09. 言ったが最後

 





 「で、怒りに任せて結婚するって言うの?」

 王宮内では必ず敬語で話すのにそれすら忘れるくらい怒ってらっしゃる。

 しかも、仁王立ちで箒を腰に当てて立っているアンジェ。

 こ、怖いです。

 「だって、お父様もクルトもそれを望んでいるから・・・・・・。」

 「あなたの気持ちはどこにいったの!」

 ドンという大きな音がした。箒で床を叩いたらしい。

 落ち着いてください。ね。

 「でもね、彼は私をとても大事にしてくれると思うし。」

 はぁ〜。

 あ、今、思いっきりため息つきましたね。今日のあなたは優秀メイドあるまじき行為。

 「わかった。もう、何も言わない。あなたには。」

 くるっと向こうを向いて出て行ってしまった。

 私だって、結婚なんかしたくないわよ。

 でもどうしようもないのよ。 

 いつまでも想っててもしょうがないって嫌って言うほどわかってしまったんですもの。

 好きでいることが迷惑だってわかってしまったんですもの。

 あきらめるしかないのよ。

 






 深くため息をついて自分の部屋を出た。

 お父様の部屋に行く途中、中庭に出る渡り廊下がある。

 しばし、渡り廊下から中庭を見つめた。

 中庭はお母様の好みで色とりどりの花が植えられており、

 年中花が咲いている。

 中央に大きな木で出来たブランコがあった。

 小さい頃、よくクルトと乗ったな・・・・・・。

 なんとなく懐かしくてそっとブランコに指先で触れた。

 「なつかしいですね。」

 後ろから、今一番聞きたくない人の声が聞えた。

 

 
 「なつかしいわね。よく二人でここで遊んでたわ。」

 なるべく顔を見ないようにしてブランコに座る。

 後ろからそっとブランコを押してくれた。

 彼はいつもこうやって後ろから押してくれた。

 「私ね、あの時は永遠にこうしてられるんだって信じてたんだ。

 永遠なんてないのにね。」

 そういってうつむいてしまった。

 だめだ、こんな私かっこ悪い。

 これじゃあ最低だ。

 ぐっと顔を上げる。

 ぴょんとブランコから飛び降りてクルトのほうを振り向いた。

 「昨日は怒鳴ってごめんなさい。

 あなたにはたくさんの気持ちをもらったわ。

 あなたを好きでよかった。今まで本当にありがとう。」

 彼をしっかりと見つめ、笑顔で言った。

 泣き顔じゃなく笑顔でちゃんとお礼を言いたかった。
 
 「クルトのおかげで、私今までいっぱい頑張れたの。

 いろんなことを頑張れたの。むちゃもできた。

 あなたに出会わなかったらきっと今の私はいなかった。

 だから、本当にありがとう。」

 うん、笑顔でいえた。

 最後も頑張れた。

 「じゃあ、お父様のところに行くから失礼するわ。」

 彼は今日は非番だった。

 そんな彼がここにいるのがちょっと不思議だったけど最後にちゃんとお礼が言えてよかった。

 彼は黙って立っていた。

 その横を走り去っていった。

 全速力で走ってお父様のお部屋の前まで来た。

 勢いがなければ入れない意気地なしの私。

 ドアに手をかけた瞬間、大きな手が私の手の上から出てきた。

 その手は私を大きく包み込む。

 「やっぱり、だめだ。」

 苦しそうにその手の主はつぶやく。

 「許されないことだとわかってる。それがかなわないことだと。

 だけどどうしても他の人に渡したくない。」

 そう言ったが最後、私を振り向かせ深い深いキスをした。

 な、な、なに?
 
 何がいったい起きてるの?

 私は昨日振られたんだよね。

 だからいっぱい泣いたんだよね。

 なのにどうしてその本人からキスされてるの?

 唇が離れた瞬間、ブッと吹き出された。

 「せめて目をつぶっててほしいのですが。」

 笑いをこらえて言う。

 「あ、の。」

 「なんでしょうか。」

 いたっていつもどおりのクルト。

 「なんでこんなことするの?」

 私の質問に眉間にしわを寄せる。

 「わからないのですか?」

 いや、さっぱりこの状況わかってないです。

 「さっきの言葉、聞いてました?」

 さっきの言葉?

 ・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 !!!!!!!!!!

 「思い出したようですね。」

 ほっとしたような表情にもどる。

 「だって、私の結婚話に賛成してたじゃない。」

 そうよ、だからきっぱりとあきらめようと心に決めてここに来たのに。

 「だから、それは・・・・。」

 「お前達、人の部屋の前でなにしとるんじゃ。」

 いつの間にかお父様がドアを開けて不思議そうな顔をしていた。

 すっかりお父様のことを忘れていた・・・・。

 座って抱き合っていた私たちを見て右眉が上がる。

 「クルト、これはどういうことかね。」

 どういうことだろう。

 私も知りたいよ。

 クルトは自分とともに私も立たせた。

 そして私の手を握りながらお父様に爆弾を落とした。

 


 「陛下、私はサラ様を愛しています。結婚させてください。」 



 

 

 


  





  









    






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