8
いつもどおりの月曜日。
葵はいつものように屋上庭園に来ていた。
週末、リョウとリフレッシュしたためか、気分がよかった。
直の顔を見るまでは。
「おはよう、葵。」
「お、おはようございます。」
なんて顔色が悪いんだろう。寝てないのかな。
「顔色、ひどいですよ。大丈夫ですか?」
「・・・・・・。」
どうしたんだろう。
葵は直を覗き込んだ。
それと同時に、直は葵の両手首をつかまれた。
「な、なにするんです・・・・。」
抗議しようとした葵の唇に直は自分の唇を押し付けた。
びっくりした葵だがだんだん体が熱くなっていく。
乱暴だけどなんてあったかいんだろう・・・。
最初は触れるだけのキスがだんだん深くなっていく。
「ん・・・。んぁ・・・。」
葵は声が自然と漏れてしまった。
その声で直は唇を離した。
葵は潤んだ瞳で直を見つめた。
「オレ、あんなヤツに葵を渡さないから。」
あんなやつって・・・・。リョウのことでしょうか?
「オレ、絶対葵を離さないから。」
離さないって付き合ってもいないのに。
この人はなんて強引なんだろう。
「離さないって、まだ付き合ってもないでしょう?」
「でもあいつとも付き合ってないんだろう?この前、誰とも付き合って無いって言った!!」
だんだんと直の表情が険しくなってきた。
「誰とも付き合うつもりはありません。彼は特別な存在なんです。」
その『特別な存在』というセリフを聞いて直の表情がすっと暗くなった。
「じゃあ、オレの存在って葵にとってなに?ただの挨拶する程度の人?
ご飯を食べる仲間?なんなんだよ、それって。毎日、告白してたのに気にもとめてなかったのかよ。」
いつもと違う直の態度に葵は戸惑っていた。
「だって、あれってあなたにとっては挨拶みたいなものでしょう?」
「誰があんな恥ずかしいこと挨拶に使うかよ!オレは、オレは、葵だから・・・・。」
そこまで言うと直は急にため息つき、
「わかった。葵は信じてなかったんだね。」
そういって葵の横を横切って庭園を出て行った。
取り残された葵は呆然としていた。
今まで、のほほんとしていた直があんなに激しい人だったとは。
でもキスは優しくてとろけそうだった。
そっと唇と触りながらまだほてった体をさすった。
どうしよう。
ドキドキが止まらない。
静まれ、心臓。
もう、私は人を好きにならないって決めたんじゃない。
あんな思い二度としたくないって。
キスされたぐらいで動揺してどうするのよ。
これもきっと彼の作戦だ。そうに違いない。
でも・・・・・・。
いつも彼は真剣だった。
ちゃんと目を見て私に告白してきた。
それをごまかしていたのは私。
私に入り込んでこないように壁をつくっていたのだ。
毎日、毎日、彼は私の壁を崩していった。
すべて崩れ去ったとき、私はいったいどうなるんだろう。