最終章 6





 





 
 



 空は、まだ青く澄んでいる。



 オレは、動くことができないままベンチにすわり、上を向いていた。



 思い浮かぶのは、ヒナタの顔ばかり。

 怒ったり、笑ったり、泣いたり。

 真っ赤になってはにかむ顔は、オレの心拍数を上げる。

 


 「ヒナタ。」



 いつもは、すこし照れたような声で、返事があるのに。

 もう、二度とあの優しくて澄んだ声は聞けない。


 「ヒナタ。」


 せめて、さよならは言いたかった。

 いや、言わないほうが良かったのか。

 顔を見てしまえばきっと離す事は出来なかっただろうから。

 どこかに縛り付けてでもきっと離さなかっただろう。


 自分の中にこんなに独占欲というものがあったのかと、
 
 初めて知った。
 
 彼女と出会ってから、いろんなことを知って、

 いろんな気持ちが溢れて。

 その想いを名前に込め、もう一度呼んだ。

 


 「ヒナタ。」

 「はい?」

 


 あまりにもヒナタが恋しすぎて幻聴まで聞えるなんてなんて滑稽だ。

 空を見ていた顔を両手で隠し、深い溜息をつく。

 こんなんじゃ、この国の国王としてやっていけないぞ。

 自分に渇を入れるためにバシバシと両頬を叩く。


 「ちょっと、名前を呼んでおきながら無視?」





 また、声が聞えた。

 信じられない。

 ヒナタが文句を言っている幻聴まで聞えてくるとは。
 
 ダメだ、頭冷やすかなにか冷たいものでも飲みにいこう。

 そう思い立ち上がって王宮内に戻ろうとした。





 目の前に、いつものように異世界の服を着たヒナタが立っていた。




 はにかんだ笑顔で、彼女は立っていた。





 「あのね・・・。私も戻ったと思ったんだけどなぜかね。」



 彼女は真っ赤になって理由を話そうとしたが今はどうでもいい。

 彼女のもとに駆け寄り、きつく抱きしめキスをする。

 なにも考えられなかった。

 彼女をこの腕の中に閉じ込めることしかできなかった。

 サラサラの黒髪の間に手を入れ、

 何度も、何度も角度をかえて、キスをする。

 「ろ・・。ん。くるしっ。」

 苦情は今は受け付けない。

 後でいくらでも聞くから。

 今はヒナタがいる実感をもう少し確かめていたい。

 もう二度と離さないつもり。

 「おかえり、予言の少女。」

 そういって瞼の上にキスをもう一つした。

 ヒナタは、眩しいほどの笑顔で抱きつき、こう言った。


 

 「ただいま。ロン。」





 そして深い深いキスをした。

















 「それにしても、第一国王も粋なことしたよね。」

 ニコは久しぶりにルルとリリとゆっくり話していた。二人は、外交の仕事の一環で

 フォレット国に来ていたのだった。

 「みんなが笑顔でいられるには、特にフォレット国の国王が笑顔になるには

 ヒナタが必要だって言って、まさか元の世界に戻すのをやめるとは、
 
 誰もが考え付かないですわよね。」

 昔のような冷たい笑顔ではなく、屈託のない笑顔でクスクスと笑いリリは答えた。

 美しい姉妹は、少しずつ姉妹の壁を崩し、

 今となっては常に一緒に行動していた。

 実はルルはリリのために魔女となり力になるつもりで実力のある西の魔女のニコに

 弟子入りしていたのであった。

 それがいつしかリリの行動がおかしいことに気付き、

 リリを止めるために反乱軍として旗をあげ、いつか一緒に過ごせる日を夢見ていたのだった。

 ルルへの誤解が解けた今では常に行動をともにし、

 リリの医者としての仕事を手伝っている二人は、

 アランが入る隙間もないくらいだった。

 「じゃあさ、冷やかしに行こうよ。」

 ルルはニヤニヤしながら提案する。

 「いいですわね。たまにはヒナタを困らせるのもいいですわ。」

 同意するリリ。

 この双子ったら・・・。

 しょうがないなぁ。

 と思いながらもクスクス笑うニコがいた。






 



 今日も王宮からは笑い声が聞える。

 絶えず笑い声のつづくこの世界は、いつまでも平和であった。











 

 




  









    






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