04. 「ありがとう」を何度でも


 いつもと違う表情を見れたときから、いろんな顔を見せてくれるようになったと思うのは、私の気のせいかな?

 たとえば、朝挨拶するときに表情が柔らかくなったり、

 ちょっと手が触れたときに耳が赤くなったり、

 それでも知らない振りしてるところとか、

 ああ、もうかわいくって仕方がない。

 私よりもずっと年上の人をこんなにもかわいいって思うのは失礼かもしれないけども。

 でも、前よりもずっとずっと愛おしいと感じてしまう。

 そんな毎日がとてもたのしい。

 おかげで仕事もかなりやる気が出て、調子がいい。

 




 テンションが上がった状態で、慈善パーティが行われた。

 いつもはパーティなんて、かなりイヤイヤで出席するんだけど、

 今回は自分が中心で行うためそんなことは言ってられない。

 それに、今日の警護とエスコートはクルトだしね。

 張りきって仕切らないと。







 「サラ様。」

 一通り挨拶して回っていよいよダンスを・・・と思っているときに

 急にクルトが声をかけた。

 めずらしい。自分から声をかけてくるなんて。

 「どうしたの?なにか、あった?」

 と言う前にこっそりと壁際に連れてこられた。

 「失礼します。」

 そういうと私のおでこを触った。

 クルトの冷たくて大きな手が気持ちいい・・・。

 思わず目をつぶってクルトの手を堪能する。

 「やっぱり・・・。」

 つぶやくようにため息交じりの声が上のほうから聞こえた。

 「どうして熱があったこと言わないんですか?」

 やや、怒ってるような顔で言われてしまった。

 熱?

 ああ、そういえば今朝からなんだか熱いなって思ったけどテンションが上がってるせいかなって思っていた。

 言われてみるとなんだか体がだるいような・・・。

 「まったく・・・。どうしてあなたはもっと自分の体を大事にしてくれないんでしょうか。」

 どうしてって言われても気がついてなかったのよね。

 「ごめんなさい。」

 そういうしかなかった。

 「だけど、たいしたことないから。今日のパーティが終わったら少しお休みをもらうことになってたの。

 最近、忙しくってとれてなかったから。だから、ちょっと気が緩んじゃったのね。大丈夫よ。」

 大丈夫。あと数時間の辛抱だから。

 クルトの元を去ろうとしても、なぜか腕を握られて進められなかった。

 「サラ様。」

 クルトは睨んでいる。もう、心配性だなぁ。

 「私が倒れてもクルトが駆けつけてくれるでしょ?だから、安心して仕事に全うできるの。

 我侭かもしれないけど今日のパーティは成功させないと困る人がでてくるのね。

 知ってるでしょ?」

 そう、この日のために私が走り回っていたことをクルトは知っていた。

 はぁっとため息をつきながら握っていた腕を放してくれた。

 「その代わり、私の側から離れないでください。」

 そんな・・・・うれしい申し出があるなんて。

 おもわず、顔がにやける。ああ、一国の姫としてあるまじき行動だろうけど。

 一国の姫の前に、大事な人から守ってもらえるという幸せをちょっと噛みしめてみたりするくらいいいよ・・・ね。

 クルトの一言が自分にこんなにも力をくれることなんて

 きっと気づいてないんでしょうね。

 私もクルトのそんな存在になりたいな。
 
 側にいるだけで頑張れる存在になれたら、

 私、もっともっと頑張れるような気がする。

 


 パーティも終焉に近づき、ゲストの方々もちらほらとお帰りになっている。

 一人一人に丁寧に挨拶して、笑顔を絶やさずに。

 きっとこの中で私が熱があるって気づいている人はいないんじゃないかってくらいに

 完璧にこなした。

 「サラ様、お疲れ様でした。明日から1週間、お休みをとられるのですよね。

 どこかに行く予定は立てたのですか?」

 秘書のロザリーが遠くで話してるのがなんとなく聞こえた。

 なんだか、頭がくらくらする・・・・。

 そう思うと同時に体の力が抜けた。

 あ、倒れるかも・・・・。

 なんてことを冷静に考えていたら景色が白黒に見えて。

 「サラ様!!」

 と、呼ばれるのと同時にクルトに抱きかかえられた。

 そう、夢にまで見たお姫様抱っこ。

 お姫様なのに今まで一度もされたことがない。

 むなしいなぁ、私。
 
 「サラ様、あとのことはロザリー嬢に任せて帰りますよ。」

 そういってロザリーや周りの役員にてきぱきと指示をし、車に向かう。

 有無を言わせない空気。

 長年の付き合いのロザリーでさえ、びっくりしている。
 
 周りの人はきっと近寄れないだろうオーラが今きっと出てるはず。

 だけど、私だけはうれしくて。

 不謹慎だけど、自然とにやけちゃう。

 ああ、病気になるのも悪くないなって。

 ニヤニヤしていたら車に乗り込むとき、クルトに睨まれた。ごめんなさい。

 車の中で、深い深いため息をつかれちゃったし。

 「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ちょっと疲れただけだから・・・。」

 「あなたはいつもそうやって無理してどれだけ毎日心配してるかわかってるのですか?」

 これは、説教に入りそうだ。やばい・・。

 「でも・・・。」

 「もういいです。」

 冷たい拒絶の言葉。

 あ、完全に怒らせてしまった。と、思った瞬間。

 クルトの大きな手が私の頭をグィっと寄せたかと思うと私の頭は膝の上へ。

 「私の膝ではものたりないかと思いますが、しばらく我慢してください。」

 口調は厳しいのに、クルトの指先が私の髪をさらさらとなでるのでなんだかおかしくなった。

 結局クルトは私に甘いような気がする。

 「ありがとう。」

 クルトの顔を見ながらいっても、こっちを見てくれない。

 「ありがとう。」

 もう一度言ってもこっちを見てくれない。

 でも・・・・・・。

 私をなでる手は止まらないし、耳が赤くなってきてるのは気のせいじゃないみたい。

 「ありがとう。」

 ねえ、クルト。

 あなたがこっち見てくれるまで何度も言うから。

 あなたの照れた顔をどうしても見たいの。

 私って、いじわるよね。





 その後、私の意地悪の反逆か、にがーい見たこともない液体の薬を持ってきて、

 笑顔で飲むようにすすめられた・・・・。

 

 


 

 

 

 

 


  





  









    






inserted by FC2 system