最終章 5





 





 
 
 いつも騒がしい王宮は、このときばかりはみな、静かに黙々と仕事をしていた。

 表面上だけは。

 それぞれが一人の少女が今からこの世界を去ることを知っていたため

 その少女のことを思っていたのだ。

 

 一人は、姉のように慕っていた。

 一人は、親友のように慕っていた。

 一人は、娘のように慕っていた。



 この世界にとどまってほしいと願いを込めていたが、それがかなわぬことを知っていた。

 だれよりも、そのことを願っていたある人物は、

 珍しく仕事をサボり、いつも少女といたテラスに来ていた。

 今日ばかりは仕事をサボっていても文句を言うものはいない。

 いつも口うるさくしていた神官も、仕事どころではなかった。




 ロンはベンチにすわり、黙って空を眺めていた。



 空は、たかくどこまでも澄んでいた。










 魔方陣に入ると、光が床から天井まで届く。

 その光は、真っ白で、とてもあたたかい。

 セーラー服のスカートとストレートの髪ががふわりと浮く。たぶん、宙に浮いているのだろう。

 体が軽くなって足元がふわふわしてきた。

 私は眼をつぶり両手を胸の前で組んだ。

 だんだんと、自分が透けていくのが、ぞわざわした鳥膚のような感覚でわかった。


 



 『日向――――。

 よく頑張ってくれたね。

 本当にありがとう。』

 ロンと同じで同じじゃない声が、頭に広がる。

 いつも夢に出てきていた声だ。

 『おかげでこの世界は平和を取り戻した。

 もう大丈夫だろう。
 
 これも君のおかげだ。』

 わたしだけじゃない。

 みんなないたから。

 『君に感謝の気持ちを表して願いをかなえてあげよう。

 元の世界に戻る前にまだ少しだけ力がのこっているから、

 君の願いがひとつだけかなえることができる。』



 私の願い――――――――。




 『なんでも言ってごらん?』



 

 私の願いは。




 「この世界の人たちが、みんな笑って過ごせるように、

 どんなに辛くても笑顔で過ごせるようにしてください。」



 私はもうこの世界にこれないから。

 せめてみんなが幸せに暮らせるように願うことしかできないから。

 それが今の私のこころからの願いだった。



 『承知した―――――――。』






 光が強くなり、何も見えなくなった。



 みんな。


 ロン。



 さようなら。




 そして、ありがとう。


 大好きだよ。





  







 

 




  









    






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