1.不意打ち







 想いが通じて数ヶ月。

 数ヶ月。

 なのに彼の行動はあまり変化なし。

 「と、変われといってもね。これじゃあね。」

 目の前には仕事の山。

 クルトはクルトで一月前から出張中。

 めったに出張なんてないのだけど、

 お父様が他国に行くことになり警護メンバーに無理やり入れさせられた。

 彼はこれでもこの国一番の腕利き護衛官だから。

 あ、何気にのろけてしまったわ。

 最初は行くのを渋っててけど(国王の命令を蹴ろうとしてるあたりどうかと思うけど)

 結局ついていってしまった。

 おかげで、彼とは遠距離恋愛状態。

 実はこんなに離れて会えなかったのはまったく初めてだった。

 「寂しいなぁ。」

 パソコンのキーを打ちながらつぶやく。

 独り言もどこかに飛んでいってむなしい。

 「そーんなこと言って、毎日電話してるくせに。」

 後ろから、ロザリーがコーヒーを片手ににやけている。

 「何で知ってるの?」
 
 「あなたの顔を見ればわかりますよ。それと、クルト様の今までの行動を読めば。」
 
 今までの行動ねぇ。

 ちょっと前まであんなに私に対して冷たかったのに、
 
 想いが通じたらびっくりするほど独占欲が強いクルト。

 毎日毎日電話をかけてきては、今日はどうだったかとか、

 誰かに触られなかったとか、聞いてくる。

 まったく、国中が私たちのことを知ってるのに誰が手を出すというのよ。

 でもそれが、嫌じゃないから不思議ね。

 「あ〜、今頭の中でのろけたでしょ?にやけてますよ。」

 やばいやばい。仕事になんないね、これじゃあ。

 顔をむにーと両サイドに広げて気合を入れる。

 恋愛して仕事がおろそかになるなんてもってのほか。

 そんなことじゃ、今まで努力したことが無駄になるし、

 クルトに対しての評価も下がってしまう。

 ここは、クルトがいなくても頑張れるところを見せなくちゃ。








 「でもねー、やっぱりいつも一緒にいたから顔を見れないと思うと寂しくなるのよ。」

 いつもの飲み屋でついついアンジェに愚痴ってしまう。

 「はいはい。まったく、さみしがりやさんでちゅねー。」

 あ、馬鹿にしたな、もう。

 そんなアンジェも寂しいはず。アンジェの彼氏もクルトと同じ護衛官の仕事をしているので、

 一緒に遠くの国へ行ってしまっている。

 「ねえ、アンジェは寂しくないの?」

 グラスに入った氷を覗きながら聞いてみた。

 「そうねぇ、さみしいわよ。サラと同じ。でも明日帰ってくるから我慢してるの。」

 そういってくすっと笑った。

 その顔はとても綺麗で。

 ああ、恋する乙女の顔だなって。

 「う〜、アンジェ〜かわいい!!」

 思わず抱きしめちゃった。

 「ちょっと、サラ。よっぱらったの?」

 照れながら抱きしめた私の腕をポンポンっとたたいた。

 あ〜。いいなぁ。アンジェの彼氏がうらやましいよ。

 こんないい子を彼女にもてるなんて。

 なんてことを考えていたら私たちの上に大きな影が。

 その影の持ち主を見ると・・・・・。

 「クルト!」

 「クルト様!」

 私たちが同時にクルトの名前を呼んだ時には私はクルトの腕の中にいた。

 「ちょっとクルト!」

 「・・・・・・・。」

 黙って離してくれようとしない。

 あの・・・。うれしいんだけど、みんな見てますが。

 うれしいやら恥ずかしいやら頭の中はぐちゃぐちゃになる。

 ようやく離してくれたかと思うと私の腕を引っ張って

 「アンジェ、申しわけないがお先に失礼する。

 その代わりといっては君が一番会いたい人を連れてきた。」

 そういってチラッと目線を動かしたその先にはアンジェの彼氏が呆然と立っていた。

 「あら、ありがとうございます。サラはどうぞお持ち帰ってください。

 あなたに会いたくて会いたくて腐ってましたので。」

 にこやかにそう答えた。ちょっと、腐ってたって・・・・・。

 ズルズルと腕を引かれてクルトの車の助手席に押し込められた。

 クルトも運転席に乗り込んでエンジンをかけ発進させると思いきや、

 ハンドルに両手を乗せその上におでこを当てて深いため息をついた。

 え?なにか怒ってる?

 私なにか、へまをしたかな?

 「初めてあなたと長く離れてあまりにも辛かったから早く仕事を仕上げてきました。」

 そうなの?クルトも寂しかったんだ。

 「そして一分でも早くあなたに会いたくってこの国についてすぐに王宮に行ったらあなたはいないし」

 え、空港から直行してくれたんだ。

 「多分、アンジェと飲んでいるのだろうと思ってここに来たらアンジェと抱き合っているし。」

 抱きあってるというか私が抱きついてるだけだったけどね。

 「相手が女だとわかっているのに、アンジェだとわかっているのに、嫉妬してしまって。」

 クルトがアンジェに焼きもち?

 か、かわいい・・・・・。

 クルトが下を向いているのをいいことににやけてしまった。

 「自分がこんなに情けない人間になるとは・・・・。」

 「そんなことない!私、すごくうれしい。それだけ、クルトが私をすきだってことでしょ?

 いままで、自分が追いかけてばかりだったから、クルトがそんなにも私のこと想ってくれてるなんて
 
 想ってもみなかったから。」

 そう、いままでクルトの感情が見えなかった。

 だけど、今はこうやってあいたい気持ちを隠さず行動に移してくれたり、

 焼きもちやいてくれたり、へこんだクルトを見せてくれたり、

 いろんなクルトがみれて私はうれしかった。

 落ち込んで下を向いているクルトの頭をそっとなでた。

 びっくりした表情でこっちを見る。

 「いままでのクルトも好きだけど今のクルトももっと好きだよ?」

 そういって私からキスをした。

 私からの不意打ちのキスを離すことなく、

 クルトはだんだん舌を絡め、深くしていく。

 そっとお互い唇を離したとき、

 クルトはすっかりいつもの彼に戻っていて、

 「サラ様から誘ったんですからね。」

 そういって朝まで離してくれなかった。



 

 


  





  









    






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