10. 君でいっぱいいっぱい

 





 今、結婚させてくださいっていった?

 私とお父様はクルトの落とした爆弾によって完全に動きが止まってしまった。

 しばらくしてようやく口の開いたお父様が、

 「クルト。おぬしはサラの結婚に賛成だったのでは?」

 と静かに言った。

 うん、そうだよね。だから私は一晩泣いて心を決めたのに。

 お父様の質問にクルトは静かに答えた。

 「私の家系は王族を影から守るのが義務です。

 もちろんサラ様も影ながらずっとお守りしていくつもりでした。

 サラ様をどんなに愛しても答えるつもりはありませんでした。」

 答えるつもりがなかった・・・。

 だから、あんな答え方ばかりしてたんだ。

 「一生、サラ様を影ながら守り、見つめなければいけないのも十分にわかっているつもりです。」

 そう、いつもあなたは私を影から見守り、そして守ってくれていた。

 「しかし、どうしても彼女が他の誰かと結婚することが我慢できませんでした。」

 私を見つめながらはっきりといった。

 クルトがそんなふうに想っててくれたなんて。

 「もう向こうには返事をしているのじゃぞ。」

 「陛下、どうかお願いします。」

 クルトが頭を深く下げた。

 クルト・・・・・・。

 「ブッ。」

 ブッ?後ろから誰かが笑った。

 「お父様、いじわるはこの位にしてあげたらどうですか?」

 飄々とした声が聞えた。

 この声は・・・・。

 「兄様。どうして。」

 「サラ、クルト。これはうそなんだよ。」

 はぁ?なんとおっしゃいました?





 「え〜。コホン。つまりじゃな、お前たちをくっつけるためにだな・・・・・。ゴニョゴニョ・・・。」

 「どういうことですの?」

 仁王立ちしている私の横のクルトもなにやらあやしい黒々としたものを後ろにまとっている。

 「いや、最近な。やたら国民からメールが来たり言われたりするのじゃよ。お前達のことをな。」

 なにそれ、聞いたことない。

 「サラ姫とクルト殿をどうにかしてください。姫がかわいそうです。とか、

 明らかに好きあってるのにどうして認めてあげないのですかとか・・・・。」

 「だから、オレの友達を使ってやきもちやかせたらどうかってお父様と話し合ってさ。」

 あんたかい、計画したのは。

 「いや、わしは反対したんだぞ。だますのはいかんとな。でも・・・。」

 「でも・・・。なんですか。」

 「最近のお前達みてるとどうもいじらしくてな。クルトが頑固だしなぁ。

 ワシが結婚するように命令するのは簡単じゃ。だけど、それじゃあ、二人とも幸せになれんだろう?

 だから、クルトに行動起こすまでぎりぎりのことを圧力かけてみてそれでもだめなら

 問いただそうかと思っておったんだが。

 いや〜、よかったよかった。これで、ワシも安心じゃ。わはっはっはっは!」

 バンバンとクルトの肩を叩いて笑っている。
 
 笑ってごまかそうとしてるのね・・・・。

 クルトを見ると、もうあきらめたって顔をしていた。

 その顔がなんだかおかしくって。

 私も一緒に笑ってしまった。

 


 「それにしてもうちの家族がごめんなさい。」
 
 私の部屋まで送ってくれたクルトに深々と頭を下げた。

 私をなでなでと頭をなでてくれ、

 「でも、こうしてオレはサラ様の側にいれる。」

 そういったクルトの瞳はそても優しかった。

 う、抱きつきたい。

 そう思った私の心を読んだのか。

 「どうぞ?」

 両手を広げて言ってくれた。

 正面からぎゅうっと抱きしめた。

 クルトも抱きしめ返してくれた。

 こんなに幸せでいいのかな。

 さっきまで、あんなに辛かったのに。

 あ、そういえば。

 「そういえばどうして王宮内にいたの?

 今日は非番だったよね、たしか。」

 なにやら言いたくなさそうだったけど、じっと見つめ続けたら観念したらしい。

 「アンジェが、メールくれたのです。サラが結婚する気でいるって。」
 
 「アンジェが?」

 うん、と、うなずいた。

 そうか、アンジェが怒ってでてったのはメールしに行ってくれてたんだ。

 ありがとう、アンジェ。

 「あいつは、オレの気持ちにだいぶ前から気がついていました。だから、何かとうるさくいや、
 
 ありがたい忠告をしてきてました。今回も、仕事中なのに関係なくメールしてしてきてくれて。

 だから慌ててあなたを探した。あまりにも慌ててたからほら。」

 そういって足を指差した。

 「ぶ、靴下はいてない。」

 「王宮内なのにありえないでしょう。」

 苦笑いしながらいう言うクルトはどこかかわいらしくって。

 「頭の中はあなたのことでいっぱいいっぱいでした。

 もう、二度とこんな思いしたくない。」
 
 私でいっぱいいっぱい・・・・・・・・。

 「そうです。オレはあなたが生まれたときから見つめ続けたんです。

 そう簡単にあなたから離れられるはずかないのに、無駄な足掻きをしてました。」

 クルトはここまで言うとじっと見つめ一呼吸をした。

 「もう心を決めました。あなたから離れません。どうやら独占欲が強いってことを思い知らされました。

 でも一生あなたを守り続けます。どんなときも。

 だから結婚していただけますか?」

 何度もコクコクとうなずいて、にっこりと笑った。

 でも、あまりにもうれしくて涙がぼろぼろとこぼれた。

 クルトは私の顎をそっと上げると口付けをした。

 そして、唇が離れたとき、

 「愛してます。」

 と言われまたおお泣きしてクルトを困らせてしまった。

  





 いつもとかわらない場所にいつものDVDと紅茶。
 
 お気に入りのソファーでくつろぐ二人・・・。

 「という設定なんですが、どうして私の隣に座ってくれないの?」

 ラブラブになったから今度こそここでもっとラブラブに・・・と思ったのに。

 「仕事中ですので。」

 あれ、この会話。数ヶ月前と変わりませんが。

 「ケチー。」

 口を尖らせていっても聞いてくれず。

 涼しい顔で私の後ろで控えている。

 こうなったら爆弾落としてやる。

 「私が寝てるときキスしたくせに。」

 ボソッと聞えるか聞えないかの大きさでつぶやいてやった。

 見る見るうちに真っ赤になるクルト。

 「な、なぜそれを!!」
 
 手を口に当ててかなり動揺している。

 「ふふっ〜。起きてましたよ〜。さ、休憩終わり。仕事仕事♪」

 してやったので大満足。
 
 鼻歌歌いながら仕事場に向かおうとした。

 その瞬間。

 クルトが私の腕をぐっと引っ張って振り向かせたと思ったら、
 
 いきなりキスしてきた。
 
 しかも、角度を変えて何度も何度も、舌を絡ませだんだんと深くなっていく。

 「ん・・。」

 思わず声が出てしまった。

 唇が離れると力が抜けてへなへなと座り込んだ。

 「何してるのですか。時間が押してますよ。」

 いけしゃあしゃあと涼しい顔で言われてしまった。

 くやし〜!!

 悔しがっている私をうれしそうに見つめて、

 「さ、行きますよ。」

 とさし伸ばしてくれた。

 


 ねえ、クルト。

 いつまでも側にいてね。




 

 

 


  





  









    






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