13
3年前、私はとあるお金持ちの息子と付き合っていた。
その彼とは高校からの付き合いの延長だった。
性格は自分が一番じゃないと気がすまないという我侭が強い人間だったが、
私には優しく、我侭も別に苦ではなかった。
私がだんだんと仕事が忙しくなりなかなか合えなくなると彼は私を束縛し始めた。
夜勤であえないと言ったらそんな病院なんかやめろとまで言われるようになった。
私は仕事がだんだん楽しくなってそんな彼の言い分をもちろん聞くわけでなくどうにかなだめて仕事に行っていた。
もちろん、彼にも仕事はあった。大学出た後は実家の会社をついでいたが、
仕事が自分の思うようにならないと休んだりし、その休みに私も付き合うように言ってきたのだった。
そんな彼に対し私は愛情が薄れていっていた。
それに気づいたのか、私が浮気したと疑うようになった。何度違うと言っても彼は聞こうとしない。
そのうち、私の行動を口にするようになってきた。
「今日は〜にいたね」とか、「〜時ぐらいに○○といたけどどこに行ったの?」と。
不思議に思って彼に問い詰めると探偵を雇って私を見張らせたという。
やめるようにいってもなかなかやめてくれず、だんだんとエスカレートし、
誰とどんな話をしたなどまで把握するようになった。
彼の行動についていけず、別れを告げてもとりあってもらえなかった。
それどころか、家に忍び込んで葵の帰りを待つようになったのだ。
何度も、何度も彼と話し合ってやっと分かってくれ分かれたと思った時、
その彼は私の部屋で自殺をしていた。
私宛に遺書があり、「もう君はこれで一生僕のものだ」と書かれてあった。
幸い、すぐに発見したため未遂でおわり命に別状はなかった。
彼は治ったあと、親の言いなりで海外に転勤してしまいもう二度と会うこともなくなった。
この出来事のおかげでしばらく葵は口がきけず、部屋から出ることが出来なくなってしまった。
家族や、友人達は葵をただ見守ることしか出来なかった。
ただリョウだけが葵を外にだそうと連れ出していた。
リョウの支えあって徐々に自分を取り戻し前に進むことができたのだ。
葵にとってもリョウは家族以上の存在だったのだ。
半年かかって外にでれるようになってやっと病院にかかるようになった。
カウンセラーや病院に通い、やっともとの生活が出来るようにはなったが、
心の傷はそんなに簡単には治らなかった。
もちろん、人と恋愛するなどもってのほかだったのだ。
ここまで、話して葵は息をついた。
直は黙って葵を見つめている。
葵は直がどう思っているのか不安だった。でも、ここで止まるわけにはいかない。
「私は彼の行動が怖いと思うのと同時に、もし、私が仕事仕事というふうにならなければ
彼はあんなことしなかったかもしれない。不安にならなかったかもしれない。
毎日、患者さんにはちゃんと耳を傾け話を聞こうとしてたのに
身近な人物に肝心なときに耳を傾けられなかった自分が情けないんです。
彼はとてもお金持ちで両親も立派な人たちでしたが寂しい家庭環境でした。
そんな彼の話を聞けたのは自分しかいなかったはずなのに・・・・・・・・。
なのに彼の話を聞くどころか追い詰めてしまって。
私という人間に関わったあまりに人生誤ってしまって・・・・・。」
「だから、自分だけ幸せになれないからオレとはつきあうことができないっていう答えになったの?」
直の言葉にただ頷くしかなかった。
「最初は、まあ、ナンパか何かとおもいましたけど。でも、毎日毎日私のところに来てくれて、
それを待っていた自分がいました。だけどどうしても自分だけが幸せになるのは出来ないんです。」
葵はそういうと下を向いてしまった。
膝の上においていた両手は緊張のあまりか、真っ白になっていた。
白いばかりか、少し震えていた。
そんな、葵の姿を見て直は彼女をそっと抱きしめることしか出来なかった。