08. 憎さ余って愛しさ千倍





 朝早くに、お父様からの呼び出し。

 なんだか、嫌な予感。

 今日に限ってクルトはお休み。

 せっかくこの数日、クルトのおかげで平和だったのに。

 お父様の執務室までの長い長い廊下でブツブツ文句を言っていたら、

 いろんな人が心配して声をかけられた。

 一国の姫としてあるまじき行為だったわ。

 気を取り直して、目的の部屋の前で深呼吸を数回。

 グッとあごを引き締めて、ノックをした。

 入るように言われると、ため息が出た。

 忙しかったらいいのに・・・・。

 まあ、本人が呼んだんですもの、ありえないわね。

 「失礼します。お父様、何かお話があるとか。」

 書類に目を通していたお父様がこちらを見上げた。

 眉間にしわがよってる。なにかトラブルでもあったのかしら。

 「ああ。まあ、ここに座りなさい。」

 この国の国王でもあり、私の父は人としてとても尊敬できる人物だ。

 国民からも信頼が厚い。

 常に国民のために動き回っている。

 そして、いつも笑顔を絶やさない。

 その父が眉間にしわを寄せているなんて。

 「サラ。その後はどうかい。」

 「その後とは、ミカエル様のことでしょうか。」
 
 大きくうなずいている。

 はぁ。その後って言われてもね。

 「数回、この国のご案内しましたわ。それと、食事も数回。」

 「そうか。で、お前はどう思う?」

 どう思うって。どうも思ってないけど。

 「お父様、私には好きな人がいます。お父様も知ってらっしゃるでしょ?」

 「もちろん知っておる。しかし、向こうはなんとも思ってないのだろう。」

 う、痛いところを。

 思いっきりぐっさりきましたよ。

 「でも、わたくしは彼以外の相手のことを考えることは出来ません。」

 「サラ、ちょっと落ち着きなさい。」

 そういってコップにお水を注ぎ私に渡してくれた。

 ゆっくりとその水を飲み干した。

 「サラ、あの男は常にお前の近くにずっとおった。どんなときも。

 だから、あの男のことしかお前はしらん。だから、勘違いかもしれないのじゃぞ。

 もっと、いろんな男を見てみたほうがいいのではないか?」

 そういわれるのもわかってる。

 私はこの国の温室育ち。

 たくさんの男の人を見てるわけじゃない。

 だけど、どんなに男の人をみても、きっと彼以上の人はいないと思う。

 「それにな、お前にこの話を持ち込む前にクルトにも話してみたんだ。

 そしたらあいつは『良いお話ではありませんか。これで私も安心です。』と言ったんだぞ。」

 お父様の言葉に私は真っ暗になった。

 クルトは私の結婚を望んでいたのだ。

 目の前も、頭の中も真っ暗闇で、呆然としながらお父様の部屋を出た。

 それからの事はあまり覚えていない。

 自分の執務室に戻ると普通に仕事をこなし、

 いつものように仕事を切り上げた。

 ふらふらと歩いていると後ろからグッと腕をつかまれた。

 「どうされたのですか。顔色があまりにも悪いですよ。」
 
 そこには心配そうに見つめるクルトの姿があった。

 この人は本当に私のことをなんとも思っていないんだ。

 少しは望みがあるんじゃないか、

 いつかは振り向いてくれるのではないかと毎日毎日思っていたのに。

 私が他人と結婚することを望んでいるのだ。

 大好きなのに、こんなにも大好きなのに、近くにいても手が届かない人なのだ。

 呆然と見つめる私を変に思ったのか、真剣な顔で見つめる。
 
 そんなに心配しないでよ。どうせ私のことなんか、仕事の一環でしかないんでしょう。

 「・・・・・ないで。」

 「は?どうされたのですか?」

 「近寄らないで!!」

 力強い彼の手を引き剥がした。

 ずっとこらえていた涙がボロボロと出てくる。こんな時泣きたくないのに、すぐに涙がでる自分が嫌い。

 「私がお荷物だったんでしょ?立場上はっきりと断れなくて嫌だったんでしょう?
 
 私なんか遠い国にお嫁に行けば気が楽だって思ってるんでしょう!」

 下を向きながらクルトに叫んでしまった。

 「あなたの望みとおりミカエルと結婚しますわ。そして、この国を出て行きます。
  
 そうすればあなたも私に二度と私のお守りをしなくても済みますものね。

 今まで、迷惑ばかりかけてすみませんでした!!」

 そういってクルトを睨みつけて自分の部屋へ走って行ってしまった。

 自分の部屋のベッドに一目散に潜った。

 頭から枕をかぶって大声で泣いた。

 迷惑なら嫌いだってはっきり言ってくれたらいいのに。

 それなら私もすんなりあきらめたのに。

 ひどすぎる。クルトなんか、大嫌いだ。

 




 なんて、彼を嫌いになれたらどんなに楽か。

 正直、憎い感情もある。

 だけど、それ以上にやっぱり彼が好きだって、

 愛おしいと思う感情が何千倍にもなってかえってくる。

 くやしいけど、しょうがない。

 こうなったらいっぱい泣いてやる!! 

 私は自分のことしか考えられなかったので、

 大泣きしている私の部屋のドアにもたれかかり、クルトが頭を抱えて座り込んでいたことなんで

 もちろん知りもしなかった。 

 

 

 


  





  









    






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