18




 
 「今からいつものところに行かないか?」

 いつものところ?

 首をかしげてる私を彼はまたにこにこしながら手を引っ張って店を出た。

 店をでて、車に乗っても彼は行き先を教えてくれなかった。いつものところって言うことは

 会社だよね・・。でも、この時間はもう会社は開いてないはずだし。

 相変わらずニコニコしている彼に

 「一条さ・・・・。」

 と言おうとしたらキスされた。

 いつもこの人は突然キスをする。

 そしてにっこりとやわらかく微笑みながら、

 「運転中だとわかっててもね、君がいるとどうしてもキスをしたくなる。」
 
 どどどどうして、この人はこう歯の浮くようなことばっかり言うのでしょうか・・・・。

 「わ、わかってるのなら止めてください。」

 そういうのが精一杯だった。

 真っ赤になって下を向いた私をニコニコながめて運転を再開した。

 ああ、もう、きっと何をいっても今はだめなんだろうな。

 車を会社の重役が置く駐車場に止めた。ああ、そうか、この人はお偉いさんなんだ。

 そう思いながらぼーっと彼を見つめた。

 「もう、オレの正体、知ってるよね。」

 コクンと頷く。

 頷く私を促しながら会社の中に入っていった。

 警備のおじさんは私たちを見て少し驚いてたけど

 「お疲れ様です。」

 といってすぐに通してくれた。

 きっと彼はこうやって時間外に仕事場によく戻ってきて遅くまで仕事してるんだろうな。

 静かな廊下が私たちの足音を声だけが響いている。

 「じゃあ、オレがどんな仕事してるか知ってる?」

 「食堂作り変えたり・・・?」

 私の言葉にププッと吹き出した。

 あの、まじめに話してるんですけど。

 「まあ、間違いじゃないけどさ。」

 笑いながらエレベーターのボタンを押した。
 
 「簡単にいえば、会社のいやなところを大改造することなんだ。みんなが

 仕事しやすい環境を作ろうとしたり、会社の裏の面をチェックしたり。」

 話してるうちに屋上庭園についた。

 彼がドアを開けると真っ暗のはずの庭園は綺麗にライトアップされていた。

 夜は初めて見た。こんなに綺麗なんだ。

 もうすぐクリスマスだからかわいいクリスマスツリーもある。
 
 まるでどこかの外国みたい。

 「毎日、毎日、会社のいやなところばっかり見てさ。わかってはいたけどさすがに辛かった。」

 私の手を引いてツリーがよく見えるベンチに座らせた。

 「そんな時、葵に会った。ほんとうはずっと前にあったことがあるんだけど・・・。」

 え?いつ?

 「まあ、その話はおいといて・・。葵がオレに笑いかけて飲み物くれたろ?
 
  オレ、あの瞬間から葵のことが好きだ。葵のこと、好きでたまらないんだ。」

 まっすぐに目を見つめながら真剣な目で彼は言った。

 何度も同じセリフを聞いた。

 毎日、毎日、彼は私に言った。

 そのときは冗談だとばかり思ってたのに。

 いつも本当のこと言ってくれていたんだ。

 彼は私に真正面からぶつかってくれてた。

 いまなら、素直に言える。

 「私もあなたのことが好きです。」

 あなたにたくさんのやさしい気持をもらった。

 あなたにたくさんの愛情をもらった。

 私にあなたを支える力はないだろうけど、
 
 ずっと一緒にいたい。

 この気持ち、伝わってほしい・・・・。

 そっと、彼に抱きつきながら気持ちを込めた。

 私たちの上には綺麗なクリスマスツリーが輝いていた。















  











  
 






inserted by FC2 system