8.交差する感情







 






 

     side ayumu















 いつもと同じ朝。

 だけど、なぜか違って感じる。

 「清清しい朝だな、賢。」

 かったるそうに歩いている賢を見つけて後ろから声をかけた。

 「なに、さわやかな男子高生演じてんだよ、朝っぱらから。」

 「さわやかなんだよ、今日は。」

 賢に何を言われても怒る気がしない。

 彼女と会って話せるんだってわかっただけでもテンションが上がる。

 最初はあんなにオレのこと警戒していたのに、

 心配して電話してくれるなんてまるでなかなかなつかない猫が

 擦り寄ってきたみたいだ。

 「お前、中身を知ってるから言うけど、気持ち悪いぞ。」

 ニヤケながらMIUのことを思い出していると、賢が俺にむかって

 いやそーな顔しながら呟いた。

 そんなことを言われてもやっぱり今日は機嫌がいい。

 「はは、オレが幸せそうだからって妬かない妬かない。」

 背中をバンバンと叩きながら自分でもキャラが違うと思いつつも

 今日はそんな事はどうでもいい。

 ああ、早く放課後にならないだろうか。

 「歩、おはよう。」

 そんなそわそわしているオレの後ろから泉が声をかけてきた。

 こいつが歩いてくるとは珍しい。

 大体運転手付きなため、朝校門前で会うぐらいだ。

 「おはよう。今日はめずらしいな。車じゃないんだ。」

 「うん。たまには歩と一緒に登校してみたいなって。」

 「・・・・・・・。」

 あれだけ言ってもまだわからないのか。

 思わず溜息が出てしまう。

 「泉、あのなぁ・・・・。」

 「これ以上言わないで。わかってるから。

 でも、生まれたときからずっと歩のこと見てたんだよ。

 急に忘れることなんて出来ない。

 それにお父様も・・・・・。」

 そこまで言って口をつぐんだ。

 「オヤジがどうしたんだよ。」
 
 まさか、まだあきらめてないんだろうな。

 「お父様、歩は一時の気の迷いだって・・・・。」

 「はぁ?」

 泉に対して怒ってもしょうがないが、あまりにもひどい。

 「まあまあまあ。歩、ここはみんな見てるから。

 な、泉ちゃんもあんまり歩を刺激しないでやって。

 今日は珍しく朝から機嫌がよかったんだから。」

 オレたちの間に賢がうまく割って入ってごまかしてくれた。

 でなければまた言い争いになるところだった。
 
 「ありがとな、賢。もう行こう。

 泉、俺たち先行くから。

 何度も言うけどオレにはもう好きなやつがいるからどうがんばっても

 無理だから。」

 それだけ言って賢とともに教室に向った。

 泉がすごい表情でオレたちを見てようが全く気にも留めずに。










 昼休み。

 オレは、いつものようにバスケをせずに、賢と二人で生徒会室にいた。

 賢は生徒会のメンバーじゃないが、オレが昼忙しいとき、たまにこうやってここに来て、

 自分の好きな子をからかいに来る。

 「ねね、瑠璃ちゃん。こんな仕事、歩に任せちゃってさ、オレと一緒に

 ご飯食べに行こうよ。学食おごるからぁ。」

 「お弁当を作ってきているのでけっこうです。

 それにここで食べますので。」

 いつもながら小松姉は手厳しい。

 まあ、賢ぐらいのやつにはこの位厳しい子のほうがバランスいいんだろうと思うけど。

 「えー、じゃあ、オレもここで食べよう〜。

 パン買ってくるさ。」

 そういってあっという間に賢はパンを買いに購買へと駆け込んでいった。

 「小松姉。別に食事ぐらい友達と食べてきていいんだぞ。

 いつも一緒の子とか待ってるんじゃないか?」
 
 MIUと弟と一緒に食べていることを知ってるからこそ、

 あまり二人きりにしたくないという感情は今のところ表には出してない。

 内心、ムカムカしてるけど。

 「それは大丈夫です。私抜きでもあの二人は仲がいいので。」

 彼女はこちらを見ずに資料をまとめながら答えた。

 「でも、会長?」

 「なんだ?」

 「今までそのようなお気遣いされたことないのにどうして急にそんなこと

 言われるのですか?」

 うわ。さすが、小松姉。
 
 痛いところついてくるよ。

 「別に、最近君達が一緒に食事をしているところを見かけてね。
 
 それにいつも三人一緒じゃないか。まるで三人兄弟のように。

 だから邪魔しちゃ悪いなって思っただけだよ。」

 心にも思っていないことをサラサラと口からでる自分が恐ろしい。
 
 ここには他の生徒会メンバーはおらず、彼女と二人だけで仕事しているため、
 
 正直彼女に抜けられると仕事内容上きついところもある。

 その面からすると彼女に仕事を優先してもらいたいのだが。
 
 だが、小松弟と二人きりだけはさせたくない。

 たとえ二人がつきあっているとしても・・・だ。

 「そうですか?私には他の意味があると思ってしまいましたが。」

 いつの間にかオレの机の前に立ってじっとこっちを見ている。

 彼女が立って、オレが座っているから、かなりの威圧的な態度で見下ろしているように

 感じられるんだが。
 
 もしかして、オレの気持ちがばれて二人の邪魔をするなってことなのか。

 彼女の目を見ながら彼女の心情を探る。

 と、そのとき。

 「たっだいま〜。おまたせ、瑠璃ちゃん。

 ご飯買ってきたから一緒に食べよう〜。」

 賢ののんきな声と、生徒会室のドアをあける大きな音で

 彼女はふいっと顔を背けた。
 
 

 読めなかった。

 オレとしたことが。

 

 気を取り直して作業をいったん中断し、3人で昼食を食べることになった。
 
 



 さすがに食事中は賢がいたから当たり障りのない会話をしているが、

 時折、痛い視線がオレに突き刺さる。
 
 またしてもオレを探るような視線。

 小松姉はオレを探ってどうしようとしているのか。

 オレがMIUの邪魔をするとでも思っているのだろうか。

 それとも彼女もMIUの正体を知っていて、彼女から何か聞いているのか。

 少なくとも敵じゃないのに。

 オレも彼女を守りたいと思っている一人なのに。

 だけどこの話を今賢の前でするわけにもいかないので、
 
 とりあえず、目が合ったらにっこりと笑うことにした。

 まあ、この想いが伝わるわけないだろうけど。






 昼休みに頑張ったおかげで夕方のほうには仕事がかなりまとまっていた。

 大体申し送らなければいけないことも送ったし、

 わからないところや細かいところはデーターとしてロムに落としたから、

 きっと後輩も何かあったときに慌てることも少ないだろう。

 いつもよりも少し早く皆も仕事が終わり、解散も早く出来た。

 今日は、早くに行ってMIUを待っていよう。

 そしてレコーディングお疲れってジュースでももって乾杯でもしよう。

 鼻歌を歌いながら、自販機で適当にジュースを買い、

 自転車置き場に向いすぐに自転車を取ってプールに向ったその先に、

 誰かが立っているのが見えた。

 視力がいいオレはすぐに誰だかわかった。

 解ったから、大きな溜息が出る。

 「歩。どうしてこんなところにいるのよ。もう、帰りましょう?

 今日はご飯作ってあげるから。」

 いつものように腕を引っ張りながら甘えてくる。

 「なんで泉がここにいるんだよ。」

 「なんでだと思う?」

 「また人を使ったのか?」

 そう、こいつの感覚で麻痺しているところ。

 親の力を簡単に使う。今回はオレの行動を日中の間にどこに行ったのか、

 何をしているのか、大方お抱え探偵でも使って調べさせたんだろう。
 
 「あら、私は歩のことなら何でも知りたいだけよ。

 誰とどこで会ってるとか、何をしているのか・・・。」

 まさか、女子高校生でここまで恐ろしいことをするとは思わなかった。

 オレの行動ということは必然的にMIUの事もばれてしまったと言うことか。

「誰でも秘密があるものね。もちろん、ばれてしまったら大変なことに

 なってしまうこととか。」

 ニコリと笑いかけながらオレの腕に手を回し、
 
 またあの甘えるような口調でゆっくりと話す。

 「歩は頭がいいからどうしたら彼女が守れるのか、

 話さなくてもわかるわよね。」

 とても10代とは思えない。
 
 これが泉の本性だ。

 お嬢様の我儘は、こうなるとたちが悪い。

 冷ややかな視線で泉を見下ろす。

 こんなことをしてもオレの心は手にはいらないし、

 今まで以上に冷めていくと言うことがわかっていない。

 どうしたものかと懸念していると、後ろで物音がした。

 そして走り去る音がする。

 多分、彼女だろう。

 彼女しかこんな時間にここに来ない。

 約束を守ってくれたんだ。

 そんな彼女によりにもよって腕を組んでいるところを見られるとは。

 今日は、MIUにお疲れ様と乾杯したり、

 オレの夢の話を聞いてもらおうと決意していたのに。




 泉。




 オレを怒らせた・・・な。

 

 普段温厚で通っているオレでもさすがにキレる。

 まして、彼女に何かすると脅しをかけるなんてもってのほか。

 オレがそんな脅しに慌てふためくと思ってるんだろう。

 目を細めて泉を見つめると、泉はうれしそうに微笑んだ。

 どうやら勘違いしているらしい。

 










 悪いけど、オレは彼女を全力で守るから。
 
 泉なんかの好きなようにはさせない。
 




 

 

 
 





 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






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