07. 世界中に叫びたい







 「サラー。サーラー。」

 遠くで私を呼んでる声がする。

 だけど、しらないフリ。

 「呼んでますわよ。サラ様。」

 ベッドメイキングをやっているアンジェが私に向かって言う。

 知ってるわよ。だから隠れてるのじゃないの。

 サラが持ってきているシーツを入れるワゴンの中に隠れている私。

 何をやってるんだか。

 「いい方じゃありませんか。」

 それを本気で言ってるのかしら。だとしたら親友やめるわよ。

 「ほら、もうそろそろこの部屋に来そうですわよ。」

 バタバタバタバタ・・・・・バタン!

 「おお。アンジェ。君がお仕事中とは失礼。サラを見かけなかったかね。」

 「ミカエル様、こちらにはいらっしゃっておりません。先ほど、図書館に用事があると

 申しておりました。」

 深々と礼をしながら答える。

 さすが、アンジェ。これで少しは時間稼ぎになるわ。

 「そうか、ありがとう。ところで、一つ質問だが・・・。

 サラとクルト新隊長はつきあってるのかね。」

 なんてこと、聞くの!

 「私めは存じ上げません。」

 「そうか・・・・。ありがとう。」

 バタバタバタバタバタ・・・・・・・・・・・。

 だんだん足音が遠のいていった。もう大丈夫かな。

 「ふ〜、助かった。ありがとう、アンジェ。

 まったく、しつっこいったらないわ。」

 ワゴンの中から這い出てきた。

 なんだか、日本のホラー映画の誰かみたい。

 「それにしても執念ですわね。ここにかぎつけると思いませんでしたわ。」

 クスクス笑いながらアンジェがベッドメイキングを仕上げた。

 「それに早い情報収集だこと。」

 そのセリフに真っ赤になった。

 私が、クルトを追っかけまわしていることは王宮いや、もしかしたら国中の人が知ってるような気がする。

 たまに街中歩いてたら「姫様頑張ってね。」と同情されるときもあり。

 だから今まで私に、プロポーズするひとなんかいなかったのに。

 「知っててなんで追っかけまわすかなぁ。」

 「よっぽど自分に自信があるんじゃありませんか?」

 その自信、分けてほしいよ。

 はぁ。

 一瞬でもいいひとなんて思わなきゃよかった。

 とうさまのところであったときは、彼は抑えていたらしい。

 そのあと、しばらくは王宮に滞在するからって言われて、

 少しだけ案内したら、もうプロポーズの嵐。

 さすがに遠まわしに断ったんだけど、たぶん理解してないんだわ。

 だんだん、疲れてきて結局顔を合わさないように仕事を入れたり、

 逃げ回ったりする始末。

 それに最近クルトの姿も全然といっていいほど見えないし。

 私の護衛にはついてるみたいだけど姿がないって感じで。

 避けられてるのかな。

 でも避けられる理由が思いつかない。

 でも明らかに避けられてるような気がする。

 ミカエルからは逃げ回るのにクルトには避けられてる私。

 なんなんだろう。ため息出ちゃう。

 「まあ、そんなに落ち込まなでくださいな。サラ様がそんな顔をしてると

 国中が暗くなってしまいますわ。」

 そうね、暗くなっても状況がかわるわけじゃないし。

 スカートのすそをパンパンと両手で払ってすくっと立ち上がった。

 「うん。とりあえず、仕事行ってくる。ロザリーがそろそろメデューサになってる頃だと思うし。」

 アンジェはクスクスわらって

 「いってらっしゃいませ。」

 と送り出してくれた。いってきますと手をブラブラさせた。








 部屋を出るとクルトが立っていた。

 何かいいたそうな表情をしてる。微妙に・・・だけど。

 「どうしたの?何かあった?」

 「・・・・・・。いえ、何もございません。」

 そうかなぁ。目がなにか訴えてるんだけど。

 クルトがなにか言うまでじっと目を見つめた。

 クルトもなぜか黙って私を見つめ続けた。

 「あ〜。ここにいたんだね、サラ。」

 あれ、図書館からもう戻ってきたのね、ミカエル。

 「チッ。」

 ん?今、舌打ちが聞えた?気のせいかな。

 「サラ、今から僕の車でドライブ行かない?海沿いのほうにさ。」

 そんな時間ございません。

 というつもりだったのに、

 「失礼ですが、サラ様は溜まっているご公務がたくさんございますので、

 これにて失礼します。」

 私とミカエルの間に立ちはだかっている。

 ミカエルよりもクルトのほうが背が高いからかなり威圧的に見えるのだけど・・・・・。

 「そうですか、じゃあ、明日迎えに来ます。」

 ぜんぜんわかってない口調で返すミカエル。

 「申し訳ございません。数日は無理かと。それでは失礼。」

 そう言って私の手をとってスタスタと歩いていった。

 え?え?

 何が何だかわからないけど、とりあえず助かったのかな。しかも数日は来ないだろう。

 私の公務室の前に来ることろには私の息は上がってしまっていた。

 「はぁはぁはぁはぁはぁ。あ、ありがとう、クルト。すごく助かった。」

 やっとのことでお礼をいえた。すごく早く歩くんだもん。あんなクルト初めてだよ。

 「・・・・・・・。」

 胸を押さえながらやっとお礼をいったのにクルトの反応がない。

 なんだか、怒ってるような。

 どうしたんだろう。さっきから。いつものクルトじゃない。

 「?どうしたの?さっきから。具合でも悪いの?」

 「・・・・・・・・・。いえ、失礼します。」

 くるっと向きをかえてクルトは去っていった。

 なんだったんだろう。何に怒ってるんだろう。

 私、なにか余計なことでも言ったかなぁ。

 考えながら部屋に入るとすでにメデューサになりかけていたロザリーが見えた。

 よかった。なる前で。

 

 クルトのおかげでミカエルが来なかったので今日一日かなり集中して仕事をこなせた。

 溜まってた分はかなりこなせたかな。

 気がつくともう夜の22時。道理でお腹が空くと思った。

 両手を組んで後ろにぐーっと伸ばして後ろを見るとクルトが立ってた。

 びっくりした〜。もう。

 「ど、どうしたの?もう、今日は交代したんでしょ?」

 クルトの仕事は基本的に交代制だ。数人で交代で私を警護してる。私についているだけじゃなく、

 事務仕事とか、城の警備のこととか、休みとかいろいろ振り分けられてる。

 今日はクルトは夕方まで私の警護でその後は休みだったはず。

 「・・・・いえ、明かりがついていたもので気になって。」

 そうか、普段は夕方5時までだったものね。

 集中して仕事してたから、気がつかなかったのね。

 「ごめんなさい。もう帰りますわ。」

 慌てて帰る用意をした。私の警護の人が迷惑ですものね。

 「送ります。トーゴにはもう帰るように言いました。」
 
 トーゴというのは今日の私の警護の人。

 「わかった。お願いします。」

 わざわざ交代するなんて。やっぱり私に何かあるのかな。

 さっきまで避けられてるって思ったのに急に近くにきたり。

 近くにきたかと思えば車に乗ったら沈黙だし。

 まあ、もともと私みたいにしゃべる人間じゃないんだけどね。

 「今日は・・・。ありがとう。すごく助かった。」

 そうそう、ちゃんとお礼言ってなかったものね。

 「いえ。」

 いつものように短い返事。

 だけど、なんだか怒ってるような。

 「ねえ、なにか怒ってる?この前から。」

 「・・・・・・。いえ。なにも。」

 「その・・・・・・。が怒ってる証拠だって。何年あなたを見続けてると思うの。」

 睨みながら言ったらクルトがフッと笑った。
 
 その微笑がとっても優しくて。愛おしくて。

 「私、あなたがどんなに断ってもあきらめないから。

 どんなに避けても付きまとうから。

 どんなに遠くに逃げても世界中に聞えるように好きだーって叫んでやるから。」

 ついついいつものように告白してしまった。

 「それは困りますね・・・。」

 そう言ってクルトは顔を背けたけど、

 少してれたようで、はにかんでいた。

 うう、か、かわいい・・。

 こんなクルトを知ってるのはきっと私だけだろうな。

 そう思うとなんだかとっても幸せで。
 
 私の自然と笑顔になっちゃう。 

 あー、クルト大好きだーって世界中に叫びたい気持ち。

 そんなことすると怒られるだろうけどさ。

 それになんだか、クルトの機嫌が直ったようだ。

 やっぱり好きな人には笑っててほしいな。

 朝から散々な一日だったけど、クルトのおかげで幸せな気持ちになった。
 

 

 


  





  









    






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