04 美女、野獣にかみつかれる。







 私と、野獣もとい、専務の距離はわずか30cm。

 睨んでみても笑顔は変わらない。

 「離してもらえませんか、専務。」

 ニコニコ。

 「聞いてますか?」

 ニコニコ。

 「専務!」

 「ああ。聞いてるよ。」

 とても人の話を聞いているようには見えませんが。

 「じゃあ、どうして・・・。」

 ニコニコ。

 ・・・・・・・。

 おかしい。おかしいから、この人。

 う〜。

 う〜ん。

 えいっと専務の胸を押してみてもびくともしない。

 何気に、筋肉付いてていいガタイかも。

 ぺたぺたと思わずさわってしまう。

 「僕の体に興味がありますか?」

 はっ。

 しまった。

 つい、触ってしまった。

 両手を挙げて降参のポーズをする。

 「ぷっ。」

 あ、笑われた。

 何気に笑顔はまぶしいのね。

 キラキラしてるよ。おもわず、見つめてしまった。

 「君は本当に面白いね。」

 そういって頬に触れるか触れないかぐらいのキスを落として

 自分の席に戻った。

 











 わからない。

 まったくもってわからない。

 なぜ、こんなことをするのか。

 キスをした後は、何事も無いように仕事をする。

 私も仕事をする。

 なんだか、からかわれたみたい。

 まあ、20代にもなって、ホッペにキスされたぐらいで動揺するのもおかしい。

 それに、彼はイギリス人と日本人とのハーフ。
 
 これくらい、挨拶みたいなものだ。

 そう、これは挨拶なのだ。

 自分の中で自己解決したらすっきりし、仕事も進んだ。

 あっという間に、仕事が終わりこっちのほうもすっきりした。

 「あなたのおかげでずいぶんと早く終わりました。」

 データーをロムに落としながら書類をまとめ、帰り支度をする。

 「お役に立てたようでよかったです。それでは失礼します。」

 ヤツが帰る前に帰らないと。逃げないとね。

 「今日は自分の車で来ているので送りますよ。」

 「けっこうです。」

 そんなこと、専務にさせられないでしょ。何されるかわからないし。

 「遠慮しないでください。さあ。」

 いつの間にか帰る準備を終わらせている専務がドアの前で待っていた。
 
 う、負けてしまった。

 それが顔に出ていたのかクスクスと笑われた。

 感じ悪いぞ、専務。

 



 

 車に促される前も、もう一度抵抗したが無駄だった。
 
 「諦めがわるいですよ。」

 やや、押し込められるように助手席に座らせられる。

 ひどいなぁ。

 「お腹空いてませんか?何か食べて行きます?」

 静かなエンジン音だなと感心していたら隣から声がした。

 「けっこうです。」

 ご飯なんか食べてたらなに言われるかわからん。

 「そんなに、警戒しなくても・・・。」

 「けっこうです。」

 強く言ったらしゅんと悲しそうにした。

 まるで、犬が怒られたように。
 
 言い過ぎた・・・かな?

 静かになった車内は気まずい空気が。

 「じゃあ、ちょっとだけ。」

 軽く食べるくらいなら・・・・。

 





 ニヤリ。







 あ、今ニヤリってした?ニヤリって。

 「華ってほんと学習能力ないですね。」

 ・・・・・・・。

 もしかしてまただまされましたか。

 そして何気に呼び捨てのような気がするんですが。

 「まあ、そこがかわいいんですけどね。」

 そういって肩に手を回された。

 そして、首に吸い付いてきた。
 
 う、そこは。

 「これは虫除けです。」

 吸われたところを右手でおさえる。

 首筋がなんだかやけに熱い。

 「な、な、な、な、なにすんですかー!」
 
 「だから、虫除けです。」

 虫除けって虫除けって!

 「あなたが一番の害虫でしょうが!」

 私の発言にも鼻歌を歌いそうなくらいにニコニコして。

 「あはは〜。まったく、かわいいですね。

 食べちゃいたいくらいですよ。」

 そういって再び首筋に近づいてきたと思うと

 パクッと軽く耳を噛み付いた。





 ・・・・・・・・・・・・。






 ぎゃー!!!






 たべられたーーーーーーーー!!





 なんなのよ、この人。

 人に吸い付いたり、噛み付いたり。

 パニック状態になり、なるべくヤツから離れたところに座る。

 といっても助手席だからたかがしれてるけど。

 私がごそごそしていたら、

 「そんなにうれしかった?」

 なんて言いながら楽しそうにしている。

 「うれしくなんかありません!」

 と、どんなに訴えても鼻歌歌ってるし。

 私は、シートベルトを握り締め、うるうるする涙をこらえながら、

 外を眺めてこう小さくつぶやいた。

 「だ、だれか助けて・・・。」
 

 

 

  
 
 

 

 




 

 

 

 

 

 
 

 
 

 
 


  









    






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