第四章 1
ヒナタ・・・。
もう時間が来ている。
ヒナタ・・・・。
もうそこまできてるよ・・・。
優しく私に誰かがささやく。
体が重い。
鉛のように体が重い。
久しぶりに懐かしい夢を見たような気がするのに。
「ヒナタ、おはよう。」
いつものように、ニコが私の世話をしに来た。
西の魔女であることは周りには秘密なので、そのままメイドを続けていた。
「おはよう・・・。」
頭を抱えながら答える。
「ヒナタ、顔色悪いよ。大丈夫?」
私の様子がいつもと違うことに気がついてすぐに近寄ってくる。
「う・・・ん。多分、大丈夫じゃない。」
起き上がっていたのにまた寝てしまった。
熱があるだろうな、これは。
ニコは私の額に手を当て、
「やだ、熱いじゃないの。どこか、苦しい?」
心配そうに覗き込んできた。
「苦しくはないけど・・・・。だるいかな。」
喉も鼻も大丈夫。風邪っぽくはないかな。
「今、お医者様呼んでくるね。」
パタパタと慌ててニコは部屋を出た。
ベッドの足元にいたカイが心配して覗き込む。
『大丈夫?』
にっこりと笑うだけで精一杯だった。
そして私はまた深い眠りについた。
冷たいものが額に当たる。
とても気持ちいい・・・・。
うっすらと目を開けるとロンが見えた。
「ロン。」
声を出そうと思っても思うように声が出なかった。
「ヒナタ、無理しなくてもいいよ。」
優しく私に話しかけながら髪を撫でた。
「疲れからくる熱だろうって。だからゆっくりお休み。」
疲れか・・・。
確かに、こっちに来て突っ走ってたな。
人質も取り返して帰ってきてから一週間たって、気が緩んじゃったんだね。
「ごめんね、ヒナタ。いっぱい無理させたね。」
ロンが、申し訳なさそうに謝る。
「こっちの世界に馴れてないうちからいろんなことさせちゃって。
疲れもたまるよな。気付いてあげれなくて、ごめん。」
そんな、ロンのせいじゃないのに。
首をぶんぶんと横に振った。
「ヒナタがよくなるまで看病するから。」
なんて事をこの人は言うんだろう。
「そんなこと許されるはずがないじゃない。」
「大丈夫、仕事はこの部屋でも出来る。
それよりもヒナタの側にいたいんだ。」
病気の時って気弱になるから、誰かが側にいてほしいって誰もが思う。
両親が死んでから病気になっても一人でいたから、こうやって側にいてくれる人がいると、
涙がでそうなくらいうれしい。
というか、自然と涙が流れてしまった。
「よしよし、いっぱい泣いていいよ?」
そんな私の頭を撫でながらロンは優しく言った。
悲しいわけじゃないのにどうして涙がでるんだろう。
両手で顔を隠しながら泣いてしまった。
その間、ロンはずっと私の頭を撫でてくれた。
そしていつの間にかまた眠ってしまった。
夜になり、ニコは夕食を手にヒナタの部屋を訪れた。
「ヒナタはどうですか?」
ニコがそっと部屋に入ってくる。
「熱は少し下がったと思う。」
ヒナタの横に椅子を持ってきて、仕事をしているロンは、
いつもよりも険しい表情をしていた。
「どうされたのですか?」
「ちょっと気になることがあってね。」
「気になること・・・・ですか?」
うなずいたロンはニコの今見ていた資料を渡した。
医師の受診後、中毒症状が見られた。
実はヒナタに毒が盛られていたのだ。
しかも、致死量ではなく、ほんのわずか。
「少しずつ・・・・ということですか?」
急に殺すのではなく、少しずつ少しずつ体を弱らせるということだろう。
「ヒナタはもちろん気付いていない。
カイ、ちょっといいかな?」
ロンとベッドを挟んで反対側にいたカイは、
しぶしぶと言った様子でロンの元にいく。
「多分、君が一番鼻が聞くと思うんだ。オレが、犯人を見つけるまで
注意してほしい。たのむ。」
じっとロンの目を見ていたカイはわかったというようにうなずいた。
「ニコ、この事はヒナタに気付かれないように。」
「承知しました。」
ヒナタはこの事を気付く様子もなく、ぐっすりと眠っていた。
「誰がこんなことを・・・。かわいそう。」
そうつぶやいたニコとともに悔しそうにヒナタをロンが見つめる。
予言の少女などをしなかったらこんなことにはならなかったのに。
オレがもっとしっかりしていたら。
彼女の周りにもっと気を配っていたら。
後悔ばかりが湧き上がってくる。
だが、今は後悔している場合じゃない。
一日も一時間でも早く犯人を探し出し、ヒナタを助けないといけない。
そう、強く強く心に誓った。