第三章 10





  

ろうそくの明かりのみが部屋を明るくする。

 ゆらゆらゆらゆら、

 ろうそくを見つめる美女がなにやらつぶやく。

 その言葉が形になり王宮の上に黒い雨雲をよんだ。



 王宮をようやく出ることが出来た私たちは急いでニコとの待ち合わせの場所に向かった。

 「町外れに大きな大木があると思うんだけど。」

 「ああ、それならこの道から行ったほうが早い。」
 
 アラン王子の案内で進んだ。

 幸い私たちを追ってくる人たちはいなかった。

 野獣のおかげだろう。

 まだ朝早いから町の人たちもいないし、これならうまく脱出できそう。

 そう思った瞬間、目の前に一人の女性が飛び出てきた。

 「危ない!!」

 野獣がうまくよけてくれたから踏まれなかったが、

 その女性はびっくりして転んでしまった。
 
 慌てて野獣から飛び降りその女性に近寄った。

 「大丈夫ですか?」

 女性は布をかぶっていた。布の隙間から、美しい金髪がのぞかせている。
 
 「ヒナ!そいつからはなれろ!」

 「え?」

 慌てて私に向かって怒鳴っているアラン王子を振り向いた瞬間。

 「予言の少女ってどうしてこんなにおバカなの?」

 そういって私の首を細い細い指がかかる。

 なに、これ。

 「リリ、やめてくれないか。」
 
 野獣から降りたアラン王子。

 知ってる人?

 「ふふ、あなたがそんなに真剣な顔するのって久しぶりに見たわ。」

 布の下から真っ赤な唇が見える。

 後ろで野獣がうなっている。

 とりあえず、いい人ではなさそうね。

 手首をつかんでくるっと反そうとしたらその女性はふわりと宙を舞った。

 きれい。

 布をばさりととったその女性は妖艶という言葉がぴったりな美女だった。

 でも、こわいこの人・・・。

 「ヒナ、こっちに。」

 後ろからアラン王子が私を引っ張った。

 「あら、そんなに怖い顔しなくても今日は何もしないわよ。

 そろそろお迎えが来てるしね。」

 「ヒナタ!」

 ニコの声だ。

 「また会いましょう、予言の少女。」

 そうにっこり笑って私に言うと姿を消した。

 姿が消えたと思ったら雨が降り出した。

 なんなんだ、あの人はいったい・・・・。

 雨がだんだん激しくなって私の髪を打ち付けていく。

 「とりあえず移動しよう。それにこの人、手当しないと。」

 ニコの声で体がギクリと動く。

 まるで、金縛りにあったみたい。

 不安そうに見上げた私をニコはいつもの笑顔で私を安心させる。

 「ほら、早く動かないと早く帰れないよ。そしたら、陛下が心配するから。」

 陛下・・。ロン・・・。

 私の腹の底から不安がこみ上げてくる。
 
 ロン、早くあなたの元に帰りたい・・・。

  


 

 

 後ろの方でなにやら爆発音がする。

 音とともに綺麗な虹が空を描く。雨が降ってるのに虹が出るなんて。

 なんて幻想的なんだろう。

 「キレイ・・・・・。」

 「まあ、あれだけ派手にやると空にしか気がいかないでしょ。」

 「虹をあそこまで綺麗に出現させることが出来るなんてすごい術者だね。」

 三人それぞれ虹をみて呟く。

 「・・・・。ヒナタ。ところでこの人は・・・。」

 「ああ、紹介しわすれてたわ。この人はこの国の第一王子アラン王子ね。」

 ニコニコしながらアラン王子が手を差し伸べる。

 「第一王子てことは知ってるわよ!!なんでこの人がここにいるかって聞いてるの!」

 ああ、びっくりするよね。普通。

 私もかなりびっくりしたんだもん。

 「いやぁ〜、成り行きで・・・。」

 「はぁ?成り行きって?」

 「まあまあ、ここでもめてもしょうがないよ。とにかく向こうの国に行ってから
 
 詳しく話すから。僕は敵じゃないから安心して。ね。」
 
 なんて、ウインクしながら言う。

 こんなに軽くて信用されるのかしら。

 「それにこの人早く手当てしないとかわいそうだよ。」

 ああ、ゼフさん気を失ったままだった。

 「そうだね、一秒でも早くここを脱出しよう。」

 その前に。

 「あのね、もうここまで乗せてもらえたら大丈夫よ。

 ありがとう、すごく助かった。

 あなたは自分の場所に帰って。ね。」

 ここまで助けてもらった野獣にお礼を言った。

 野獣は優しい目をして私の肩に頭を擦り付けた。

 まるで、イヤイヤといってるように。

 「でもね、もうあなたは自由なの。ここまで逃げたら国王もあなたを追ってこないわ。

 自分の好きなところに行っていいんだよ。」

 『私はあなたと一緒にイタイ。』

 やさしいブルーの瞳はまっすぐに私を見つめた。

 「一緒に連れてってあげれば?ヒナタの側がこの子の居場所なんだよ。」

 ニコが私に言った。

 私の側でいいの?

 野獣の首にそっと抱きついた。

 「じゃあ、一緒に行こう。みんな一緒に行こう。」   

 




 




 

 

 





  









    






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