1.全力疾走の先に

 

 

 柔らかい日差しの中、

 お気に入りの王宮ご用達の紅茶とクッキー。

 そして、大好きなDVDをソファーにゆったり座りながらのんびりと見る。

 

 「はぁ〜。」

 エンディングが流れるといつもため息がでてしまう。

 やっぱりいいよね、『美女と野獣。』
 
 何度見ても泣けるわ。

 ティッシュで鼻をかみながら、

 片手でDVDのリモコンを探す。

 後ろから彼がそっと渡してくれた。

 「あ、ありがと。」

 手にしたリモコンを操作しながら後ろを振り向くと彼が立っていた。

 「サラ様、そろそろ時間ですが。」

 あいかわらず、そっけないなぁ、もう。

 「ねえ、2人きりでラブストーリーの映画を見てるのに、

 ドキドキしたりとか、意識したりとかないの?」

 「仕事中ですので。」

 仕事中ねぇ。

 ううん、ラブストーリーの映画を一緒に見ながら気持ちを高めよう作戦もだめか。

 「わかった、違う手を考えてみる。」

 「それよりも、今日の講演後の行動についてもう一度考え直していただきたいのですが。」

 それよりもって、それよりもって・・・。そりゃあ、つれないでしょ。

 仕事のことを一番に考えるのはいいんだけどさ。はぁ。

 「だってあの件は何度も話したでしょ?どうしても乳児院に行って目で見て確認しておきたいの。」

 私は講演をしたあと、どうしても気になる施設を回って、今の福祉のことで確かめたいことがあった。

 「しかし、あの場所はあまりにも危険すぎます。」

 きっと、誰でも出入りが自由な場所は私を守るのに危険性がたかくなるんだよね。

 それはわかってるけど、どうしても福祉のことを少しでも充実させたかった。そのためには、
 
 多少自分が危険でもそれでも良いと思っていた。

 「それでも守るのがあなたの仕事でしょ?」

 これは、私が彼を信じてるから言えることであった。
 
 それをわかっているからこの一言で彼はいつも黙ってしまう。

 

 私はこの国の姫様をやっている。

 聞こえはかわいいものかもしれないけど、実際はそんなあまいものじゃない。

 もちろん、戦争とかクーデターとかあるほど、難しい国ではないけどそれなりに危険なこともある。

 国民は平和をもっとも愛してる温和な人ばかりで私はとてもこの国が大好きだ。

 小国だけど、緑や空気は綺麗だし、自然をみなとても大切にしていた。

 兄弟は兄が一人いるけど王族の決まりで16歳を過ぎたら男女関係なく国務に携わるようになり、

 スキップで入った大学と仕事を両立させて、毎日が激務とまではいかないけど忙しかった。

 今の私の仕事は主に福祉関係全般。世界中の福祉について勉強し、この国に生かして、

 もっともっとみんなが生活しやすいように変えていきたい。そう思いながら数年頑張ってきた。

 だから同じ年の子たちは恋愛で人生を謳歌していたときに、働いていたということに関しては文句は言わない。

 それが、王族であるゆえ、当たり前の人生だとおもっていたから。

 私が悲しかったのは恋愛が出来ないこと。

 好きな人に好きだと言えないこと。

 はじめは父上や母上のように国のために結婚するのが当たり前だと思っていた。

 それに2人は今でも熱々の夫婦だし。幸せそうだし。

 だけど、私には好きな人がいた。

 ずっとずっと彼だけを見て育った私は彼以外の人を好きになるなんて考えられなかった。

 我慢してこの思いを抑えて国のために結婚すべきだと思っていたけど、

 やっぱりおかしいなって思うようになった。

 何かが吹っ切れたように両親に聞いてみた。

 「私は好きな人と結婚は出来ないの?」

 両親はもちろん驚いたが、両親と兄が納得できる相手はこの国にはいないという。

 多分、身分のことをいってるのだろう。

 「国民には身分の差別がないように言ってるのに

 私たち王族は差別するの?それっておかしいと思う。

 私は、自分の心から愛した相手と結婚したい。

 愛に身分は関係ない!」

 と説得したためなんとか納得してくれた。




 が、しかし。その相手、うちの両親よりも手ごわい。

 小さいときから私の側にいて私を守ってくれていた。

 最初は兄と同じような感情だったけど、

 彼と一緒にいる時間が私にとって何よりも自分でいられるということが気づいた。

 お姫様とかじゃなく、一人の女として素直でいられる。

 素直に笑えたり、怒ったり、泣いたりできるのは異性で家族以外はなぜかこの人の前だけだった。

 クルト・ビュルゲナー。うちの国の護衛官所属新隊長、27歳。私とは10歳近く年が離れている。

 堅物でとおっており、独身。

 見た目は怖い感じがすると言われている。

 すらりとした手足と長身。

 まったく無駄のない筋肉。

 さらさらの短い黒髪に細い切れ長の目。

 眼鏡をしてそれがまたたまらなく似合っている。

 必要なこと以外、話すことがなく冷たい感じもする。

 実際、とても厳しく人に指導したりしているが、

 ちゃんとフォローしたり、影で努力しているところもちゃんと見ていてくれ平等に評価をしてくれる。

 私も何度もくじけそうになったとき、この人の一言で何度も救われた。

 そんな人が、彼の周りに自然と集まってくる。

 ゆえに、ライバルが多い・・・・。老若男女といったところだけど、

 まあ、しょうがないか。

 壁が高ければ高いほどやる気がでるから。みてなさい。

 

 
 とは言ったものの彼に私は、何度も何度も告白して玉砕している。

 両親を説得してから、速攻告白しにいった。

 「あなたが好きです。付き合ってください。」

 と、それはそれはストレートに。

 なのに、彼は、

 「申し訳ありませんがそれは出来ません。」
 
 の一言で終わらせる。

 何べんこのセリフを聞いたことか。

 理由を聞いても答えてくれず、ただ申し訳ありませんだけしか言わない。

 嫌いなら嫌いとはっきりいってくれればあきらめたものの、

 さすがに自分の仕えてるものに対してそんなことは言えないしね。

 わかってるけど、だけど彼をあきらめることができなかった。

 なぜだかわからないけど。

 だから、自分を磨くことに力を入れた。

 毎日、運動して無駄肉をつかないようにしたり、胸がおおきくなるような体操したり。

 馬鹿じゃ彼とは対等になれないから、勉強も一生懸命した。もともと、英才教育を受けて育ったから

 これに関しては問題ないと思うけど、念には念をいれて。

 政治から生活の知恵まで知識という知識を詰め込んで少しでも彼の役に立ちたかった。

 料理ももちろん習ったわ。コック長直々に。今では、どのジャンルの料理もつくれるようになった。

 恋愛に関しては小説や映画をたくさん見た。

 たくさん見たけど、こればっかりは練習するわけにはいかなかったから、

 どうも駆け引きってヤツがよくわからないけど。

 だけど・・・・。私がどんなに磨いても最近は見向きもしてないような気がしてならない。

 ここのところ、視線さえ合わせず会話をされてるような気がする。

 気のせいならいいんだけどな。

 最近の悩みはこればかり。

 さすがにちょっと凹んできた。

 「どうされましたか?暗い顔をして。」

 私のお付の侍女であり、親友でもあるアンジェが寝る準備を整えながら声をかけてきた。

 彼女は私が生まれた頃からの付き合いであり、私のことはなんでも知っている。

 「う〜ん。なんだか、うまいこといかなくってね。

 なんで、こうも恋愛対象にしてくれないのかしら?」

 彼女は私の一番の良き相談相手で、恋愛に関しては私よりもずっと先輩だ。

 「そうですね、意識してもらうために意表をついたことやってみるとか。」

 意表をついたことねぇ。

 「たとえば?」

 「姫様が絶対にやらないようなことで、喜ぶこと。」

 なんだろう。喜ぶことかぁ。

 男の人が喜ぶことってなんだろう。

 こればっかりは女の私にはわかりにくい。ということで、兄様に相談。

 仕事が終わって今頃は部屋でのんびりしていることだろう。

 早速、兄様の部屋に向かった。

 「兄様、聞きたいことがあるの。」

 読んでいた分厚い洋書を置いて私のほうをむいた。

 「どうしたんだい?オレに相談だなんてめずらしい。しかもこんな時間に。」

 「兄様は女の人からどんな風にされたらうれしい?」

 「そうだなぁ、ベッドで裸でお帰りなさいなんて言われたらメロメロだなぁ。」

 ベッドで裸・・・・。ベッドで裸・・・・。

 まったく予想外の答えに頭が真っ白になる。

 「まあ、こんなこと言ったらただのスケベ親父だね、オレ。冗談だからな。」
 
 という兄様の言葉はもう入っていなかった。

 ベッドで裸・・・・。

 かなり勇気がいるけど、インパクトは「大」ね。

 でも、ほんとに、そんなことで喜ぶのかしら。


 体を安売りしたくないし・・・・。

 「おーい、今の冗談だからなぁ。」(兄)

 遠くで兄様の声がするけど無視無視。

 とにかく、彼に気づかれずに、彼の部屋に入るのはどうしたものか。

 これは、かなりの問題だわ。

 でも、これをクリアできたら少しは気にしてくれるようになるかしら?

 「本気で誰かにするんじゃないぞ〜」(兄)

 「わかったわ、兄様。ご助言、ありがとう。」

 そうにこやかに言うとすぐさま兄様の部屋を退出した。

 裸はさすがに抵抗あるから、夜這いをしよう。

 ちがうちがう、お部屋で待ってて、それから・・・・。

 ドンッッ。

 考え事しながらあるいてたら、人にぶつかってしまった。

 これだから、頼りないと思われてしまうのかしら。

 「ごめんなさっっい?」

 声が、裏返ってしまった。だって、そこにはクルトが私の腕をつかんで立っていたから。

 「また、考え事しながら歩いてたのですか?」

 ちょっと、怒りながらクルトが言う。

 きっと他の人にはわからないだろうけど、クルトは怒るとき微妙に右の眉毛が上がる。

 「ごめんなさい、気をつけますわ。」

 そういいながら、足早にこの場を逃れようとするも、腕をつかまれて進めない。

 「?」

 「こんな時間に、どこに行かれるのです?」

 どこって、あなたのお部屋ですが。さすがにそれは言えない。

 言いづらくって下を向いてしまった。

 「あなたが、どこかの男性の部屋にいくのは別にかまいませんが、

 もう少し時間を考えてください。これじゃあ、夜這いしに行くと思われても

 仕方がありませんよ。」

 いつものように、無表情で淡々と話す。

 だって、夜這いしに行こうと思ってたんだもん。

 ちがうちがう、お話しにいこうと思ってたんだもん。

 それにしても、何度も告白してるのにどうして他の男のところに行くと

 思ってるのかしら。

 私のこの気持ちはどうして伝わらないのかしら。

 悔しい・・。

 クルトの襟をグッと私の方へ手繰り寄せ、彼のその薄い唇にキスをした。

 「私はあなたのところへ夜這いしに行こうとしたの。」

 涙が出そうになったけど、悔しいから睨みながら言った。

 さすがのクルトも私の行動に驚いたのか、ただ呆然としていた。

 「私はクルト以外の人を好きにならないし、眼中にもないわ。
 
 毎日のように、あなたに告白しているのに、

 他の男性がいるなんて思うのは私に対して侮辱だわ。」

 言いたいこと言って私は全力疾走で自分の部屋に戻った。

 まだ、何が起こってるのかよくわからないという顔をしたクルトを置いて。

 部屋に戻って枕を頭にかぶせて大声で泣いてしまった。

 悔しい。悔しすぎる。

 今まで何度も告白したのに。

 まるきり信じてなかったのだわ。

 もーーーーーーーー!!

 まるで子供みたいに大声でわんわん数時間泣いたらちょっとスッキリした。

 立ち直り早いのが私の特徴。
 
 スッキリしたら自分の行動を思い出してしまった。

 ・・・・・・・・・・・・。

 わたしったら。わたしったら。

 ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!

 なんてことしてしまったの!!自分からキスするなんて。

 恥ずかしすぎて部屋中を裸足でうろうろする。
 
 ああ、なんてことなんてこと・・・。

 しかも、一瞬だったから味わう時間もなか・・・ちがうちがう、それじゃあ、変態だわ。

 あ、でも、はじめてを彼にささげることが出来たから、

 私、しあわせかも。

 ・・・・・・・・・・。

 ニヤリ。

 インパクトあったよね、かなり。

 あのクルトが固まってたもの。

 さすがに「ベッドで裸」は出来なかったけど、同じくらいインパクトはあったはず。

 あとは、クルトが喜んでくれたかどうか・・・・。
 
 ・・・・・・・・・・。

 ま、いいわ。

 それは明日本人見ればわかるわ。

 明日がたのしみ〜。

 






 


  









    






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