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ガチャガチャ。
「葵〜。ご飯食べに行こう〜。」
かってに医務室に入ってくるもえ。
そう、あの日以来、彼女はたびたびココに入り浸っている。
どうも、葵の側はいごごちがいいらしい。
昼休みは一応直に気を使って就業時間になったらここに来るようにしている。
葵のほうはあんまり気にはしていなかったが。
「ごめん、今日は人と会う約束してるから・・・。」
「なになに、男?彼氏?」
「ああ、一応男の人ですが。」
「きゃあー。なに、彼氏いたのー!!直様はどうすんのよー」
もえはもう、直の気持ちが十分にわかっていた。
葵にあってよくわかったのだ。
彼女の周りはとても温かい。心が温かくなるのだ。
なかなか人にはなついてくれず常に「近寄るなオーラ」が出てるのだが・・・。
「直様って・・・。あの人とは私は関係ありません。」
ありゃりゃ。かわいそうに。直様。
「ふ〜ん。そうなんだ。」
「とにかく、私これから約束があるので失礼。」
そういうといつもよりちょっと化粧をした葵が出いていった。
葵は会社の近くの喫茶店で待ち合わせをしていた。
葵がお店に入ると奥のほうで手を挙げる男が一人。
先ほどから注目を浴びていた。
モデルのような容姿が人をひきつけていた。
「葵!!ここ、ここ!」
「ごめんね、リョウ遅くなって。帰ろうとしたとき人がきちゃって。」
「いいよ、そんなに待ってないし。それよりどこに行く?」
「そうね、うちでゆっくり話す?」
「いーねー。久しぶりだからいっぱいおつまみ買って行こう。
明日休みなんだよね?」
「うん、休み。だからゆっくりはなせるよ。」
珍しく葵がずっと笑顔で話している。
「そっか、じゃあ久しぶりに葵ん家に・・・・・。ねえ、あれだれ?」
葵がリョウが指したほうを見ると直がすごい表情で睨んでいた。
なんで、あの人がここにいるのよ・・・・。
「ただの知り合い・・・。行こうリョウ。」
そういって葵たちはお店を出た。
「で、ほんとのところはどうなの?」
葵の家についてすぐに聞かれた。
「ほんとって?」
「なにいってんの。あんたと何年付き合ってると思ってるの。
嘘ぐらいすぐにわかるわよ。」
そういってリョウは葵のグラスにビールを注いだ。
「だってなんにもないもん。ほんとだもん。」
「じゃあ、質問かえる。彼とはどうやって知り合ったの?」
葵は今までのいきさつを話した。
リョウにはすべて話すようにしているのだ。
「ふ〜ん。毎日ねぇ〜。」
「でも、彼にとっては挨拶みたいなものでしょ?
私、そんな人とはあんまり関わりたくないというか、恋愛そのものどうでもいいといか・・。」
「ねえ、まだあの人のこと引きずってるの?」
リョウの口からあの人という言葉が出ると葵は下を向いた。
「そうじゃないけど・・・・。でも恋愛は当分いいや。」
「でももうあれから三年もたつのよ。」
そう、三年。たかが三年、されど三年なのだ。
黙ってる葵にリョウはそっと手をつなぐ。
「葵がどうも思ってないのなら私がもらっていい?あの人。」
満面の笑みでリョウは葵にいう。
「それは個人の自由だから・・・。ぷぷ。」
「あ、ひっどーい。私には無理と思ってるんでしょう?
この美貌にかかれば彼もコロッと秒殺よ!!」
いつも、リョウはさりげなく葵を支えてくれる。
リョウの存在が葵は癒されるのだ。
「そうね、リョウに癒してもらうと彼もきっと・・・・・・。」
そういいながら葵は大爆笑してしまった。
「ひどいわね、葵。罰としてジョッキ一気だ〜!!」
そうして葵とリョウは夜通しお酒を飲み続けるのだった。
次の日、
「あっ痛・・・。」
さすがに昨日飲みすぎたのか葵は二日酔いという文字が頭に浮かんだ。
「あんだけ飲めばね。はい、ポカリ。」
先に起きたリョウが葵のエプロンをつけて朝ごはんを作ってくれていた。
光景的には逆のような気もするが。
この2人はたまにこうやって過ごした。
オカマであることをみんなにカミングアウトしたとき、
友達、家族までもが離れていった。
そんなリョウに対しまったく動じずにいつもと変わらないように接してくれたのは葵だけだった。
あるときは友達、あるときは妹、あるときは母親、
リョウにとってなくしたものを全部くれたのは葵だったのだ。
「ねえ、今日これからどうする?」
「そうねぇ、あ、冬物のブーツ買いたいんだ。」
「じゃあ、買い物にいって帰りに『m』でケーキ食べてかない?」
「いいねぇ、それ乗った。」
「じゃ、早くご飯食べて出かけよう。」
休みの日はいっぱい遊んでいっぱい笑ってほしい。
もう二度と三年前のような葵に戻ってほしくない、
リョウは葵をみながらそう思っていた。