・・・。」

 「くくっ。そんな反応されるなんてかわいいなぁ。

 早くMIUに会いたいよ。」

 「私は会いたくないです。」

 思わず素直じゃない私が顔を出す。
 
 かわいくないなぁ、もう。

 「ふーん。じゃあ、今日は一人プールで待ちぼうけだね。」
 

 今日・・・。

 今日も会えるんだ。

 自然とニコニコとなりつつも意地悪な口調は変わらない。

 「それじゃあ、かわいそうなので顔だけ出します。」

 「つれないなぁ。まあいいや、会えるだけで。

 じゃあ、休み時間終わりそうだから続きはあとでね。」

 そう言って電話を切った。

 時計を見ると休み時間終了5分前。

 

 正直、かなりやばい。

 

 荷物は・・・と捜してないところをみると竜が持っていってくれたみたい。

 ただ走るだけでよさそうだけど、

 運動オンチの私には教室まで全速力でもいっぱいいっぱいの時間。

 あわてて階段を降りた。

 


 でもその足取りは今までなく軽かったのは言うまでもない。






 

 

 

 
 





 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






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