7.つながる声








   side miu





  



 何があったんだろうか。


 
 始業のベルが鳴ったのに、頭の中はそれしかうかばない。

 誰かと喧嘩でもしたのだろうか。

 温和な人だから、とてもそんなことをするように思えないけど・・・。

 あんなに胸の中でもやもやしていたのに、一気にどこかに吹き飛んでいったらしく、

 気持ちは向い側の校舎に飛んでいた。

 み、見たいけど、見れない・・・。

 気になる。

 もう授業なんか聞いていられなかった。

 教科書を顔の前で立ててこっそりと盗み見する。

 先輩は、けだるそうに片手で教科書を持って、

 立って教科書を読んでいる様子。

 たぶん、あてられたのかな。

 さっきは傷に驚いてしっかり見れなかったけど、なんだか顔つきが変わったような気がする。

 気のせいかな?

 




 ガツッ。




 急に頭に衝撃が走る。

 「うぅ。痛い・・。」

 「はい、前見るように。そんなにいい男が向こうの校舎にいるのか〜?」

 頭を教科書の角で叩いた英語の教師はいやみったらしく向かいの校舎を覗いた。

 は、恥かしぃ〜。

 皆がクスクスと笑う中、教科書の中に埋もれていった。

 このまま、穴に入ってしまいたい。

 ああ、先輩にばれなければいいんだけど。

 恥かしくってワタワタしていたら、助けのチャイムの音が。

 たすかったぁ・・・・。

 チャイムの音とともにみんなが教科書をガタガタと片付け始め、

 すっかり私のことなんか忘れ去られたようだった。

 約2名を除いて・・・。

 「ミー。」

 同じように教科書をしまっていると、机の上に両手が見える。

 見上げると、にこやかに瑠璃が私を見下ろしていた。

 「どーしたのーかなー?」

 かわいらしく首をかしげている瑠璃は、やっぱり可愛い。

 「どーしたのーかな・・?」

 瑠璃の真似をしたら、頭を叩かれた。ほんと、顔に似合わず凶暴化してきているような

 気がするんだけど、気のせいかな。

 「ふざけないの。最近のミーなんだか変だよ?」

 変。変なのか。

 どこか、変わってきてるのかしら。

 確かに、最近先輩のことでなんだかんだと頭を抱えている日々とは自覚しているけど。

 でもそれは数少ない私の人間関係の中にいつの間にか入ってきて・・・・・・。

 「ま、それもいい変化かどうかわからないけど、

 いっぱい考えてどうしてそうなのか答えを出す事はいいことだと思うわよ。

 たくさん悩みなさい。」

 いっぱい考えること・・・・・?

 ふと、先輩の方を見ると先輩は友達に囲まれて笑っていた。

 ふざけながらもいつもみんなの中心にいる。

 先輩の笑っている姿を見て、自然と心がぽかぽかしてきた。





 「うーん。あんな表情してるって本人気付いてないよね。」

 「・・・・・。」

 瑠璃と竜が後ろでそんな会話をしていると全く気がついていない私は、

 始業のチャイムが鳴るまで見つめ続け、

 先生が来てやっと体を動かした。

 やっぱり気になる。

 どうしてあんな怪我を。

 再びそのことで頭がいっぱいになり、私は自分でも信じられない行動にでた。













 昼休みのチャイムが鳴ると一目散に屋上に出る。

 手には携帯電話を握り締めている。

 屋上は風が強かったけど、体が熱いから丁度いい。

 フェンスに背中を押し付けて、深呼吸をした。

 そっと携帯を開けて、アドレスから先輩の番号を液晶画面に出す。

 そしてボタンを押した。


 呼び出し音が、こんなにも長くそして遠く感じたのは初めてだった。

 耳から自分の心音が聞えてくる。

 



 『はい。もしもし?』

 先輩の声が聞えた瞬間、思わず携帯を落としそうになった。

 『もしもし?・・・・・MIU?』

 う、わ。

 ばれてる。なんで?

 『何かあったの?どうしたの?』

 いや、あの。あなたの心配して電話をしているですが。

 「あの。先輩・・・・。怪我・・・・大丈夫ですか?」

 もっと気の利いたことが言えたらいいのに。

 先輩は、しばらく黙っていたかと思ったら、

 急に大きな溜息が聞えた。

 『もしかして心配して電話して来てくれたの?』

 溜息が優しく甘い声に変わる。

 なんだか恥かしくなって黙って下を向いた。

 『MIUに何かあったかと思ってドキドキしたよ。

 よかったぁ〜。』

 そっか。何かあったら電話するようにって教えてもらった番号だったっけ。

 「私は・・・、何もないです。でも、先輩・・・・顔中に痣があって・・・びっくりして・・・。」

 『はは。見た?びっくりした?でも大丈夫だよ。見た目より案外もう痛みはないんだ。色も引いてきたし。

 これ、実は親とすこしだけ衝突してね。』

 親と衝突?温厚そうな先輩からはとても思えない発言。

 『まあ、詳しい話は夜にするよ。今日はいつものところ来れる?』

 「今日は、レコーディングは入ってて無理です。

 明日なら・・・・・・。」

 がんばって今日仕上げてしまえば明日は体が空くだろう。

 それに今日ならちゃんと歌える気がする。

 『わかった。じゃあ、明日待ってる。

 レコーディングがんばってね。』

 「・・・・はい。それじゃあ。」

 会話が終了してするするっと力が抜けて座り込む。

 なんだろう。

 怪我がたいしたことなくって安心したのかな。

 しばらく音もしていない携帯を見つめ、

 今更ながら自分の行動にびっくりしていた。

 自分から先輩に電話をかけるなんてありえない。

 何でこんなことしたんだろう。

 先輩の怪我を見るまでは先輩に対してなんだかもやもやして

 正直会いたくなかったくせに。




 自分の感情と行動がわからない私はドキドキした心臓を押さえ

 そのまま屋上に寝転がった。 





 コンクリートは、私の体温以上に熱かった。

 

 
 

 

 


 
 


 

 

 

 



 







 
 
 
 
 

 
 

 
 
 


  









    






inserted by FC2 system