1.月夜




 side ayumu










 「歩ってホント何でも完璧にこなすよな。弱点とかないの?」

 いつの間にか友人によく言われるようになった言葉。

 完璧にこなしてるつもりはないが頼まれたことはなんでもきちんとしたい。

 几帳面とかじゃなくって、ただなんとなくという理由なんだけど。

 「そこが、いいヤツって言われるところなんだよ。」

 いいヤツ?男にいわれても・・・なぁ。

 「だけどもてないよ?」

 「それは女どもが、協定を張ってるからだろ?だれもぬけがけしないように。」

 「はぁ?なんだよそれ。冗談じゃない。

 オレだって彼女ほしいよ。健全な男子高校生なのに。」

 変な冗談はやめてほしい。

 だからと言って適当に彼女を見つけるのはなんだかいやだ。

 やっぱりちゃんと好きになってから付き合いたい。

 最後につき合ったのは中学生三年の時か。

 高校が離れたと同時に分かれちゃったっけ?

 ああ、彼女ほしいなぁ。

 「なにせつなそうな顔してんだよ。オレが、紹介してやろうか?」

 「なに?歩、彼女欲しいのかよ。おまえ、よりどりみどりじゃん。オレにも分けて欲しいくらいだよ。」

 気がつくと野郎ばっかりわらわらと固まってくる。
 
 「うるせーよ。お前らの暑苦しい顔よりもかわいらしい女の子が見たいよ。」

 シッシッと追い払うようにしても肩にまとわりつく友人達。

 「そんな、冷たいこと言わないで。私、こんなにも歩様のこと想ってるのに。」

 ヤロウのダミ声でいわれてもうれしくなんかないね。

 はぁっとため息をつきながら今から仕事がたんまりとたまっていることを思い出した。

 「オレ、生徒会に行かなくちゃ。もう少しで引継ぎだから整理しとかないと。じゃあな。」

 「は〜い、生徒会長さま〜。」

 にこやかにみんな手を振って見送ってくれた。

 重い足取りで4階にある生徒会室へと向う。

 今日も、来てるんだろうな。






 立て付けの悪い生徒会室のドアを蹴りながら開ける。

 空けた瞬間。

 「歩〜。遅かった〜。待ってたのよぅ。」

 はぁ。やっぱり来てたか。幼馴染の石橋 泉。


 入り口で入りたくなさそうに苦笑いして立ってるとすぐさま駆け寄ってきた。

 「もう、待ちくたびれた。」

 腕に絡みつこうとした瞬間、さりげなく彼女の横を通り過ぎてするりとかわす。

 「ああ、仕事たまってた?ごめんね。」

 笑顔で答えるけど、正直最近の彼女の相手はしんどい。妙に、テンションが高いし、疲れる。

 昔はそれなりにかわいかったのに。

 オレのこの態度が、また彼女をくすぶるのか、

 「つれないところも、またいいよね。」

 と後ろでつぶやいている。

 ごめん、オレはタイプじゃないんだ。

 何度も今までちゃんと断っても断ってもなかなか理解してくれない。

 挙句の果てにはいつの間にか生徒会書記までなっているし。

 幼馴染だし、自分にとっては妹みたいなものだからあまり冷たくは出来ない。

 はぁっとため息をついて自分の机に向う。

 「あら、会長。お疲れのようですね。」

 満面の笑みで副会長の小松 瑠璃がプリントを持ってきた。

 彼女は、なかなかの切れ者なんだけど、頭より先に口が出るタイプ。

 二年生で、双子の弟がいる。たしか、バレー部のエースだったような・・・。

 「お疲れのところ悪いのですが、先ほど先生から高校見学についてプリント預かりましたよ。」

 「見回りね。学生が来てる間僕達も顔を出せってやつだろ?普通、説明するのは先生だろ。」

 「そう思います、僕も。」

 会計のめがね君もとい、浦澤君がパソコンに向いながら言った。

 「まあ、見る限り、オレ達の拘束時間は短いみたいだけどね。

 ステージでの挨拶とここでの生活の感想に30分か・・・・。それ以降は、校内見学になってる。

 コースはプリントを見る限りかなり範囲が広い。

 だからそれらを生徒会でフォローする。説明だけでいいから一人に対して学生を10人。

 足りない分は先生で。それでいい?」

 みんながそれぞれ賛成のジェスチャーで返す。

 「じゃあ、この計画を石橋が書式化して。

 副会長は回るコースを確認して。
 
 浦澤君は書式化したものをなるべく早くに先生に提出しといてくれる?」

 「「「了解」」」

 じゃあ、オレは挨拶文を考えますか。

 じつは、これが一番難い。








 集中すること、数時間。

 他のメンバーはそれぞれの仕事が終わったため帰らせた。

 ブツブツ文句を言う人物が1名いたが、副会長が首根っこ捕まえて無理やり強制送還してくれた。

 おかげで、かなり集中して仕事をこなせた。

 「はぁ、もう8時か。」

 そろそろ帰るか。

 カバンに荷物を入れて戸締りを確認して帰ることにした。

 家に帰る手段は自転車だったので自転車置き場に行き、

 正門を抜けていくと遠回りになるからいつも裏門から帰ることにしている。

 今日も、いつものように裏門へ向った。




 歌声が聞えた。

 この時間は、誰もいないはず。

 生徒会だけが半端じゃない仕事量のために帰宅時間を8時までにしてもらっている。

 気のせいか?

 

 また、歌声が聞えた。

 なんて声だろう。

 とても澄んだ声だけどしっかりと響いて、心に残る。

 どこから・・・・・・?

 声のするほうへ自転車を動かす。

 この先はプール・・・。

 月明かりしかないところで、少女がプールに足を浸している。

 体は小さいのにギターが大きくてアンバランスなのに

 彼女にはギターがとても似合っていた。

 この声、どこかで聞いたことがある。

 しばし、歌に聞き惚れ体が動かなかった。

 なんだか、心が温かくなる。

 不思議だ・・・・・。

 曲が終わり、はっと正気に戻る。

 こんな時間に、どうしてここに?

 うちの学校の生徒だろうか。

 「そこにいるのは、誰?学年とクラスは?」

 プールの入り口に向って中のほうに声をかける。

 彼女は、びっくりしてあわてて荷物をまとめて逃げようとする。

 おもわず、手首を掴んだ。

 びっくりして彼女が振り向く。


 


 月明かりしかないけど、彼女の瞳の色に目を奪われた。

 なんて、綺麗な水色なんだろう。

 スカイブルーというのだろうか、青空を思わせる。

 青い青い大きな空。

 でもこの瞳、どこかで見たことが・・・・・。

 「君、ここの学校のひ・・と?

 あれ、もしかしてMIU?」

 そうだ、MIUだ。

 あの歌声、この瞳。

 間違いない。CD持ってるし。

 でも、なぜ彼女が?

 オレの言葉にビクッとして、おびえる表情になる。

 その顔を見て思わず手に力が入っていることに気付いて手を離す。

 「ごめん、急に掴まれたからびっくりしたよね。

 痛くなかった?」

 こんなに、細い手首、力を入れたら折れそうだ。

 心配して覗き込んだら、彼女はプルプルと首を横に振った。

 「よかった。」

 思わず、そうつぶやいたオレをじっと見つめてきた。

 真っ白な肌に大きな瞳。その瞳に吸い込まれそうで。

 

 彼女から目が離せなくなった。

 ただ、心臓の音だけが耳に響く。

 
 

 

 

 
 

 

 
 

 


   




 


 

 

 

 
 

 
 

 
 


  









    






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