06. 冗談なんて通じないよ






 じぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 しつこいくらいにじぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 「サラ様、かなりあやしい人に見えますわよ・・・・。」

 物陰からクルトをそっと(?)見ていた私に、ロザリーがあきれるようにつぶやいた。

 「え?ああ、ごめんなさい。」

 今日もクルトは何も言ってこない・・・・・・。






 クルトが私をキスしてから、数日たった。

 クルトが私になにか言ってくることもなくただ日々が過ぎていった。

 あんなことをしておきながら平然と毎日を過ごしているクルトはある意味すごい。

 私の中ではいっぱいいっぱいなのに。

 それとも、ただのおふざけだったのかな・・・。

 膝枕のお礼とか・・・・。

 きっと深い意味はないのだろう。じゃなきゃ、毎日告白してた私にあんなことしないだろう。

 頭のかなでいろんな考えがグルグルとうずまいて、パンクしそうになる。

 こんなとき、どうしたものか・・・・。

 恋愛経験豊富な人はきっとこのくらいじゃ冗談とか、挨拶とかで済ますのかしら。

 でも私ならあんなこと、冗談じゃ通じないから。

 そんな私と知ってるのに、どうしてあんなことしたんだろう。

 グルグルぐるぐるぐる・・・・・・・・・。





 「あ〜〜〜〜!もう、わかんない!」

 おもわず、手元にあったクッションを投げてしまった。

 その先には・・・・・・・。





 びっくりしたクルトの姿があった。





 「どうされましたか?なにか、問題でも?」

 う〜〜〜。誰のせいで叫んでると思ってるのかしら。

 「顔色が優れないようですが、まだ体調がよくなってないのでしょうか?」

 心配そうにこちらに近づいてくる。
 
 「だ、大丈夫。なんでもない。そ、それよりも何かあったの?」

 「・・・・・・・・。陛下がお呼びです。今すぐに、応接の間のほうに来られるようにとのことです。」

 とう様が私を?めずらしいなぁ。どうせ、夕食の時顔を合わせるのになんでわざわざ呼びつけるのだろう。

 しかも応接室に。だれか、お客さんかなぁ。

 でも、そんな話聞いてないけど・・・・。

 「わかったわ、今すぐいく。クルトも来て。」

 「・・・・・・・。わかりました。」

 なんだか、今の間。気になるなぁ。

 そう思いながらも呼ばれた所へ行く。

 そこには、見知らぬ男性が立っていた。

 やっぱりお客さんかぁ。

 あれ、どこかで見たことあるような・・・・・。

 「サラ!久しぶり!やっぱり綺麗だねぇ。」

 そういって抱きついてきた。

 久しぶり?私を呼び捨て?

 「サラ、お前も覚えているだろう?先日の慈善パーティーに来てくださった、

 ミカエル・アロンソさんだ。」

 ああ、思い出した。やたら、べたべたしてきた人ね。どこかの国の御曹司だか、なんだか。

 「お久しぶりです。ミカエルさま。先日はありがとうございました。」

 営業スマイルで丁寧に挨拶する。

 「実は、ミカエルさん。お前と結婚を前提にお付き合いしたいと申してな。

 お前も、幸い付き合ってる人もいないようだし、どうだ?」

 はぁ?

 そんな、軽々しく話すこと?

 「ですが、お父様、私は・・・・。」
 
 「お前ももうそろそろいい年だし、わしも孫が見たい。

 それにな、お前に幸せになってほしいんだよ。愛される幸せを感じて

 暖かい家庭をつくってほしいんだよ。」

 それを言われたらなにも言葉が出なかった。

 おとうさまの気持も痛いくらいわかるから。

 お父様は私に幸せになってほしいのだ。

 助けを求めるようにすぐ後ろに控えているクルトを見る。

 一瞬だけ、目があったけどそらされてしまった。

 クルトは知ってたのね。こんな話があることを。

 だから、変な間があったのね。

 なんだか、クルトの気持が見えたような気がした。

 もう、目の前が真っ暗になってしまった。

 キス一つであんなにも浮かれていた自分がとても情けなく感じた。

 「サラ、急な話でびっくりしたみたいだね。そんなに焦らなくていいから

 じっくり考えてほしいんだ。君の一生にかかる問題だから。

 ただ、僕は君がとても好きだということを覚えていてほしい。」

 そういって、ミカエルは優しく暖かい両手で私の手を包み込みながらいった。

 案外、いい人なのかもしれない。

 彼の手を見つめながら自分の行く先を考えた。 

 

 

 

 


  





  









    






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