05. その顔見たさについ


 
 倒れてから数日、そりゃあもう徹底的に安静にさせられた。

 もう、大丈夫といっても誰も聞いてくれない。

 自己管理がなってないとこんなにも不自由かと心底嫌気がさしてしまった。
 
 今まで、病気というか寝込んだことがなかったから油断してたわ。

 ロザリーなんか、メデゥーサーみたいな顔になってそりゃあもう、石化しちゃうかと思ったわ。

 綺麗な人って怒るともう手がつけられないくらいに怖くって怖くって、夢にでてきそう。

 それに、アンジェにまでこってりと説教された。

 人の上に立つ人間が自分の健康管理も出来なくってどうするかって。

 確かにそうよね。人のことばっかりじゃなくてまず自分の管理が出来てから、人に言えるんだもの。

 まったく頭があがりません。

 それにしても、どうして私の周りは病気になると怖くなる人ばかりなんでしょうか。

 普通優しくしてくれるものじゃないんでしょうか・・・・。

 姫様なのにこの扱いっていったい・・・・・・。

 







 やっと、監禁(笑)も解けて、お気に入りの場所に行けるようになった。

 はぁ、やっぱりここの温室は落ち着く。

 大好きな人が隣にいて、大好きな花に囲まれて、ソファーにゆっくりと座って。

 そしてお気に入りのいつものDVDと紅茶と・・・・・・。

 「どうして私がここにすわらせられるのか、説明していただきたいのですが。」

 いつもは立って私の後ろに仕えさせられているクルトに初めて隣に座るように言った。

 しかも、命令で。

 「あら、職権乱用よ。」

 堂々といったもんだから、さすがのクルトも黙ってしまった。

 「というのは冗談。ちょっとクルトに用事があってね。」

 そういってクルトににじり寄った。

 「な、なんでしょうか。」

 む、そんなあからさまにいやな顔しなくてもいいんじゃないの。

 「私が仕事を頑張った分、その二倍はクルトも仕事が忙しくなると思うのよね。」
 
 そう、私が動き回ればそのぶん必然的にクルトの仕事も多くなる。

 警護やら、安全面やら行動範囲すべてを管理してるので私には想像できないくらいに忙しかったと思う。

 「なのに、私の体調も誰よりも先に気づいて、対応してくれた。」

 彼が私に対して怒ってるのはそれだけ大事に思ってくれてると、うぬぼれてもいいよね。

 「そんな誰かさんは多分私が休んでいた間も気が気じゃなかったととある人からの情報。」

 ロザリーが愚痴をこぼしていた。早く治していただかないと誰かさんの機嫌も悪いままだって。

 「だから、私が元気になったので今度はクルトに休んでもらおうと思ってね。

 といっても、休日をとってゆっくりすることもできないだろうから・・・・・・。

 ここなら、私のプライベートな場所でセキュリティも万全。しかも、お付の人はクルト一人だけ。

 だから、こうやって体を休めてください。」

 そういってクルトの頭を私の膝に乗せた。

 「な、なにを!!!」

 「しー。私とクルトしかいないんだから。この前クルトがやってくれたお返し。だめ?」

 真っ赤になりながらも私のお願いを聞き入れてくれた。とても照れているのか、向こうを向かれてしまったけど。

 私がお願いすると絶対きいてくれるって知っててわざと言っちゃう。

 クルトの照れた顔を見たくってつい意地悪しちゃうの、ごめんね。

 でも、クルトに休んでもらいたいのは本当。せめて、この時間だけでもゆっくり休んでほしい。

 そう願いをこめて、クルトがなでてくれたように私もクルトの髪をゆっくりとなでた。

 さらさらな髪。男の人なのにどうしてこんなに手ざわりがいいのかしら。

 ずっとこうしていたいな・・・・・。




 「クルトに、この前こうやって髪を触られてたら、とっても気持ちよかったんだぁ。

 なんでだろうね。だんだん、落ち着いて眠くなっちゃったの。・・・・・あれ?」

 さっきまで真っ赤になっていたクルトが寝息を立てて眠っていた。

 クルトの寝顔なんて初めて。

 なんて、なんて、かわいいの〜〜〜〜〜〜〜。

 まつげ長いし、おでこ全開だし。

 ああ、食べちゃいたい・・・・・・。

 いけない、いけない。襲うところだったわ。女の子としてあるまじき行為。

 最近、どうも私の思想がだんだんと危険になっているような気がする。

 欲求不満なのかしら。こんなんじゃ、危険人物として捕まってしまうわ。

 頭をぶんぶんふって、危険な思想を払いのける。

 そして、落ち着かせるために、クルトの髪をゆっくりとなでる。

 少しは、これで疲れが取れるといいな・・・・・・・・。




 






 


 気がつくと、クルトにまた、抱っこされていた。

 もしかして、私も寝てたの?

 ああ、これじゃあ、お礼にならないじゃないの。

 でも、気持いいからもう少しこのままで・・・・。

 なんて思ってたらどうも、私の部屋に着いたみたいで、そっとベッドに下ろされた。

 うう、時間切れか。残念。

 起きて、御礼を言おうと思った瞬間。

 目をつぶっていたけど、頭が真っ白になった。



 

 クルトは私の唇にそっと口付けをしたのだった。



 クルトがそっとドアを閉めて部屋を出て行った。


 
 私はしばらく動けなかった。




 

 

 

 

 


  





  









    






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