第四章 9





 






 どの位走っただろうか。かれこれ、数時間は経っている。

 その間、ずっと森の中を走り続けている。

 といっても私はカイの背中に乗せてもらっている。

 カイが、どうしてもと言って聞かなかったので、

 お言葉に甘えて乗らせてもらった。

 だけど、思ったよりあまくなく。

 カイのスピードに必死にしがみつきところどころ落ちそうになったり竹刀を落としそうになった。

 それに制服は、走り去るときに葉っぱにあたり、ところどころ破けている。

 左腕からは、血がにじみ出ているけど手当てもせずにそのまま走り続けた。

 でも、不思議と痛くない。

 昔だったら、ちょっと血が出てだけで大騒ぎしてたけど、

 今はそんなことかまってられない。

 ただ、目の前にある大きな大きなお城に向って走っていた。





 いつの間にか、城下町に出てきていた。

 人がいない。相変わらずとても寂れている。

 でも、いつもより人がいなさ過ぎ。

 ほとんどが、戦に行ったのだろうか。

 もともと、さびしい町だったけど前よりすさんでいるような気がする。

 ところどころに、死体が転がっていてもおかしくないくらい。

 城下町を眺めながら、城への道を一直線にカイが駆けていく。

 カイの背中に乗っていた私は、もうすぐ城の前に行き着くことに気がついていた。

 だけど、一向にスピードを緩めようとしないカイに、

 しがみついているだけでいっぱいいっぱいで、

 カイが何をしようとしているのか考えられなかった。

 城の門が目の前に来た時、今まで黙っていたカイが、

 『ヒナタ、ちゃんとつかまっててよ。』

 「ひぇ?わわっ。」

 一瞬、声が聞えたかと思うと次の瞬間には空を飛んでいた。

 「お前達、何者!!」

 「止まれ!」

 

 警備に立っている男の人たちを軽く乗り越え、門を乗り越えた。

 そして、門の内側に優雅に降り立つ。

 目の前にはだんだんと集まる王族の親衛隊。

 手には、刀や槍を持っている。

 そしてとても恐ろしい顔して私を睨んでいる。今にも襲ってきそうだった。

 殺気だった親衛隊を目の前にして、鳥膚が立った。

 覚悟はしてたけど、やっぱり怖いもんは怖い。

 私は無敵じゃないし、怪我もすれば血も流す。

 この前は運よく逃げれたけど、今回もうまくいくとは限らない。

 しかも、味方の人間は一人もいない。

 だけど、私に出来る事は、直接行って話すしかない。

 「カイ、私を下ろして。」

 カイは、心配そうに私を振り返ったけどニッコリと笑って見せた。

 多分、引きつってるだろうけど。

 そっと、足を折って私を下ろして真横に立つ。

 「みなさん、私は戦をしに来たのではありません。話し合いに来たのです。」

 大きな声で、伝えて竹刀を下に置いた。

 「だから、どうか刀をしまってください。」

 ちゃんと話をすればきっと聞いてくれるはず。

 「お願いします。」

 頭を下げてお願いした私に、周りに立ってた親衛隊が戸惑って、

 隣に立っていたもの同士が顔をあわす。

 「あなた達だって無駄な戦いはしたくないでしょう?

 親しい人を守りたい気持ちは一緒でしょう?

 私も守りたいもののためにここにきました。

 争うことが目的じゃないんです。

 争うことを止めにきたのです。」

 そう、私はここに争いを止めに来たのだ。

 守りたいもののために。

 今まで平和で安全なところで育ってきた私が戦争の本当の怖さなんてわからないかもしれない。

 だけど、やっぱり人が死ぬのはいやだ。

 たとえ、敵といわれている人でも悲しむ人はいるんだ。

 それが偽善だと言われても仕方がない。

 でも、いやなもんはいやだ。

 それだけは譲れない。

 しばらく沈黙が続いた。

 やがて親衛隊の一人が、口を開いた。

 「偽善だよ、そんなの。」

 「そうだ。それか嘘に決まっている。」

 皆が口々にそういう。

 信じられない、といった表情で。

 「偽善と言われればそうかもしれません。

 だけど、もう誰も傷ついてほしくないんです。それがたとえ自分を傷つけた人でも。

 私はもう見たくないんです。

 嘘じゃありません。本当にいやなんです。」

 「きれいごと言いやがって。こうしてやる!!」

 親衛隊の一人が私に向って槍を振りかぶった。

 カイが唸りながら襲い掛かろうとするのを左手で制する。

 その瞬間、槍を私の肩に思いっきり切りつけた。

 「ぐっ。」

 ドンっと強い衝撃が左肩に走る。

 でも、ぐっと両足に力を入れてこらえた。

 この位、まだ我慢できる。我慢しなくちゃ、ここに来た意味がない。

 私はここに戦いに来たんじゃない。

 槍を持った人をじっと見つめた。

 彼はひるんだ。槍は、カランと大きな音を立てて落ちていく。

 セーラー服の袖から生暖かい鮮血がトロトロと流れる。

 カイが私の左腕を心配そうに鼻先でさする。

 「大丈夫よ。このくらい。」

 実は、かなり痛いんだけど。

 痛みにはかなり弱いほうなんだけど。

 強がってないと泣きそうで。

 でもここで泣くのはダメだ。

 絶対にダメだ。

 仁王立ちになって、涙をこらえる。

 「あなたはこの生活が幸せだと思いますか?

 このまま、今の生活を続けて生きたいと思ってますか?

 私にはそう見えません。

 隣の国同士が、いがみ合って生活するなんておかしいです。

 戦争ばかりしたって何か利益を生みましたか?

 それよりも、お互い助け合ったほうが、何倍も幸せだと思いませんか?

 手を取り合ったほうが頑張れると思いませんか?」

 必死に、彼らに訴えかけた。

 いつの間にか、私の周りには動物達が集まってきて、取り囲まれていた。

 まるで、私を守るように。

 この前あった動物達が来てくれたのだ。

 みんな、気持ちは同じなんだ。もう、戦争とか殺し合いとかの犠牲にはなりたくない。

 だんだん集まってくる動物達に親衛隊の人たちが、一歩、一歩と後ろへ下がった。

 そして一人の人が道を開けてくれた。

 次第に、一人、またもう一人と道をあけてくれて城への道が開かれていく。

 気持ちが、通じた!!

 「ありがとうございます!」

 ぺこりとお辞儀をして、竹刀を取り、城の入り口へと向ってよろよろと走った。







 一方、ロンはヒナタがいなくなった知らせを聞いた。

 「また、あいつは・・・・。」

 握りこぶしを壁に思いっきり叩きつけた。

 「やっと毒が抜けてきたのにどうして・・・・。」

 後ろで、ニコがつぶやいた。

 彼女も、またロンのお供としてついてきていたのだ。

 「私はやっぱり残っていればよかった。」

 「でも、それではスターター国にいる仲間とのやりとりができない。

 それよりも彼女の安全を確保することが第一だよ。

 僕が、国に戻って親父と会えば・・・。」

 アラン王子が、そっとニコの肩に手を乗せて言う。

 「今は、そんなことを言っててもしょうがないでしょう。

 とにかく、このスターター国の壁を越えないと。

 全く、うちの予言の少女は人を驚かせてばっかりでいくつ心臓があっても足りない。」

 ロールがみんなの後ろから声をかける。

 「早く、ここを片付けて彼女に文句を言いに行きましょう。

 たまにはおとなしくしててくださいって。」

 ロールの言葉に皆が少しだけ救われた。

 彼が怒ると実は誰よりも怖いことを皆は知っていた。

 ヒナタがこっぴどくロールにしかられることを想像すると、

 ニコはクスッと笑った。

 「そうね、早くヒナタを見つけ出して説教しなきゃね。」

 だから、だから、どうかそれまでどうか無事にいてよね。

 そう、ニコは空を見上げながら祈った。

 











 

 




  









    






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