第四章 14





 





 ロンの登場で、一同が凍りついていた。

 たとえ、国交がなくてもロンの顔はみな知っている。

 銀髪に、青い瞳。

 フォレット国では、王族のみ青い瞳をしている。

 この青年は、長年スターター国、国王がどんなに圧力をかけても

 決して揺るぐことなく自国を支えてきた。

 そして、親の代よりもさらに発展させ、

 より豊かな国を作り上げてきた。

 しかも、暗殺を考えて何人もの刺客を送るもことごとくに本人に倒されていることを

 聞くと腕もかなり立つようだといううわさも流れていた。

 自分達よりも何もかもが上であるこの青年に対し、

 うわさ以上に迫力があることを思い知らされる。

 「先ほど、親衛隊の方々と話し合いました。」

 真直ぐに前だけを見て、ゆっくりと大臣達の前を歩く。

 「今まで何度もこの国から迫害を受けてきました。

 それも今回で終わりにさせます。」

 静かに語るロンの口調に皆が震えていた。

 怒りの感情がにじみ出ており、これほどまでに彼を怒らせてしまったことを後悔していた。

 ロンがゆっくりと国王の前に立ち、見下ろす。

 「あなたの命令で動く人間は一人もいない。

 あなたの子供ですら。

 国民や、兵士たちは自分達の意思で武器を捨てた。
 
 あなたの変わりに剣を持つ人間はもうこの国にはいない。

 それでもまだ僕に喧嘩を売りますか?」

 にっこりと微笑むその表情にはその場にいいるだれもが凍りついた。

 微笑みの下にある圧力から誰も逃れられなかった。

 誰もが器の違いを身を持って感じていた。

 「う・・・・。」

 思わず後ろへ下がろうとしたスターター国国王の動きを見逃すことなくすぐに腕を掴む。

 「僕から逃げられるとでも思ったのですか?

 ここまで僕を怒らせたのはあなたが初めてですよ。

 今までの行いは目をつぶってましたが、

 予言の少女を傷つけ、さらいましたよね。

 このことは、許されないことですから。
 
 僕はあなたをこのまま見逃すなんてこと、ありえませんから覚悟してください。」

 そう言ったロンの表情からは微笑が消える。
 
 そして掴んだ腕を力いっぱい握るとスターター国国王は恐怖のあまりに座り込んでしまった。

 先ほどの威勢はまったくもってどこかにいってしまったようだ。

 「ひ、ひぃぃぃ・・・。」

 自分の親ながら情けないと思わずつぶやくアラン王子にロンは告げる。

 「今を持って王位を捨てたみたいです。」

 いや、そんなこと一言もいってないぞ。
 
 誰もが心の中で突っ込んだがこれを口にする勇気のあるものは誰一人としていなかった。

 「第一王子であるあなたが今後指揮をとるのですよね。」

 「あ、いや、そうだけど・・・。」

 「そうですよね、皆さん。誰が王位継承すべきかよくわかってますよね。

 彼で異議はありませんよね。」

 またもや、凍りつくような笑顔で周りの大臣達に語りかけ同意を得る。

 同意を得ると言うか、圧力をかけているというか・・・・。

 「ほら、アラン。皆さん、異議はないそうです。これでこの国も安泰ですね。よかったです。

 アランとならいい外交が築けてお互いの国にとってもプラスになるでしょう。」

 あっという間にまとめてしまったロンはルルを見た。

 「それでは私の大事な人を返してもらいにいきましょう。ルル、アラン。一緒によろしいですか?

 カイ、ヒナタの場所案内してください。」

 そういって颯爽とマントを翻し、皆の前を横切った。

 呼ばれるがまま、アランとルルはロンの後をついていった。

 カイは、ロンが来ると鼻の頭で方向を示す。それを見てコクリと一同は頷いた。そしてロンは後ろを振り向くと

 「私達がいなくなったからと言ってバカなマネをするのは止めたほうがいいですよ。

 あなた達はすでに反乱軍と、親衛隊で包囲されてますので。」

 と、釘を刺してその部屋を出た。

 







 「なんだか、下が騒がしいみたい。どうしたのかな?」

 日向は窓から門を眺めながら後ろのソファーに座っているリリに声をかけた。

 リリはまっすぐに日向を見つめながらこういった。

 「さっき、国王がフォレット国の人間がこの城に進入してきたと言っていたわ。

 だけど、大丈夫。あなたは私が守るから。

 さ、そんなところにたってたら体にさわるわ。

 まだ怪我も魔法で治しきれていないところもあるんだから、ベッドに横になったほうがいいわ。」

 そういって日向をベッドまでさせながら誘導し横になるようにした。

 促されるまま日向はベッドに向かい中に入りながらリリを見上げた。

 「大丈夫だよ?私も少しは役に立てると思うんだ。一応、武器持ってるし。」

 ほら、と言って竹刀が置いてあるほうを指差す。

 「うん、でもね。ヒナタは女の子だし、フォレット国の国王にあったらどうするの?」

 「え?来てるの?」

 リリの一言で日向は起き上がって真っ青になり、ガタガタと震えだす。

 そんな日向の肩をそっと抱いて隣に座る。

 「大丈夫よ。私がついてるから。ヒナタをあいつに渡したりなんかしないから。ね。」

 優しく微笑まれて日向は少しほっとした。リリが言うなら心配ないだろう。

 肩の傷を無意識にさすりながらため息をつきながらふと窓を見上げた。

 さっきまで殺風景だったのに、なぜか鳥らしきものが沢山飛んできていた。

 「ねえ、リリ。あれどうしたのかな?」

 窓を指差しながらどんどん増えてくる動物達を眺めた。
 
 一瞬、怪訝そうな顔をしたリリは窓際に向って何かを唱えると、
 
 カーテンが一瞬にして閉まった。

 その瞬間、部屋のドアが大きく開いた。

 「ヒナタ!!大丈夫?」

 ニコとロールの二人が立って、ヒナタのもとへ駆け寄ろうとした。

 「何?この人たち。フォレット国の人?」
 
 そういってリリの後ろに隠れた。

 ヒナタの行動にニコとロールは凝視してしまった。

 「え。ヒナタ?どういうこと?」

 思わずこぼれた言葉に日向が反応する。

 「何で私の名前を知ってるの?あなた達は何者なの?」

 まるで怖いものを見るように日向は二人に尋ねた。

 「大丈夫よ、ヒナタ。この人達はあなたをさらいに来たけど

 私がそんなことさせないわ。」

 まるで日向を守るように立ちあがり、二人の前に立つ。

 「ちょっと、ヒナタ。私達を忘れたの?」

 ニコが必死に駆け寄ろうとした瞬間、見えない壁に弾き飛ばされた。

 ヒナタとリリを守るように結界が張られていたのだった。

 それを叩き壊すかのようにドンドンとロールが空中を叩く。それを後ろから見ていたニコは

 両手を前に出して呪文を唱え始めた。
 
 リリは日向を自分の後ろにして守りながら結界を強くしようと呪文を唱えはじめた。

 「リリ、無理しないで。私は大丈夫だから。」

 後ろからリリを心配そうに声をかける日向を見てロールは叫ぶ。

 「ヒナタ!忘れたのですか?その女こそがあなたを何度も殺そうとした人物なんです。

 どうして彼女を心配するのですか?」

 ロールの言葉に怪訝そうな表情になる。

 「何をいってるのかしら、このフォレット国の人は。

 リリが私を殺すですって?ありえない。

 そんなこと言っても私はだまされないから。リリはあなた達が私に負わせた怪我を

 ずっと付き添って看病してくれたの。
 
 彼女がいなかったら今頃私は死んでいたわ。」
 
 そう、何日も何日も彼女は私の看病をしてくれたことになっていたのだ。

 「それはリリの洗脳なのよ!!」

 突然、入り口のほうにリリと同じ顔をした女性が立っていた。

 「ルル・・・・。」

 リリはつぶやくようにその女性の名前を呼んだ。

 





 リリとまったく同じ顔・背格好をした女性。

 そして私を殺そうとした青年。フォレット国の国王がまっすぐ私を見ていた。

 この人は・・・・・・・。

  

 







 

 




  









    






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