10
さわやかな土曜日の朝。
そしてさわやかな笑顔の直。
彼は鼻歌を歌いながら朝食を作っている。
それにしても今朝はびっくりした。
思わず大声を出すところだった。
彼があわてて手で口をふさいだからよかったものの。
服を着ていたのを見たら心底安心し、ちょっと落ち着いたけど。
なんで私はここにいるの?
うーん。昨日はもえと飲んでいて・・・・・・。
「さあ、どうぞ。」
まるでお母さんのように朝食を並べた。
「・・・・。いただきます。」
朝から、こんなに食べられないだろうぐらいの量だが出されたものはきちんと食べる主義。
二日酔いにならなくてよかったよ。
「おいしい?」
「はい、おいしいです。」
て、立場逆だよね。私が作って出すべきでしょ。
「よかったよ。葵のお弁当見る限り料理上手だからさ。オレは自己流だからね。」
「料理上手なんですね。」
その言葉ににっこり微笑む直。
その笑顔、心臓にわるいですよ・・・・。
全部食べてしまって片付けは二人でやった。
私がやるって言ったのに二人でやった方が速いからって。申し訳ない。
落ち着いてコーヒーを飲みながら昨日のことを聞くことにしたんだけども。
「あの・・・・。」
「ん?」
なぜか、私は直さんに後ろから抱きかかえられるような位置にいる。
「なんでこんな体勢なんでしょうか。」
「こうしたいから。」
・・・・・・・・。もごもごしながら腕を無理やりほどいた。
「昨日は大変お世話に・・・・。なったんでしょうか?」
私がそういうと大爆笑される。
「普通、お世話になりましたっていわない?」
だって覚えてないんだもの。むう。
「え。覚えてないの?どこまで覚えてるの?」
しばし、思い出す。もえにずいぶんと飲ませられたのは覚えている。
生チュウ5杯飲んで、カクテル7杯飲んで、日本酒を熱燗で5本飲んで・・・・。
「君はお酒ザルなんかい。」
「いえ、まあ多少は病院で勤務してたときに鍛えられたのはありますが・・・・。」
話が脱線しちゃった。そのあと、悲しくって泣いてたんだよね。
「なんで泣いていたのか覚えてる?」
・・・・・・・・・・。もえによしよしと頭なでられたのは覚えてるんだけどな。
「まったく、覚えてません。」
その言葉に大きく直さんはうなだれた。
な、なんで?そんなにひどいことしたの?
「覚えてないのか・・・。そうか、そうか。はぁ。」
「あの、私そんなに失礼なことしたのでしょうか。それなら謝ります。ごめんなさい。」
深く頭を下げても彼はうなだれていた。
「あ、あの・・・。」
「そうだよな、おかしいとは思ったんだ。だけど葵が酔ってないって言ってたし・・・。
まあ、酔っ払いはみんな酔ってないって言うもんな。はぁ。」
私、いったい何をいったのーーーーー!!!
「君がかなり落ち込んでるって聞いたから迎えに行ったらニコニコして座ってるし。」
ああ、直さんが迎えに来てくれたのか。居酒屋の入り口に立ってたのは見た覚えがある。
「でも様子がおかしいから引っ張り出そうとしたら酔っ払って足元おぼつかないし。」
ああ、こんばんわって挨拶したのを思い出した。
「だから抱きかかえて連れ出したら寝ちゃうし。」
ああ、ふわふわして気持ちよかったのを思い出した。
「家がわからないから俺んちにつれてきて起こしたんだ。そしたら・・・。」
え?そこからまったく記憶がない・・・。
「しばらく会えなかったからさびしかったとか、私は二股なんかいやだとか、
男なんか信用したくなかったのにとか叫びだして・・。」
もう、聞きたくなくなってきた。
「でも、あなたと一緒にいると毎日が楽しいって抱きついてきたのに。」
ぎゃーーーーーー!!
「そんなことをそんなことを言った覚えないです!!」
真っ赤になって否定しても酔った時のことなんで説得力無く。
「酔ったときは本音が出るんじゃないのか?」
とニコニコ顔で言われてなにも言えなくなってしまった。
静かになった私を彼はゆっくり抱きしめた。
「葵の中で何かいやな出来事があったのはなんとなくわかった。
だからオレに壁をつくろうとしてたのもわかった。
だから毎日毎日壁をちょっとづつ崩せたら・・・と思って君に会いに行ったよ。」
直の声が私の心に落ちてきた。
「いつか君がオレに心を開いてくれたらそれでいいやって。時間なんか関係ないって。
君がオレを信用してくれるならどんなことだってやれるよ?」
両手でそっと大事そうに私の頬をさわった。
とても暖かい手だった。